「ZENBが伝えたいのは、世界観ではなくその美味しさだ」:Mizkan Holdings CDSO(最高ダイレクト戦略責任者)高橋宏祐氏

DIGIDAY

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D2Cがバズワードになって久しい。スタートアップはもちろん、大手企業も参入しており、もはや群雄割拠の様相だ。D2Cが強い求心力を持つのは、そのブランドが持つ世界観が、「熱狂」を呼び起こすのが一つの理由ではあるが、それだけではないアプローチから一つの成功例を導きだそうとする企業も現れている。

1804年創業で、穀物酢などの調味料を主力製品とするミツカングループ(以下、ミツカン)は2019年、野菜や豆、穀物といった植物を可能な限り使ったD2CブランドのZENB(ゼンブ)をスタートした。同ブランドは、ミツカングループが2018年に発表した「ミツカン未来ビジョン宣言」のもとで誕生した。Z世代やミレニアル世代の意識変化によって、消費活動が大きく変わる分水嶺を迎えているいま、フードロスなどの社会課題解決を実現するというビジョンをもって事業を展開している。しかし、ミツカンは企業が打ち出すストーリーをユーザーに押し付けることを是としていない。

「我々は、ZENBの世界観をユーザーに浸透させるためにビジネスをしているわけではない。あくまで、健康的で美味しいものを届けるのがファーストチョイスだ」と話すのは、ZENBのダイレクト販売事業を統括する同社CDSO(最高ダイレクト戦略責任者)の高橋宏祐氏だ。当初は企業側から明確なブランドメッセージを打ち出していたが、定性及び定量的にユーザーニーズを細かくリサーチし、それをバックキャスト的に商品やブランドメッセージ作りへと活用している。D2Cブランドの正攻法に捉われず、ユーザー起点でZENBを拡大させてきた秘訣や、その背景について高橋氏に聞いた。

◆ ◆ ◆

――ミツカンが2018年に発表した「ミツカン未来ビジョン宣言」。そこからZENBというブランドが生まれたわけだが、その経緯は?

「ミツカン未来ビジョン宣言」とは、10年先の未来に向けて「人と社会と地球の健康」「新しいおいしさで変えていく社会」「未来を支えるガバナンス」を掲げたメッセージだ。

10年後を見据えると、人口爆発による水不足や食料不足が懸念されており、地球環境温暖化やエネルギーにおける問題も深刻化する可能性がある。それに応じて、次世代の消費を担うZ世代や、ミレニアル世代の購買意識も大きく変化している。

そういった世界を想定したときに、我々は何をすべきなのか。食品メーカーのミツカンにおいて、注目すべきイシューのひとつがフードロスだった。そして、フードロスにアプローチするための手法として、相性が良いビジネスモデルがD2Cだった。言わずもがなだが、D2Cはダイレクトに商品を消費者に届けられる。そういった経緯から、野菜の皮や芯まで可能な限り「ぜんぶ」使うZENBが誕生した。

――ミツカンといえば、酢のイメージが強い。

実は、ミツカンは北米でパスタソースのRAGU(ラグー)やBERTOLLI(ベルトーリ)、イギリスではピクルスのBranston(ブランストン)、食酢のSARSON’S(サーソンズ)を買収しており、海外売上高比率が50.8%(2020年度)を占めている。あまり、そんなイメージは持たれないのだが。

そのため「ミツカン未来ビジョン宣言」を実行していく際には、既存のミツカンのイメージに頼るのではなく、グローバルな視点が必要だった。その上で、この宣言にコミットするために「新しいおいしさで変えていく社会」と「人と社会と地球の健康」といった目標の達成に向けるためにZENBを創った。つまり、ZENBは「ミツカン未来ビジョン宣言」の象徴といえる。

――2018年に発売後、販売は好調だと聞いている。

特に「ZENBヌードル」は、新たな主食として認知されており、販売数は300万食を超えた。黄えんどう豆を使った100%の麺で、グルテンフリー。喉越しや食感も良いため支持されている。最近では、ヌードルと同様に黄えんどう豆を使ったマカロニ「ZENBマメロニ」の人気もでてきた。こちらは副菜としての利用が多い。


