融解しつつある氷河から1000種近くの「未知の微生物」発見、新たなパンデミックの引き金になる可能性も

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チベット高原の氷河の中から、未知の微生物を1000種類近く発見したとの論文が、科学誌のNatureに掲載されました。気候変動により、人類が出会ったことがない太古の微生物やそのDNAが解き放たれることで、新たなパンデミックが発生する危険性があると研究者らは警鐘を鳴らしています。

A genome and gene catalog of glacier microbiomes | Nature Biotechnology
https://doi.org/10.1038/s41587-022-01367-2

Never-before-seen microbes locked in glacier ice could spark a wave of new pandemics if released | Live Science
https://www.livescience.com/hundreds-of-new-microbes-found-in-melting-glaciers

氷河の中から新種の微生物を多数発見したのは、中国科学院の研究チームです。研究チームは、2016年から2020年の間にチベット高原の氷河21カ所から氷のサンプルを採取し、その中にあるDNAを解析。氷の中に閉じ込められていた微生物ゲノムのデータベースである「Tibetan Glacier Genome and Gene(TG2G)カタログ」を作成しました。氷河の中にいる微生物群の遺伝子配列を特定してデータベースにする研究は、これが初めてだとのこと。


この研究により氷河の中から見つかった微生物は968種で、その大半は細菌でしたが中には藻類・古細菌・真菌も含まれていました。しかも、968種のうち約98%は完全に未知の新種だったとのこと。氷河という過酷な環境の中からこれほど多様な種が見つかったのは予想外で、研究チームは論文に「低温や厳しい太陽放射、周期的な凍結と融解のサイクル、栄養の制限といった極端な環境条件にもかかわらず、氷河の表層は多様な生命を支えています」とコメントしました。

今回見つかった微生物がどの時代のものか正確には分かっていません。研究チームは、最大で1万年間氷の中に閉じ込められていた微生物を復活させることが可能なことが先行研究により示されていると指摘しています。

1万5000年前から眠る新種の古代ウイルスが氷河の中から発見される – GIGAZINE


氷河の中にいた微生物は未知の種でしたが、その中には人間や他の生き物にとって非常に危険なものがいることが分かっています。研究チームによると、今回作成されたTG2Gカタログの中には、病原性因子の候補となる物質が2万7000個も含まれているとのこと。これらの病原性因子の約47%は未知のものであるため、氷河の中に潜む微生物がどれだけ危険かを知るすべはないと研究チームは警告しています。

また、微生物の中には病原性因子や遺伝子を可動遺伝因子として取り込む能力を持つものもあります。そのため、もし融解した氷河の中にいた微生物が生きていなくても、その病原性因子が現代の微生物に継承されるおそれもあるとのこと。特に、チベット高原の氷河は中国の長江や黄河、インドのガンジス川など世界で最も人口が多い2つの地域の水源に流れているため、将来の新たなパンデミックの発生源になるのではないかと危惧されています。

また、この問題はチベット高原だけのものではありません。地球上には世界の陸地の約10%を占める2万以上の氷河が存在していますが、それらの氷河の衛星写真を分析する2021年の研究では、地球上のほぼすべての氷河が加速度的に減少しており、世界各地で氷河の中に眠る微生物が解き放たれている実態が明らかになっています。

こうした点から、研究チームは論文の中で「これらの微生物がもたらす潜在的な健康リスクを評価する必要があります」と訴えました。

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