細巻きは細い。いろんな種類がたくさん食べられてお得だ。
その理屈ならより細い細巻きはもっとお得、ということになる。
友達の寿司職人に限界まで細い細巻き、「極細巻き」を作ってもらいました。
最初はシャリ作りから
細い細巻き「極細巻き」を作るために、普段料理をしない自分のサポートとして、友人の寿司職人Mさんを呼んだ。
ついでに私も寿司屋の白衣を装着した。何事も形から入るタイプなのだ。
私の着ている白衣も、Mさんが撮影のために準備してくれたものだ。さすが寿司職人、細かい気遣いを忘れない。
まずは基準となる通常サイズの細巻きを作っていく。作るのは全てMさんなのだが。
食材はすべてMさんが近所のスーパーで購入したもの。しかも、ご飯はパックのご飯。弘法筆を選ばずとはこのことだ。
Mさんは「30分寝かせる前の段階シャリは美味しくなければ美味しくないほどよい、寝かす間に美味しくなるのが良いシャリだ。」と言っていた。
「ちょっと言い過ぎかもしれない」とも言ってた。どっちなんだ。でも、職人っぽいことを言いたかったのだろう。わかる、私も職人っぽくカッコいいことを言いたい。
最初に巻いてもらうのは普通サイズの細巻きだ。使うネタは細くすることを念頭に加工しやすいネギトロをチョイス。
Mさんは「海苔の、のり代」というダジャレで自分で言って自分でゲラゲラ笑っていた。
少し不安になった。
スーパーの細巻きもMさんの細巻きも直径は約3.0cmであった。
さてここから、どれだけ細くできるのだろうか。「極細巻き」への挑戦が始まる。
2.5cm、2cm、1cmと細くなっていきます
細巻きをより細くする方法として、まずはネタの量を変えずにシャリの量だけを減らす方法を採用した。ネタを少なくすると寂しいので……。
直径は通常の3cmの細巻から0.5cm細い2.5cm。理性の働く範囲でのシャリの減らし方ではまだまだ「極細巻き」とは言えない。
もっと常識を超えた減らし方が必要そうだ。
「次はMさんの理性の限界まで、シャリと具材を減らせないですか?」そうお願いしたところ……
海苔の面積の半分がのり代になってしまった。
ネギトロも切ったときに見える箇所にしか入れない極悪非道っぷり。お願いした自分もなんだか罪悪感を覚えてきた。
握った張本人が大笑いしてしまう、前代未聞の寿司が生まれてしまった。
計測したところ直径は約2cm。
通常の細巻きの2/3のサイズだ。断面にはシャリがわずか10粒程度しかない。まさに極細である。
しかし、これが限界なのだろうか。ここで満足してられない。私は「これ以上細くすることできますか?」と禁断の言葉を口にしてしまった。
しかし、ここでMさんから「待った」がかかった。
安心してほしい。私の蛮行ともいえる指示に怒ったわけではない。
「形が三角形気味で、巻き寿司のあるべき形である四角形になっていない、これは巻き寿司とは言えない」とのことだ。
こちらの写真を見てほしい。
Mさんの「三方から押さえられないと細巻きとは言えない」というジャッジにより、1cmの細巻は細巻きという概念から外れたのであった。
今回の検証では最小の細巻きは2cmという真実にたどり着くことができたのだ。
限界まで細い細巻きを食べる
では味はどうだろうか。
Mさんにさらに直径2cmのネギトロ、鉄火巻き、カッパ巻き、お新香巻きの4種類を作ってもらった。
ピクニック気分で近所の公園に行き、ピクニック気分で食べようと思う。
まず先に、寝かすことで美味しくなるとハードルを上げた例の赤酢のシャリだが、本当に美味しくなっていたことをお伝えしたい。
その上で、直径2cmの極細巻きをいよいよ食べてみよう。
鉄火巻き、お新香巻き、かっぱ巻き、納豆巻き、どれも味が一瞬で通り過ぎて、食感のみが口に残留していった。細巻きの面影だけを感じた。
細すぎる細巻き、「極細巻き」は食感も形もちゃんと細巻きで当初の狙い通りたくさん食べれる存在になった。
だが味が儚げだ。この儚げな味が「極細巻き」の長所だと私は捉えてあげたい。