極端な高温や低温、放射線に耐えることが可能で、秒速825メートルで射出されても生き残れるタフっぷりで知られるクマムシには、カタツムリに乗って移動をする生態があることが分かりました。
Experimental evidence for snails dispersing tardigrades based on Milnesium inceptum and Cepaea nemoralis species | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-022-08265-2
Tardigrades may hitchhike on snails … and then suffocate in their slime | Live Science
https://www.livescience.com/tardigrades-hitchhike-on-snails
水中やコケの上などに広く生息する体長0.05〜1.2ミリの微生物であるクマムシは、乾燥した環境に置かれると体を縮めて「樽(tun)」という状態になります。クリプトビオシスと呼ばれるこの能力により、クマムシは水たまりが干上がった時のような厳しい環境に長時間耐えることができるほか、風に乗って別の場所に移動することも可能です。しかし、風に吹かれて移動した先がクマムシの生息や繁殖に適した環境であるという保証はありません。
そこで、ポーランドのアダム・ミツキェヴィチ大学の生物学者であるZofia Książkiewicz氏とMilena Roszkowska氏は、微生物が長距離を移動する際に使う「便乗」という能力に着目。特に、クマムシと生息域が近く、体の表面が湿っているといったクマムシにとって有利な条件が整っていることから、「カタツムリこそクマムシにとって最適な移動手段ではないか」との仮説を立てました。
この仮説を検証するため、Książkiewicz氏らは西ヨーロッパの湿度が高い場所に生息する活動的なカタツムリであるモリマイマイとクマムシを採取し、同じ環境下に置いて観察する研究を行いました。具体的には、クマムシがいる水滴やコケの上をカタツムリにはわせて、何匹のクマムシがカタツムリに乗って移動できたかを数えたとのこと。
以下の内、Aは今回の実験で使ったクマムシの一種であるMilnesium inceptumとそのtun状態の写真で、Bは自然環境下のモリマイマイの写真です。
実験の結果、水滴からは38匹、コケからは12匹のクマムシがカタツムリの体に付着し、短時間の内に長距離を移動したことが確認されました。人間からすると、動きが遅いカタツムリはとても移動手段に向いているようには思えませんが、体が小さな微生物にとってはたった数センチの移動でもグループ間の遺伝的多様性を向上させるのには十分な距離だと、研究チームは指摘しています。
一方で、カタツムリへの便乗はクマムシにとってはリスクが高い移動手段だということも分かりました。研究チームが、クマムシの粘液に覆われたクマムシを乾燥させ、再び水を与える実験を行ったところ、粘液に覆われなかった対照群のクマムシは98%の確率で蘇生できたのに対し、カタツムリの粘液に覆われたクマムシは34%しか蘇生できませんでした。その理由について研究チームは、「カタツムリの粘液の水分で一時的に蘇生したtun状態のクマムシは、粘液が乾燥してもうまくtun状態に戻れず、不完全なまま固まってしまうのではないか」と推測しています。
この結果について、研究チームは論文の末尾に「私たちの実験は、カタツムリとクマムシの相互作用は、クマムシにとってプラスとマイナスの両方の影響を与える可能性が示唆されました。カタツムリはクマムシの移動手段となることが証明された一方で、粘液がついてから乾いたクマムシの死亡率が高いことから、カタツムリの粘液がクマムシに有害な影響を与える可能性があることも判明しました」と記しました。
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