Q&A:「 メジャメント 」と「カレンシー」の違いとは? – 混同すべきではないふたつの言葉の定義

DIGIDAY

Cookieの廃止が迫り、ニールセン(Nielsen)の視聴率に対する評価が急落し、デジタル市場や動画市場で新しい測定方式が続々と生まれるなど、メディアの世界でトラッキングをめぐる地殻変動が起こっています。そんななかで飛び交っているのが、「メジャメント(measurement)」と「カレンシー(currency)」という言葉です。しかし、このふたつの言葉は混同されて使われていることが少なくありません。

筆者本人もそうでした(筆者の記事はそうなっていないと思いたいところですが)。しかし、このふたつは同じ意味ではありません。一方をもう一方の代わりに使うことはできないし、そうすべきでもないのです。

いつものQ&Aシリーズで解説していきます。

――では、それぞれの定義を教えてください。

メジャメントは、「ツール」と「指標」に分けることができます。定規がインチやセンチメートルといった単位で長さを測るための道具(ツール)であるように、メジャメント企業は、ユニークビューワー数やウェブサイト訪問数といった指標で、オーディエンスの規模やビジネスの成果を測定するために使用されるツールなのです。

一方でカレンシーは、指標に割り当てられる値のことで、複数の当事者の合意によって決定されます。たとえば、1ガロンのガソリンそのものは本来価値をもちませんが、人々や企業に燃料として利用されることで価値が生まれ、ガソリンスタンドで1ガロンのガソリンがお金と交換されるというわけです。

つまりカレンシーは、その価値を証明する何らかのメジャメントなしには存在することができません。混乱が起きている理由のひとつは、カレンシーをメジャメントの構成要素とみなす業界関係者もいれば、カレンシーはむしろメジャメントの応用であり、取引(潜在的な取引も含む)の文脈においてのみ存在すると主張する人もいることです。

設立10年目にしてアドテク企業のイノヴィッド(Innovid)に買収されたメジャメント企業のTVスクエアード(TVSquared)でCSOを務めるボブ・アイヴィンズ氏は、この点について次のように述べています。「カレンシーは、バイヤーとセラーが取引を行うにあたって合意したひとつの測定値です。メジャメントはもっと幅広い意味をもつ言葉で、カレンシーだけでなく、クロスプラットフォームのリーチや成果も対象となります。また、動画ミックスやクリエイティブとメディアの最適化に必要な情報を提供し、最終的に広告の効率と成果を向上させるオーディエンスインサイトも、メジャメントに含まれます」。

――広告ビジネスにおいて、カレンシーとメジャメントはどのように影響し合うのですか?

ニールセンは何十年にもわたって、テレビ視聴者をメジャメントする唯一の選択肢でした。ニールセンが提供する測定値、すなわち視聴率は、メディアのバイヤーとセラーのあいだでカレンシーとして使われてきたのです。広告主は、ニールセンが測定した数のオーディエンスにリーチする見返りとして、一定の金額をテレビ局のオーナーに支払うことで合意します。

――ニールセンが唯一の選択肢「でした」とおっしゃったのはなぜですか?

この1年で、ニールセンの測定値に欠陥があることが明らかになり、調査会社の監査・認定を行うメディア・レーティング・カウンシル(MRC)がニールセンの認定を一時的に取り下げる事態に発展しました。その結果、ニールセンの測定値に対する業界全体の極めて重要な合意、すなわちニールセンの測定値をカレンシーとしていた重要な要素が、NBCユニバーサル(NBCUniversal)などの企業から疑問視され、ほかのプロバイダーの測定値が通貨として採用される可能性が生まれました

ニールセンは現在、コムスコア(Comscore)、アイスポットTV(iSpot.tv)、ビデオアンプ(VideoAmp)など複数の企業との競争に直面しています。こうした企業はいずれも、アテンションやエンゲージメントからビジネス成果の創出まで、さまざまな形でテレビの効果を測定しようと取り組んでいます。こうした要素をメジャメントしようとする彼らの努力は、さまざまな形のカレンシーを創出することが可能です。彼らの多くが、有効なメジャメントの形式として認められるだけでなく、自社の測定値が広告を評価するための重要なカレンシーとして認められることを目指しているのです。

この状況は、今年のアップフロント市場で山場を迎えつつあります。アップフロント市場では、広告主とそのメディアエージェンシーが、先に述べたメディアオプションに対して数十億ドル(数千億円)規模の広告費を事前に確保します。さまざまなメジャメントサービスが登場し、そこから新たなカレンシーが生まれる可能性があることから、少なくとも今年一杯は、市場が複雑化することが予想されます。

――広告の世界でカレンシーとして使われるメジャメントの種類は多岐にわたっているのですか?

はい。技術的には、あらゆる広告指標がカレンシーとして使用できます。たとえば、Googleは検索広告をクリック単価で販売しているため、クリック数がカレンシーとなります。また、一部の広告セラーは、一定のサイトトラフィックや販売数の増加を広告主に約束するビジネス成果保証を提供しているため、ビジネス成果指標がカレンシーとなります。

メディアエージェンシーのメディアストラクション(Mediastruction)を創設し、CEOを務めるマリロワ・スノーマン氏は、テレビ局やパブリッシャーがカレンシーとして評価するものとブランドやエージェンシーが評価するものとのあいだでギャップが広がっていると主張しています。同氏はこの点について、次のような例で説明しました。

「ブランドAが構築しているモデルが、特定のテレビ局やパブリッシャーを、サイト訪問者数や売上におけるパフォーマンスがもっとも高いと判断したとしましょう。しかし、視聴者数では、競合するアウトレットより劣っているとします。この場合、重要になるのは、視聴者の測定値ではなく、エージェンシーのパフォーマンスの測定値です。したがって、視聴率という従来のカレンシーは、ブランドAにとって価値がないことになります」。

――つまり、測定値がカレンシーとして評価されるかどうかは、見る人によって異なるということですか?

おっしゃる通りです。ある大手持株会社のバイイングエージェンシーの投資責任者は、この状況を次のように説明しています。「価値の高いオーディエンスを測定したいこともあれば、成果やアトリビューションなど、そのほかのものを測定したいこともあります。カレンシーは私たちが取引に使用する価格であり、そこには価値が含まれている必要があります」。

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米DIGIDAYのティム・ピーターソン記者による解説動画

[原文:WTF is the difference between measurement and currency?

Michael Bürgi(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:分島翔平)

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