過去10年間にグローバル化した消費者文化によってオンラインショッピングは新たなレベルに引き上げられたが、パンデミックはオンラインショッピングへのかつてない依存を生み出すことになった。eコマースのブームとともにデジタル消費者体験の新しい基準が生まれた。消費者は、迅速な配送、パーソナライズされたオンライン体験、豊富な仮想リソースを期待している。ファッションやビューティのブランドはそのような新しい期待事項にどのように対応すればよいのだろうか。
ファッションとビューティ業界の現状と将来について語り合うために、影響力を持つブランドや小売業者の業界関係者がGlossy eコマースフォーラムに集った。講演者らは、パンデミックにおいてターゲットオーディエンスにリーチし、売上を伸ばし、発展をナビゲートする方法について触れた。具体的には現在の敏捷な消費者に対応するために重要な次の3点が取り上げられた。
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1. データを使用して、物理的なマーケティングスペースとデジタルマーケティングスペースのあいだでの会話を作ることによりオムニチャネルを刷新する。
2. 顧客ジャーニーのあらゆる段階で優れたeコマース体験を提供して、顧客の獲得よりも顧客の維持にフォーカスする。
3. 利益を生み出すために、市場のホワイトスペースではなく差別化要因を見つける。
以下に、業界のリーダーの声をまとめた。
オムニチャネル体験の刷新
eコマースは加速しているが、だからといって店舗が消え去るわけではない。消費者は、試着や店員との会話など店内でしか体験できないことをいまでも重要視している。実店舗は消費者に具体的な体験へのアクセスを提供し、それは購入決定を促すのに役立っている。しかし、店舗には、消費者の購買体験だけではなくマーケティングにおいても果たすべき役割がある。
となると次のことが問題になる。目標を達成するために、ブランドはデジタルチャネルと物理チャネルのあいだでどのようにやりとりすればよいのだろうか。その解決策はオムニチャネル戦略の刷新である。
あらゆるチャネルで消費者データを活用することがもっとも重要であるが、それは課題でもある。特に、デジタルマーケターが消費者データを豊富に蓄積できるサードパーティCookieに依存することができなくなっている現状では、データの収集と理解と活用が必要になる。
インターミックス(Intermix)のCEO、ジョーティ・ラオ氏は、マーケティング戦略において「IRL(実生活)」と「URL(デジタル)」のバランスを取るために消費者データを使う方法について述べている。また、同氏は、ブランドがターゲットオーディエンスにリーチし、認知度を高めるのに実店舗がどのように役立つかについても語った。コミュニティやインフルエンサーのイベントを開催したり、豊富な消費者データを収集したりして、実店舗は強力なマーケティングツールになることができるのだ。
実店舗は顧客をブランドストーリーに没入させるのに役立つ。インターミックスがデジタルチャネルと物理チャネルのあいだでコンテンツとデータを移動させている方法について、ラオ氏の話を以下に挙げる。
インターミックスのCEO、ジョーティ・ラオ氏とのQ&A
Q:オムニチャネルについての考えは?
A:「まず第一に、小売売上高の約70%以上は依然として実店舗におけるものだ。インターミックスでは、両方のチャネルで購入する顧客は単一チャネルの購入客と比べて約2倍の維持率である。また、単一チャネルの客の約3〜5倍の金額を使っている。なので、経済的価値があるのは明らかだ。
とは言え、実店舗が存在する方法は発展させていかなければならない。大部分の小売業者やブランドには大規模な実店舗を展開する余裕がない。物理的な小売場所を持つためには膨大な量のブランド価値を加える必要がある。ターゲット市場で高い価値を持つ顧客を獲得できなければならない。店舗は生産性と収益性が高くなければならない」。
Q:現時点での貴社の物理的な設置面積について。何店舗ある?
A:「(米国)全国に30のブティックがある。もっとも恵まれたロケーションに進出している。ニューヨーク市には6ロケーション、パンプトンズ、パームビーチ、マイアミ、アスペン、ロサンゼルス、サンフランシスコ。当社の顧客が住んで働く場所に店舗を置くようにしている。もちろん居住地や勤務地は変化しつつあるが。
ターゲット市場とそこがどこであるかを特定することが重要だ。もちろん、恒久的なロケーションは大きな投資だ。投資には資産や資本が必要なので、そのような投資を行う前にオンラインンデータを使って顧客の存在する場所と顧客が移動する先はどこかをしっかりと判断すべきだ」。
Q:パンデミックのあいだにオーディエンスからの期待事項はどう変化した?
