広告 苦戦の2022年、ブランドとメディアの反応は?:価格に敏感な消費者、緊縮する経済、課題は山積

DIGIDAY

大手メディア企業の決算発表シーズンが終わった。そこから学ぶべきは、好転までの道のりがいまだ険しく、状況がさらに悪化するということだ。

マーケターは広告を打ち出すことに神経質になっている。一方メディアオーナーは将来的に収益性が下がることになるのか、思いを巡らせている。無敵に思えたプラットフォームすら支出を抑えている。これまでは金融危機の深刻さに疑問があったかもしれないが、今はもはや疑う余地もない。

どの程度深刻なのか。金利上昇で世界中の中央銀行が金融引き締めを余儀なくされ、経済が減速している。それに輪をかけるのがロシアによるウクライナ侵攻で、サプライチェーンや消費者心理に影響が広がる。グローバルな経済成長の最大の牽引役である中国は、厳格な新型コロナ対策に国内各地の新規感染者の急増や広範なロックダウンが相まって揺れている。

さらに悪いことに、現在世の中で起きているほとんどは、マーケターにはどうにもできない。世情も、政府の財政政策も、おそらくもっとも複雑な要素である、金融の世界における予期しないねじれも同じだ。明らかに、この先どうなるかを予想するのは無理な話である。とはいえ、シニアマーケターがそれを試みていないわけではない。それどころか、彼らの多くは迫りくる景気の嵐に先手を打とうとしている。

各社のマーケターの思惑

P&Gは、第1四半期の広告予算を最終利益に向けてそのまま注ぎ込んだ。コカ・コーラ(Coca-Cola)は、価格引き上げとなった場合に納得してもらうための広告を増やす予定だ。ペロトン(Peloton)はこれまでのところ、広告費にブレーキをかけている。まだ不況といえる状態ではないが、だからといってマーケターが何も備えないわけではないのだ。

これは、2022年5月第3週に開催されたアドバタイジングウィーク・ヨーロッパ(Advertising Week Europe)とアップフロントで繰り返し語られた一語にも表れている。細かくいうと「経費削減」と「不確実」に加えよく口にされていた一語、というべきか。それが「不安」だ。

UMのEMEA事業担当プレジデントのクリス・スキナー氏は「2022年の前半のほとんどは経済的な観点からは比較的堅調で、その間の広告はかなり増えた」と述べながら、「後半の状況は変わってくるだろう。より広範に低迷が広がり、緊縮する経済のなかで消費者が価格に敏感になっていく可能性が高い」と続けた。

もちろん、マーケターが備えとしてできることは多い。短期的には、インフレによる価格上昇を納得してもらうために広告費を増やすことが考えられる。または、エージェンシーとの取引体制をもっと柔軟に構築し、支出の変動やメディア価格の高騰に備えることもできる。さらに先を見越して、復調局面で実を結ぶ可能性のある種を探すこともあるかもしれない。メディアアドバイザーであるメディアセンス(MediaSense)の戦略担当マネージングパートナー、ライアン・カンギサー氏は、現在マーケターたちがこれらを含めたあらゆる選択肢を検討していると話す。景気低迷が大不況になったとしても、不意を突かれる事態は避けたいと誰もが思っている。

こうした不安は広告支出にも反映されている。少なくとも、反映され始めているとはいえるだろう。広告主はメディア予算をぎりぎりまで抑えようとしている。メディアエージェンシーのゼニスUK(Zenith U.K.)で投資責任者を務めるデイブ・マルレナン氏は次のように話した。「広告主の予算取り消しはない。それにはまだ早いだろう。だが、現在進められている計画の多くに警戒感がある。広告主はなるべく予算を消費することなく、様子を見ていたいようだ」。

見通しの分かれるメディア関係者

これを受けて、多数のメディアオーナーが不安に陥ることになる。そもそもメディアビジネスは好景気にあっても極めて困難なものだ。そして、好景気が過ぎ去ってしまったのは明らかだ。アドウィーク・ヨーロッパで見られた大手パブリッシャーの見解は「少なくともまだ拡大は望めるだろう」と楽観的だ。彼らにとって、マクロ経済的な混乱は変化を加速させ、新しい勝者が台頭できる余地を生み出す。

その一方、見通しが暗いのは米国でのアップフロントに出席していたメディアバイヤーたちで、景気低迷で放送局各社からかなりの資金が吸い取られてしまうだろうと警告する。実際、こうしたマクロ的な逆風が第2、第3四半期と続き、さらには2023年にも残るかもしれないという認識が広がり始めている。あるメディアバイヤーは「ここ4、5年のように大金がなだれ込んでくるような状況はないだろう」と述べた。

