「村の長老を大切にするって話はどうなった?」:広告業界にはびこる エイジズム 、とあるシニアディレクターの告白

DIGIDAY

この2年余り、広告エージェンシー勢は口を揃え、すべての人にとってのより良い職場作りを公言してきた。

それにはつまり、心身の健康を促す取り組みから、燃え尽き症候群およびZoom疲れ対策、コロナウイルス蔓延を防ぐフレキシブルな働き方の導入まで、すべての取り組みが含まれる。なかでも最も顕著に掲げられているスローガンといえばやはり、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)であり、ジョージ・フロイド氏の殺害以来、その姿勢はとりわけ注目されている。

エージェンシー勢はこぞって、多様な人材の積極的雇用を示す数字を公表し、ダイバーシティの支援声明および行動宣言を発表してきた。ところが、そんなDE&Iの枠からシニアは不当に外されていると、エージェンシーのとあるベテランは指摘する。DE&Iの取り組みは口だけで誠意が欠けていると、彼は指摘し、エージェンシーにはびこるエイジズムのせいで、いわゆるシニアと呼ばれる従業員がどれだけ虐げられているのか、その現状を伝えたいという。

匿名性を保障する代わりに本音を語ってもらうDIGIDAYの告白シリーズ。今回は、業界歴20年以上のクリエイティブディレクターが、60歳を前にしての転職活動、そしてDE&I関連の話題にエイジズムも加えるべき理由について話してくれた。

なお、読みやすさを考慮し、発言は端的にまとめてある。

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――あなたは現在60歳近くであり、コロナ禍によるロックダウン当初、リモートで働ける職探しを始めた。その転職活動の実態は?

私の職歴は、カジノからヘルスケアまで、実に20以上もの業界にわたる。それだけ幅広い履歴を見たら、どのエージェンシーも間違いなく、「これは凄い、この人はぜひうちのチームに加えたい」と思うはずなんだ。だからその自信を胸に、ポートフォリオサイトを作り、基本的にオンラインでエージェンシーへの応募を始めた。実際、クリエイティブな人間を探している求人は山ほどあった。なのに、返事はどれも「お祈りメール」ばかり。正直、驚いたよ。というか、あまりに何社にも次々に断られて、文字どおりショックだった。だって、私は賞を取っているんだよ。然るべきエージェンシーに提供できる20年もの経験があるのに。

結局、応募したエージェンシーの数は50前後。そして、もらったのは50通前後の「お祈りメール」だった。

――当時はどんな気持ちだったか?

ひどく落ち込んだよ。でも、ふと気づいたんだ、そうか、私の履歴書を見る担当者よりも、経験値は私のほうがはるかに上なんだと。そこで、自分の経歴に嘘をつくことにした。職歴をほぼすべて消して、働いたエージェンシーは3社だけ、ということにした。そのエージェンシーで働いた年月についても、嘘をついた。そうしたら何と、ヘッドハンターや大手エージェンシーから反応が返ってくるようになったんだよ。

まったく、村の長老を大切にするって話はどうなったんだ、と言いたいね。クリエイティブな人間の場合、50歳を越えていたら、その人はもう使ってもらえない。70年代や80年代、年齢は価値のあるものだった。なのに今じゃもう、何の価値もない。

――エージェンシー勢は2020年前半、ダイバーシティの実現を盛んに公言した。そうした発言に照らして、エイジズムをどう思う?

詐欺だよ、インチキだ、特に大手エージェンシーではそうだ。私の経験や業界の同年代から聞いた話では、ようは給料の問題なんだ。エージェンシーはどこも、年かさのクリエイティブに金を使いたがらない。シニア1人に使う金で、大学とか専門校を出たての若いやつを2人雇えるし、そいつらを週40~80時間くらい働かせられるからだ。「金は有効に使わないと。若手を使えば、微々たる金を払うだけで済むし、質よりも量が手に入る」と、連中は考える。それが経営陣の計算だ。質を犠牲にして量を取るわけだよ。

インクルージョンには当然、身体の不自由な人も、50歳以上の人も、自宅で仕事をする必要のある人々も含まれるべきなのに。

――広告エージェンシー(そして業界全体)に対して、シニアクリエイティブおよびシニア人材の採用に関して期待することは?

シニア人材のことを、部族の長老的存在として敬って欲しい。シニア人材が持っている圧倒的な量の叡智と経験には、そのエージェンシーで働く全員にとって学ぶべきものがある。

[原文:‘What happened to valuing the elders of our village?’ Confessions of a senior creative director on ageism in advertising

Kimeko McCoy(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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