スナップ社(Snap)が現在尽力しているのは、ラグジュアリーブランドの没入型体験を作り上げ、拡張現実によってファッションの魔法をもっと多くの人々に届けられるようにすることである。
カンヌライオンズでのARを使った没入型展示をサポート
物理的な没入型のデザイン展覧会はファッション業界において長い間成功を収めてきた。たとえば、2015年に50万人弱の来場者を記録したヴィクトリア&アルバート博物館でのアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)の回顧展がある。このようなイベントの成功を定義したものは規模やストーリーテリング、没入感であるが、パンデミック後に多くの顧客から求められている体験に応じて、業界はこれらの要素の優先順位を見直している。
Advertisement
以来、展示形式は再考されており、ARを介したスナップのテクノロジー要素が取り込まれている。今年ローンチしたこのサービスはこれまでに2つの展覧会で試行されている。それは、6月20日〜6月24日に開催されたカンヌライオンズでの「身体の再定義(Redefining the Body)」展と、ロンドンのサーチギャラリーで開催中のティファニー(Tiffany)の「ビジョン・アンド・バーチュオシティ(Vision and Virtuosity)」展である。
スナップは、仮想試着からオンラインショッピングまで複数のファッション分野にわたってAR技術を統合している。今年の目的は、オンライン市場でのサービスを開発することに加えて、デザイナーの展示にも拡大することだ。「身体の再定義」展では英国ヴォーグ誌と独占提携し、ヴェルサーチェ(Versace)、ステラ マッカートニー(Stella McCartney)、バレンシアガ(Balenciaga)といったデザイナーのディスプレイに拡張現実を統合した。スナップによると、カンヌライオンズでのこの展示には連日数千人が来場したということである。
「カンヌでの経験では、(スナップが)より多くの人々が使っている新しいツールにどう移行するのかを考えされられた。拡張現実は、とくにSnapchatでは世界的に急成長しており、日々拡張現実に関与している人々は2億5000万人を超えている」と、スナップのグローバルラグジュアリー責任者、ジェフリー・ペレス氏は述べている。
各ブランドの個性を際立たせた世界をAR体験
カンヌライオンズでの目的は、物理的なディスプレイとARディスプレイの両方を通じて各デザイナーのオリジナリティを押し出すことであった。来場者が歩いて観られる物理的な展示には、ステラ マッカートニーの2022年春の菌類コレクションからそのテーマを表現した巨大なプラスチック製のキノコをかたどったアイテムや、2010年春のコレクションからのフリルドレスを着用したマネキンが置かれた。また、顧客が拡張現実で作品を試着できる仮想ミラーもあった。ほかの仮想ミラーについては、ロレアル(L’Oréal)などのブランドがメタバース統合の一環として試しているところである。
この展示の3つ目の体験は、ARが展示にオーバーレイする仮想アニメーションだった。来場者は携帯電話を自分のまわりに動かすと、物理的なキノコの上に仮想キノコが成長するところが見られた。また、会場のセントル・ダール・ラ・マルメゾンのファサードの上にはアニメーションが備えられ、来場者は入場する際にスナップアプリを使い、ARでそのアニメーションを見ることができるようになっていた。
スニーカーやネックレスのAR試着体験の成功例
このような体験の拡張は、ARによる試着をより現実的にして投資収益率を高めたいブランドと組んだスナップの継続的な取り組みの一環である。ペレス氏によると、2020年に開始したグッチ(Gucci)のスニーカーの試着では広告費の見返りがプラスになったという。「スニーカーを試着するために1800万人がグッチに入店するのに、どれほど時間がかかるのだろうか。我々にとっては3週間だった」とペレス氏。また、スナップは昨年ディオール(Dior)と協働、スナップのARレンズを通してディオールのB27スニーカーを宣伝した。ペレス氏は、このARレンズのスニーカーの試着では広告費の6倍の見返りがあったと述べている。
英国のヴォーグ編集長で「身体の再定義」展のキュレーターを務めたエドワード・エニンフル氏は、Glossyに次のように語っている。「ARテクノロジーによってデザイナーの作品に誰でもアクセスできるようになり、ファッション界におけるインクルーシビティの向上への大きな一歩になっている。ファッションの世界に足を踏み入れる機会を人々にもっと提供すること、つまり、作品を着ていることを想像するだけではなくARによってそれが実現できるのはブランドと消費者との関係にとってエキサイティングな機会であり、編集者としての私にとっても同様である」。
同じタイプのARテクノロジーは現在ロンドンで開催中のティファニー展に統合されている。ティファニーはSnapchatと協力して、来場者に可能になる体験をカスタマイズした。来場者は、携帯電話のQRコードを使って、ARのダイヤモンドビルのファサードにあるディスプレイを「ロック解除」して、展示の1室でティファニーの有名なイエローダイヤモンドのネックレスを試着することもできる。これを実際に身につけた女性はビヨンセ氏やオードリー・ヘプバーン氏など4人しかいないが、拡張現実体験ではティファニーアプリを使って誰でも試着することができるのである。
「また、スナップの『カメラキット』をティファニーのアプリに統合した。アプリを使うとティファニーのあのネックレスを試着することができる」とペレス氏は言う。これと同じ体験とテクノロジーが将来の統合で使われる予定である。これは、スナップのAR体験が、将来ブランド主導のAR展覧会の構成要素に影響を与える可能性があるということを意味している。
[原文:Snap’s AR feature expands to immersive exhibit activations]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)