ゲーム 業界がかつてほど不況に強くないと思われる理由:「以前と同じような成功が再び訪れるとは言い切れない」

DIGIDAY

経済的な逆風が強まる中でも、ゲーム関連会社およびeスポーツ業界の経営陣は自分たちは嵐を乗り切れると、楽観視している。しかし実際のところでは、ゲームおよびeスポーツ業界の現在のビジネスモデルは、「本物の」不況によって検証されたことがない。

2008年の金融危機の際、多くの経済学者が、ゲーム業界は「不況に強い」と口を揃えた。前年の2007年12月に、景気後退が進む中でもビデオゲームの売上が他の小売商品の売上をはるかに上回っていたからだ。以後、ゲームに対する人気は高まる一方だった。

投資銀行会社ドレイク・スター(Drake Star)のパートナーでeスポーツ業界の専門家であるマイケル・メッツガー氏は、「ゲームは、エンターテインメントの中でも圧倒的なシェアを占めるセグメントだ」と述べる。「Netflixに新規参入するプレイヤーもかなりにいる。またAmazonが2023年、大きな動きを見せるかもしれない」。

景気低迷の影響はゲーム産業にも

しかし近年、こうした堅牢な兆しとは裏腹に、ゲーム業界は過去に専門家が信じていたほど不況に強くないかもしれないという初期兆候が見られる。2023年1月第二週に公表された2022年度の決算報告では、ユービーアイソフト(Ubisoft)が5億ユーロ(約675億円)以上の損失を計上している。

また第三週前半には、ライアットゲームズ(Riot Games)が社員46名の解雇を発表。さらには、Googleがクラウドゲームサービス「スタディア(Stadia)」を閉鎖するなど、不安を煽るようなニュースが続いている。

eスポーツは、現時点ではゲーム産業のマーケティングの一部分ように機能しているが、この業界もやはり焦りを感じている。BMWをはじめ、大手ブランドがこの分野から撤退し、いよいよ「eスポーツの冬」がやってくるとの懸念が強まっている。この流れに対し、オプティック(OpTic)などの主要なeスポーツ組織もスポンサーシップによる資金調達を維持しようと、パートナーシップ部門を強化し、不況に強いブランドパートナー探しに焦点を当てている。

「eスポーツは決して不況に強いとは思わない。だから私はスポンサーシップ担当者として、不況に強いブランドや、ゲーム画面に登場することで認知度向上を図り易いブランドはどこかを考えることに多くの時間を割いている」とオプティックのセールス&パートナーシップ担当バイスプレジデントのエリン・シェンドル氏は話す。

ゲームの売上は減少、ハードの価格は高騰

シェンドル氏は、不況に強いとされるスポンサーを個別に指定することは避けたが、食品、飲料、金融サービスなどのセクターを例として挙げた。「人々は食べたり、飲んだりといったことをやめることはない。また金融サービスもしかり。銀行も必要だし、クレジットサービスは今後さらに必要とされるだろう」。なおオプティックの現在のパートナーは、ビーフジャーキーのジャック・リンクス(Jack Links)、飲料のマウンテンデュー(Mountain Dew)、ハンバーガーショップのジャック・イン・ザ・ボックス(Jack in the Box)などだ。

実際のところ、ゲーム業界に対する風向きが、この10年で大きく変わった。2008年の金融危機を乗り越えた強みが、もはや通用しなくなっている。ユーザーは無料でプレイできるゲームやライブサービスのゲームを好むようになり、収益性の高かった小売りのゲームの売上が減少。またSNS等を使ったゲーム実況者の出現により、消費者は実際にゲームを購入しなくても、好きなゲームを楽しむことができるようになっている。ただその一方で、ゲーム機本体やプレミアムタイトルの価格が高騰している。

2008年、ニンテンドーWiiの定価は249.99ドル(約32500円)だったが、最近ではNintendo Switchのベースモデルは300ドル(約39000円)近くする。ソニーの「PlayStation 3」は2008年には399ドル(約52000円)だったが、2023年には「PlayStation 5」の定価は499.99ドル(約65000円)になっている。

潜在的なプラス面も

「2008年から2009年にかけての不況時には、Wiiは実際にかなり成功した。当時、人々は屋外での娯楽を控え、Wiiはより費用対効果が高い娯楽と称賛された」とGWIのデータ・ジャーナリストであるクリス・ビア氏は言う。「しかし今は、ゲーム機が高価な上、ゲーム自体も大きく変化していることを考えると、以前と同じような成功が再び訪れるとは言い切れない」。

足元に不況が近づく中、ゲーム産業に現在起こっている変化には、いくつかの潜在的なプラス面が見え隠れする。例えば、ゲーム内課金は、2008年にはニッチな収入源だったが、2023年が始まったばかりにもかかわらず、既に数十億ドル(数千億円)の収入源になっている。最近のゲーマーは、当時よりも仮想アイテムにお金を使うようになった。ただし、だからと言って「不確実性」は変わらない。ゲーム業界が、2008年のように不況に強いと断言することなど到底できない。

「今のゲーム市場は、過去のさまざまな不況下を見渡しても、かつて見たことのない形相をしている」とビア氏は言う。「だから仮想空間上で自己表現する(ゲームの主役登場人物を作成する)にあたり、肌の色、性格などの内面、帽子などの外面について、ユーザーが何を選び、購入するかについてのデータがまったくない状態だと言っていいだろう」。

[原文:Why the gaming industry might not be as recession-proof as once believed

Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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