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ある意味、現在は2020年の初めに戻ったように感じられる。
少なくとも、経済に関してはそうだ。株価は2020年3月以来、最悪の月間下落率を経験し、シリコンバレー(Silicon Valley)の大手ベンチャーキャピタル企業であるワイ・コンビネータ(Y Combinator)は自社のポートフォリオ企業に対して、「最悪の事態に備えて」ランウェイを延長するように、文書で警告を発したが、それは奇妙にも、約2年前にセコイア(Sequoia)が発行した「ブラックスワン(Black Swan)」文書を思い出させるものだった。クラーナ(Klarna)からカメオ(Cameo)まで、さまざまな新興企業が従業員を解雇し、来たるべき景気後退のため耐乏に備えている。
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これにより、ベンチャーの支援を受けているD2C新興企業は不安定な状況に置かれることになった。昨年は新興企業に過去最高の資金が投入されたにもかかわらず、投資家たちは突然、来年にはベンチャーキャピタルの獲得が困難になるだろうと警告するようになったのだ。一部の投資家は、消費者向け新興企業は、テック系の新興企業よりもベンチャーキャピタルの鈍化の影響を受けにくいだろうと論じているものの、今こそ新興企業は資金の節約をはじめ、少ない予算で多くの作業を行うべきだということは、すべての投資家が合意することだろう。
景気後退の予兆
「我々はリセットの時期に来ている」と、ルーニャ(Lunya)の創設者であり、自身の会社NaHCO3で投資家も行っているアシュリー・メリル氏は、メールで筆者に述べた。
セルバベンチャーズ(Selva Ventures)の創設者であるキバ・ディキンソン氏は、1年前と比較して、消費者向け新興企業の資金調達環境は、「確実に厳しくなっている」と筆者に述べた。同氏は、消費者向けとテック系の新興企業に資金を投入している投資家はテック系企業の急落の影響を強く受け、その結果として「消費者向けも含め、あらゆる場所で資金の展開に用心深くなっている」と述べた。
しかし、小売部門も完全に負債を免れているわけではない。ウォルマート(Walmart)とターゲット(Target)が5月17日、18日にそれぞれ発表した第1四半期決算は、これから起きることの前兆と言っていいだろう。大手小売業者である両社は、サプライチェーンのコスト増大への対処や、消費者が支出するのがモノからコトへと移行するなかで適切な商品の在庫を確保するために苦闘した結果、報告された利益は予想を下回った。
「今年の後半がどのような状況になるかの予兆を示す、炭鉱のカナリアがいる」とディキンソン氏は述べている。
コスト削減の圧力
こうしたことから、多くの投資家は今すぐ資金を投入することに慎重になっており、シード段階及びそれ以後の段階にある新興企業に影響を及ぼしていると、同氏は述べている。
「あとの段階にいるほど、恐ろしい状況になる」と、ブリッシュ(Bullish)のマネージングパートナーであるマイク・デューダ氏は述べている。同氏は、その理由の一部はナラティブ主導だと語る。クラーナやカメオなど数十億ドル規模の新興企業の多くがコストを削減すればするほど、評価額が高いほかの新興企業にも、同じようにコスト削減を行わなければならないという圧力が高まっていくからだ。
ディキンソン氏は次のように述べている。「後期段階にある新興企業が、早く収益性を達成することに対する圧力がはるかに大きくなる。自社が成長すれば、1〜2年以内に別の投資家が大幅に高い評価額で出資してくれたが、その頃とは期待されるものが異なっている。一般にこうした企業は、自社が成長できることを証明するだけでなく、もしも1〜2年のあいだに資金調達環境がさらに厳しくなったとしても、資金調達できることを証明する必要がある」。
そして、シード段階の新興企業は、すぐに大幅なコスト削減を迫られるというプレッシャーからは保護されているとしても、今後1年間に資金調達の課題に直面する可能性は高い。
「経済の軟化に加えて、ユーザー獲得コストや商品の販売コストも増加している」と、メリル氏は語る。「新興企業は、より実績のある企業と同じようには顧客の維持に労力をつぎ込むことはできず、最初から利益を上げられる計画を立案するのも困難だ」。ディキンソン氏は、シードや初期段階の新興企業にとって、フォアランナー(Forerunner)など一部の企業がソフトウェア中心に移行したことから、「明確に消費者向け企業を重視する投資家はわずかしか存在しない」と述べている。
堅調なカテゴリーも
しかし、消費者向け新興企業の現況はまったく絶望的というわけではない。デューダ氏は、それでも消費者がパンデミックの最中には行えなかったような目的に支出することを望んでいることから、旅行やレストランなど特定のカテゴリーでは、消費者の支出が依然として堅調だと指摘している。「消費者の支出は、あらゆる困難にもかかわらず着実に伸びてきた」。
このため、多くの投資家は、今後1年間に景気後退は予測されるものの、確実に予測できることはなく、消費者の支出は今後も波があるだろうと助言している。実際、消費者向け新興企業の資金調達が間もなく枯渇するという警告は、顧客獲得コストが増加した2019年と、パンデミックが最初に勃発した2020年にも発せられている。
「すべてが循環しているため、12カ月後にはまったく異なる状況になっているかもしれない」と、メリル氏は述べている。
現在資金調達を行っている新興企業への助言を求められた同氏は次のように述べた。「体制に無駄がなく、資本金で長いランウェイを作り上げることができること、軟化した経済を乗り切る体制が整っていること、景気後退から回復したときに投資家が望むような地位にあることを示せる必要があることだろうと、私は考えている」。
[原文:DTC Briefing: ‘Some canaries in the coal mine’: Startups brace for VC slowdown]
Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)