A:「パンデミックのピーク時には購入行動は変化したが、我々のターゲットオーディエンスは通常の行動に戻っている。確かにここ数年で気づいたことはいくつかある。そのひとつは、eコマースエクスペリエンスがどうあるべきかについての消費者からの期待が非常に高いこと。メール、SMS、オンサイト、ソーシャルチャネルなどあらゆるタッチポイントで優れたコンテンツで関与しなければならない。また、eコマースエクスペリエンス自体はスムーズで、迅速で、すばらしくなければならない」。
購入後の体験を通じた顧客維持へのフォーカス
多くのブランドが顧客獲得への尽力の経済的負担を経験しており、顧客維持に新たにフォーカスして顧客に再び関与するための新しい方法を模索しているところだ。小売業には購入後に顧客を再び関与させるためのユニークな機会が多くある。
パーセルラボ(ParcelLab)のマーケティングコミュニケーション責任者、キャサリン・ブリッグス氏からは、米国のファッション小売業者のトップ80社に関する最近の調査が紹介された。65の異なるデータポイントを使って分析して製品注文にフォーカスした調査である。パーセルラボは購入後に顧客維持の機会をブランドが逃している点を見つけた。
アパレルブランドには頻繁な返品など業界固有の課題がある。ブリッグス氏はブランドがeコマースの課題について考える方法をリフレーミングするように提案している。ネガティブな顧客インタラクションと見なされる可能性のあることを購入後のポジティブな戦略の機会として捉えるように小売業者に勧めている。
「注文、支払い後、顧客はブラックホールのような経験に遭遇している」とブリッグス氏。「米国の消費者の53%はこれがカスタマージャーニーのもっとも感情的な部分であると述べているが、これは驚くべきことではない。顧客は支払いをしたのに、まだ荷物を受け取ってはいないのだから。ここには、ブランドから何も連絡がないという大きなギャップが存在している。また、現在のサプライチェーンの問題のせいで配送に長い時間かかる可能性もある。現状を変える必要がある」。
では、ブランドは、確認メールや配送業者の追跡ページ以上のものをどのようにして提供すればよいのだろうか。パーセルラボの調査からの主な結果には以下がある。
1. 米国のファッション小売業者のトップのうち、ほかの関連製品を推奨しているのはわずか28%である。ブリッグス氏によると、カスタマイズされた推奨を提供することによって、ブランドがその顧客を本当に理解していること、そしてブランドが顧客への投資に時間を費やしていることが顧客に示されるという。
2. 米国のファッション小売業者トップの17%が5日以内に返品を処理している。ブリッグス氏いわく、「5日間はかなり速い。だが、5日以上かかる場合には小売業者は何も連絡しないことが判明した。顧客が返品を(配送業者に)渡したのに、そのあとは何の音沙汰もない。この場合、問い合わせが増えて顧客サービスに大きな負担がかかるだけではなく、顧客には何が起こっているのかまったくわからない。ブランドは、顧客と関与して、顧客を自社のエコシステムに連れ戻し、また購入してもらえるかもしれない機会を逃している」。
3. 顧客の87%は返品時にブランドが関与してくれることを希望している。
ブランドは返品プロセス中にポジティブな最後の印象を残さなければならない。「はっきり言おう。カスタマージャーニーは円形だ」とブリッグス氏。「しかし、ネガティブな体験がひとつでもあれば円形は壊れて、ブランドは客を失うだろう」。
ホワイトスペースではなく差別化要因を見つける
ジェネラリストブランドの終焉が訪れている。長期的に利益を出すためには、ブランドは製品を最優先し、ユニークな声を見つける必要がある。これが、革新と専門知識に基づいて構築された高い価値の製品と、市場の空白部に基づいて構築された製品との違いだ。しかし、なぜこれが重要なのだろうか。
過飽和状態の市場ではブランドは目立たなければならない。市場のギャップに進出することにはメリットがあるかもしれないが、ブランドがそのギャップを埋める方法と理由が重要になってくるので、自分はターゲットオーディエンスに語りかける独自の価値提案を支持しているだろうかという問いかけが必要になってくる。それを考えなければ、ブランドに大きな利益がもたらされることはないだろう。イマジナリー・ベンチャーズ(Imaginary Ventures)の共同創設者兼マネージングパートナーであるニック・ブラウン氏は、ブランドが市場の空白だけでなく差別化要因を見つけることを望んでいる。
イマジナリー・ベンチャーズの共同創業者兼マネージングパートナー、ニック・ブラウン氏とのQ&A
Q:貴社のポートフォリオ戦略の指針は何か?
A:「当社は業界では少し特異な例だ。当社にとっては製品がいつも最重要である。2010年に投資を開始したときに最初に行った投資はワービーパーカー(Warby Parker)だった。当時の状況はかなり違っていた。ブランドに投資する競争はいまとはすごく異なっていた。ワービーのような企業が利用できる機会がふんだんにあった。
以来10年の軌跡のある時点において、誰もが金を稼がなければならなくなった。Facebookはもっと高コストになり、アルゴリズムはより制限的になった。パフォーマンスマーケティングの非効率性についてはいろいろと語られてきた。結局、我々が今やらなければならないのはすばらしい製品とすばらしいストーリーテラーに戻ることだ。
我々は、異なる視点や意見、そして優れた製品を持っていると感じられるあらゆるバーティカルな、あらゆるカテゴリーの、あらゆる分野を求めている」。
Q:市場でホワイトスペースを見つけることと差別化要因を持つことの違いは何か?