ZENBのインスタグラム。ZENBを通してさまざまな食生活の提案も行う。

――ZENBはグルテンフリーやビーガン、ダイエットなど訴求ポイントがいくつかある。どのように、ユーザーとコミュニケーションをとってきたか。

当初は、「フードロス」といったブランド設立当初に掲げたようなメッセージを伝えていた。そして、高タンパクや食物繊維が豊富、といった機能面のメリットの訴求だ。しかし、購買者のニーズを探っていくと、グルテンフリーであったために購入したというユーザーが多かった。そこから、グルテンフリーを軸にしたコミュニケーションも重視している。

特にグルテンフリーに関心のある層は、ダイエットといった目的よりも、ユーザー自身の生活スタイルをより良くしたいと考える傾向がある。そのため、ZENBは比較的単価が高いものの、グルテンフリーに対して興味関心のある購買層と非常に相性がよかった。こういったことは、実際にZENBを販売しなければ分からなかったことだ。

――D2Cで、当初掲げたブランドメッセージを変えるのは珍しい。

もちろん、ブランド設立当初はしっかり訴求していた。しかし、ユーザーにとっては社会的意義よりも、美味しいかどうかが最も重要なニーズとなる。正直なところ、当初はフードロスを訴求していたため、あまり支持はされていなかったと思う。あくまで、第一優先が美味しさであり、その次にフードロスやエシカルといった側面が紐づいているべきだと考えている。

D2Cブランドは、一般的に共感してくれるユーザーからの「応援購入」という消費行動がある。しかし、特に食品ブランドにおいては、共感だけでは購買に繋がらない。我々は健康食品やサプリを売っているわけではない。機能性や社会的意義はもちろん重要だが、そもそも商品が良いからこそ購入され、その後にブランドを認知し、ファンになってもらうことがポイントだと考えている。

我々のミッションは、ZENBを通して美味しいものを、多くのユーザーに届けること。ブランドを浸透させるビジネスをしているわけでない。

――なるほど。D2Cの強みとしては、やはりファーストパーティデータを取得できることが大きい。顧客や販売データについてはどう取得し、活用しているか。

基本的に日々の購買データは取得し、分析している。加えて、ユーザーアンケートによってニーズのリサーチや、NPSで満足度調査も行っている。そして、これらをダッシュボードで確認できるようなシステムを構築した。

またその傾向をみながら、ZENBのヘビーユーザーには直接インタビューを実施している。人数は1カ月に約20人。外部ベンダーにオーダーするのではなく、私も含めたスタッフ全員で直接インタビューしている。そういったデータを集約することで、ZENBの商品開発やマーケティングに活用している。ユーザー起点のものづくりが、ZENBの強みだと考えている。

――現在は好調とのことだが、今後の課題は?

イノベーターやインフルエンサーなどのレイヤーには浸透してきたが、アーリーマジョリティやレイトマジョリティへの訴求が課題だ。これまではInstagramやTwitter上のUGC(ユーザー・ジェネレーテッド・コンテンツ)がブランド拡大をけん引してきたが、マスへの認知には違ったコミュニケーションが必要だと考える。

たとえば3月には、ZENBブランドの誕生3周年を記念したキャンペーンを開催した。これは、3つのレイヤーに向けて訴求した取り組みとなる。

まず1つ目が「夜に食べたいZENBメシ投稿キャンペーン」。これは、ユーザーにZENBヌードルやZENBマメロニを使ってもらい、オリジナルレシピを投稿してもらうものだ。これは既存の顧客に向けたものとなる。

2つ目の「Amazonギフトプレゼント」は潜在層、3つ目の「ZENBヌードル プレゼント」は認知しているがトライできてない層にアプローチしたものだ。こういったセグメントごとの細かなマーケティング設計を行い、PDCAを回していくことで、ZENBの認知拡大や顧客獲得に繋げていきたい。

――D2Cブランドは、EC主体だけでなくリアルリテールにも注力する動きがある。そこは意識しているか?

実店舗は重要だと考えている。特に食品はユーザーに食べてもらわなければ、価値が伝わりにくいものだからだ。リアルの接点を持つことは今後必要となってくる。ただ問題は“どこに”設置するかだ。ZENBの世界観を保持しなければならないのはもちろん、ZENBの全ての商品が揃うからこそ、その価値が伝えられる。たとえば、オーガニック系のスーパーであれば潜在顧客が多いかもしれないが、ZENBヌードルは恐らくパスタコーナーに陳列されてしまう。そういった課題を乗り越えられるリテールと協業することができれば、ゆくゆくは選択肢になってくるはずだ。

Written by 海達亮弥
Edited by 戸田美子

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