この状況が顕著になるほど、つまり広告主が支出を調整、鈍化させるほど、彼らのメディアミックスの重点もシフトするだろう。むしろ、不安定な経済情勢は支出額と同じくらい、メディア予算が向かう先にも影響を与えている。これが朗報となる企業もあれば、そうとはならない企業もある。すべては企業全体の生態系、そしてより広範には世界の中での各企業の位置付けにかかっている。それをよく示しているのが、第1四半期のテレビ広告だ。全体としては好調だった。だが、細かく見ていくと、状況はまちまちだ。

米国の消費財企業全体を合わせたリニアTVの広告インプレッション数は2022年第1四半期に前年同期比13%の増加を見せたが、米国の自動車メーカー全体では13%減少している。米国の消費財広告トップのダウニー(Downy)は、英語とスペイン語の両方で広告を展開し、第1四半期に特にインプレッション数を大きく伸ばした。

英国では、消費財部門が19%減少する一方で自動車部門は11%増加するという逆のトレンドが見られた。英国での伸びを支えていたのは、キュプラ(CUPRA)、レクサス(Lexus)、ポールスター(Polestar)などのラグジュアリーカーの広告で、最も高い伸びを見せたのは広告主トップのヒョンデ(Hyundai)だった。

数百万台のスマートTVの視聴率データを分析するサンバTV(Samba TV)のブランド部門責任者、ダラス・ローレンス氏は「第1四半期は、米国と英国のリニアTV広告に関してはばらつきがあった」と話す。「サプライチェーンの問題や金利上昇で米国の自動車販売台数が伸び悩み、自動車広告への支出も減少した。英国では物価上昇で消費財に対する消費者需要が停滞した結果、第1四半期には消費財の広告支出が20%近く落ち込んだ」。

出口のないニューノーマル

結局のところ、この先どうなるかはマーケターにも、誰にもわからない。上場アドテク企業であるパブマティック(Pubmatic)のCEO、ラジーブ・ゴエル氏は米国経済の状況を指し示しながら、重要な点を次のように浮かび上がらせる。「第1四半期は経済が縮小した。人々はそれが異常事態なのか、ニューノーマルの兆候なのかを今も考えている」。

マーケターは、直感的にも論理的にも支出を完全にゼロにはできないことを承知している。消費者が物価高や激しいインフレにまだ我慢している様子が見られる今はなおさらだ。だが、より慎重になることはできる。支出を減らしたり、さらには先延ばししたりしながら、価格の安い競合に乗り換えないように消費者を説得しつつ、自社の高コストの埋め合わせや収益性の向上を図るのだ。言い換えれば、インフレがあるかぎり、それは全体的に広告を後押しすることになるが、実はここに落とし穴がある。今後予想される不況のきっかけが何になるのか、誰にもわからないのだ。

「マーケターは、消費者がプライベートブランドなどの安い代替商品に乗り換えたり、そもそも買うことをやめたりしている兆候を見れば、心配を始めるだろう。現在活況を見せている雇用市場の大きな冷え込みも、大きな兆候のひとつだろう」と戦略コンサルティング企業メディアリンク(Medialink)のマネージングディレクター、クリス・ボルマー氏は話す。

明らかに、大変な状況はこれからもまだやってくる。だが、必ず回復もあるはずだ。世界の経済大国はまだ基本的に力強く、最低所得層を除けば、消費は続いている。最大手の広告主の財務状況の見通しもよく、予測が厳しかったことを考えると、直近の決算発表シーズンでは一部勇気づけられるような予想も見られている。回復期がやってくるまで、大手エージェンシーグループ各社は近年取り組んできた多角化で乗り切ろうと目論む。

電通の広報担当者は「簡単にいうと、当グループの売上31.5%と電通インターナショナル(Dentsu International)の売上36.5%が、メディアやクリエイティブより景気循環の影響の少ない、カスタマー・トランスフォーメーション&テクノロジーという構造的な成長領域からきている」と語った。「このビジネス領域が拡大するにしたがい、通年で進むべき方向がさらに明確に把握できるようになり、その方向に対する自信も高まる」。

[原文:‘Cost conscious consumers, restrictive economy’: Advertising’s tough ride in 2022

SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:猿渡さとみ)

Source