A:「資本を求めてくる企業の多くが製品に対する視点を持っていないことにショックを受けている。これは滑稽に聞こえる。だが創、業者たちの多くがホワイトスペースを見て、『このカテゴリーは長い間状況が変わっていない。テクノロジー、マーケティング、流通にフォーカスして自分が変革しよう。だが、製品については考えるつもりはない』と思うのだ。これは私にとってはすごく違和感がある。顧客はずっと賢いのだし、彼らには購入の選択肢がありすぎるほどあるというのに」。
Q:すばらしい製品とはどんなものか?
A:「革新的なもの。新しいもの。それは最終的には価値と品質の問題だ。顧客は購入する前にいろいろなことを調べ、膨大な時間を費やしてレビューを見る。顧客にとっては購入するまでの忍耐はとても重要だ。私がビジネスについて考えるとき、多くの時間を費やしてこの点を検討する。既存顧客の統計は新規顧客の統計よりも役立つ。新規顧客の獲得のために多額の金を費やすのはたやすいが、彼らを呼び戻すことは非常に難しい。大多数の企業と比べて、優れた仕事をして既存顧客の維持を達成しているビジネスには興味深いものがある」。
ほかの注目すべき点
世界的な経済混乱のなかでブランドとして機敏性を失わないことが不可欠である。金融専門家や政治家らはパンデミックの初期に未来の予測を試みた。だが、予想外の紆余曲折が多いこの時代、どうすれば未来を予測できるのだろうか。
パンデミックによって、ブランドリーダーは予期せぬ事態を予期しなければならないことを学んだ。リーダーたちはこれまで長期的に機能した戦略を手放したほうが良いかもしれない。今ではある時点で機能したことが次の日にはもう機能しないようなこともある。
タクーン(Thakoon)の創業者であるタクーン・パニクガル氏と、グリン(Grin)のプロダクトマーケティング担当ディレクターのマイク・ライト氏のような業界リーダーは、不安定なeコマース環境と進化する消費者行動を常に把握する方法について話し合った。
この2人の話からの重要なポイントをまとめた。
1. 長期的ではなく、短期的に計画する。
過去2年間の不安定な状況からもわかるように、長期的なマーケティング戦略を計画することは無意味である。パニクガル氏は、ブランドは機敏性を維持して、短期計画に投資するように促した。それによって、労力とエネルギーを無駄にする可能性が低くなる。
2. クリエイターを活用する。
ライト氏は、コストを削減しブランド認知度を高め新しいオーディエンスにリーチするために、クリエイターの活用を勧めている。つまり、優れたストーリーテリングは困難な状況を乗り越えるのに役立つということである。
3. 新しいアイデアにオープンであれ。
Z世代は主導する準備ができている。パニクガル氏は、変化する消費者行動に対応するために新しい役割を起用することについて述べている。それには、同氏のブランドのTikTokのソーシャルメディアマネージャーという役割があるかもしれないという。
業界の将来は?
最後にまとめよう。
ファッションブランドやビューティブランドを含む小売業界は大きな変革を経験しつつある。eコマースの利便性を優先し、コミュニティを構築し、オムニチャネル戦略を革新し、顧客の再エンゲージメントの新しい機会を創出するという様々な新しいニーズのために、業界リーダーらは多忙を極めている。
インターミックスのラオ氏はブランドチャネル間でコンテンツとデータを動かすことの重要性を強調した。パーセルラボのキャサリン・ブリッグス氏からは小売業における購入後の新しいタッチポイントを明らかにした調査が紹介された。イマジナリー・ベンチャーズのニック・ブラウン氏はブランドに差別化要因があるとき製品の収益性は高くなると力説した。タクーンのタクーン・パニクガル氏とグリンのマイク・ライト氏は、激動する経済と消費者行動の変化を把握する方法についてのガイダンスを提供した。
ブランドはターゲットオーディエンスに従わなければならない。多くの消費者からは店内サービスを模倣した優れた体験が求められている。その需要を満たすために、ブランドはCookie後の世界で消費者データを戦略的に使用する方法を見い出し、消費者を魅了するための革新的なアプローチを取り、提供する価値のあるものを確実に提供する時が来たのである。
[原文:Glossy E-Commerce Forum Recap: ‘Great products and great storytellers’ are the future of retail]
KALEIGH MOORE(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)