現在のエクアドルやペルー周辺に住んでいたシュアール族は、人間の首を「ツァンツァ」と呼ばれる干し首に加工する宗教的文化を持っていました。ところが、ツァンツァに興味を持ったヨーロッパ人が買い取り始めたことで、ツァンツァは儀式としてだけでなく商業目的でも作られるようになり、現存するツァンツァは両者が混在しているとのこと。新たにカナダやエクアドルの研究チームが発表した論文では、CTスキャンでツァンツァを分析することにより、どれが本当に儀式的な目的で作られたものか判別できる可能性があると示されています。
Correlative tomography and authentication features of a shrunken head (tsantsa) | PLOS ONE
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0270305
Not All ‘Shrunken Heads’ in Museums Are Real. But There’s a Way to Tell
https://www.sciencealert.com/not-all-museum-shrunken-heads-are-the-real-deal-this-method-could-tell-us-which-are
ツァンツァとは、現在のエクアドルやペルーに住んでいたシュアール族が作った、人間の首を加工して乾燥させた上でさまざまな装飾を施したものです。ツァンツァを作ったのがシュアール族だけだったのか、それとも周辺の部族にも存在するものだったのかは諸説ありますが、民族史家はツァンツァを作る儀式は16世紀までさかのぼると推定しています。首をツァンツァにすることで個人の魂を閉じ込められると考えられていたそうで、ツァンツァに加工されるのは部族にとっての敵の首だったとされてきましたが、現代のシュアール族は尊敬されていたコミュニティリーダーの首もツァンツァに加工されていたと主張しています。
ツァンツァを作る儀式については明確な記録が残っていないものの、基本的な製作工程は以下のように考えられているとのこと。
・頭を首の付け根で切断し、頭皮を竹のナイフや鋭い石、貝殻などで切り開いて頭蓋骨を取り除く。
・頭部の皮膚を最大2時間ほど煮沸して微生物を殺し、肉を収縮させる。
・顔と頭を裏返して可能な限り結合組織を取り除いた上で、ヤシの繊維で目を縫い合わせたら表裏を元に戻す。
・最後に熱い岩と砂で内部を埋め、口や切開部を竹でふさいだり繊維で縫い合わせたりして乾燥させる。
こうして作られたツァンツァは誰かが持ち運ぶのではなく、ポールからつり下げられていたそうです。
19世紀初頭から半ばにかけてシュアール族との交易を始めたヨーロッパの入植者らは、エキゾチックな文化的遺物としてツァンツァに興味を持ち、金銭で買い取って世界中のコレクターに販売するようになりました。需要の高まりと高額な報酬に誘惑され、シュアール族はもともと存在したツァンツァを売るだけでなく、ヨーロッパ人への販売用に商業目的でツァンツァを作るようになりました。商業的に作られたツァンツァの中には、ブタ・サル・ナマケモノといった人間以外の動物を加工したものに加え、地元の病院から横流しされた引受人のない遺体を加工したものもあったとのこと。
記事作成時点では世界中の博物館にツァンツァが所蔵されていますが、儀式的に作られたものと商業的に作られたものを見分けるのは簡単なことではなく、中には本物のツァンツァであっても何らかの理由で動物を加工したケースもあります。それでも、頭部の解剖学的構造や切開部、目や耳の形状、縫合に使用した糸などの要素を分析することにより、ツァンツァが儀式的に作られた可能性が高いのか、それとも商業的に作られた可能性が高いのかを推定することができるそうです。
そこでカナダのウェスタン・オンタリオ大学とエクアドルのサンフランシスコ大学キト校の研究チームは、実際にカナダのチャタム・ケント博物館に所蔵されている「チャタム・ツァンツァ」と呼ばれるツァンツァを、複数のCTスキャンによって分析するという実験を行いました。今回の実験に使われたチャタム・ツァンツァの写真がこれ。
実験の結果、チャタム・ツァンツァは確かに人間の頭部を用いて作られており、いくつかの特徴は儀式的なツァンツァと一致するものの、一部の特徴は商業的なツァンツァと一致していることが確認されました。研究チームは総合的に見て、儀式的に作られたものではない可能性があると述べています。
研究チームは、儀式的なツァンツァと商業的なツァンツァを分ける明確な線引きはなく、あくまでスペクトル上に存在する可能性が高いため、明確に定義することは困難だと指摘。それでも、CTスキャンなどの非破壊的な方法でツァンツァを分析し、どのような来歴にものかを推測することは、博物館の倫理的なキュレーションおよび展示にとって重要だと主張しました。
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