およそ2年前、米国中のエージェンシーたちが多様性に関するデータを公開し、自社の欠点を認め、改善に取り組むことを約束した。昨年、一部の企業がこの多様性データの最新版をリリースしたが、結果は芳しくなかった。
しかし、本稿の取材に応じてくれたクリエイティブ・エージェンシーの黒人コピーライターによると、今年のエージェンシーたちは、多様性データの更新や多様性、公平性、インクルージョン(頭文字を取ってDEIと略される)の取り組みに関する最新情報については口を閉ざしているようだ。そしてDEI関連の問題に関しては停滞が起きているという。
匿名を条件に赤裸々に業界の舞台裏について語ってもらう「告白」シリーズ。今回は、この人物がクリエイティブ分野のリーダーたちに期待することと、DEI問題に関する現状を語ってもらった。
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以下、わかりやすくするために会話の内容は編集され要約されている。
◆ ◆ ◆
――現状はどのようなものか?
多様性や公平性、インクルージョンに関する議論は、立ち消えになってしまったように思われる。私のオフィスではDEI項目をチェックし続けているが、DEI部門の人材が雇用されていることを除けば、物事が変化していることを示す具体的な証拠はない。
私は(広告業界における)実際のデータ、多様性、公平性、インクルージョンを前進させる取り組みを見たい。テレビでは異人種同士のカップルや多様なキャストが登場する作品をたくさん目にする。広告エージェンシーたちが思慮深くキャスティングしていることは見て分かるが、この広告が伝えるナラティブからは、舞台裏にはまだDEI関連の問題があることが明らかだ。
――それはどうしてか?
業界やブランドを見ていると、多くのことがリップサービスだと感じる。会話が前進していないような気がする。話し辛い空気になったり、居心地が悪くなると会話が止まってしまう。もう誰も発言をしていない。各エージェンシーは多様性データの公開について沈黙している。なぜか、それは重要なクリエイティブ関連のリーダーポジションに、有色人種の人がいないからだ。
彼らは私たち(有色人種)を採用し、そこからリーダーを生み出したりしない。若手のポジションに有色人種を雇い、「会社のためにラップ書いてよ、そしたら黒人が作ったって言えるし、ラップビデオが作れる」というような指示を出している。コンセプトも文脈もない。奇妙な人事異動が数多く行われているが、(エージェンシーたちは)もっとうまくやれるはずだ。
――変化を求める動きが停滞しているようだ
私は自分の力で人を助けることにもっと時間を割こうとしている。このままなにもせずに「有色人種の人材が広告業界に参入する手助けをしたい」と言い続けることはできない。しかし、人を助けるための会社規模のプロジェクトの仕事をしていると、ほとんどのことを自分ひとりでやっていることに気づく。
下準備は全部自分でしなければならないし、それをした上で、いつプロジェクトを前に進めているのか上に聞いてみると、いつでも好きなときにやってくれたらいいよ、と言う。上司や会社からの本当の助けがない。すべてを自分で引き受けなければならない。なので、必要以上に非常に多くの仕事をしなければならない。「プロジェクトを支援する」と口で言う以上のレベルの、本当の支援を得ることは難しい。
――それはさぞもどかしいだろう
特に業界の黒人クリエイターたちにとって、業界内での変化を容易にする方法について話し合いを持つことは難しい。組織が持っているソリューションについて見てみても、会社はより包括的になるために必要な経済的な要請に対処しようとしていない。(授賞式の)コンペは有料会員に限定され続けているが、なかなかアクセスできるものではない。
広告業界に非伝統的な方法で参入する人の多くは、ある程度の歳を取ってから入ってくるし、多くのコンペは若い年齢制限がある。私たちが個人的に関与し、自力で変化を起こそうとしない限り、これらの組織は動いてくれない。
――エージェンシーや業界団体に求めることは何か
DEIについて、DEI担当者が話をする必要はない。社のDEIについてはクリエイティブリーダーから聞く必要がある。取り消されるから声を上げるのが怖いと言う人もいるが、自分の言うことがでたらめだと思ってるのでもなければ、心配することはないはず。私たちは皆、なにを言えば取り消されるのか知っている。クリエイティブのリーダーたちは、ソリューションの一部になる必要がある。いまはそれができていない。
Kristina Monllos(翻訳:塚本 紺、編集:黒田千聖)