火星では音のスピードが地球より遅くなる。しかも高音と低音で速さが違う

GIZMODO

火星の不思議。

研究者たちがマイクと、レーザーと、数学の妙技を使って、火星での音の速度を計算したそうです。もちろん人類史上初。その結果、音速は火星だと地球よりも遅くなることがわかりました。NASAの火星探査機パーサヴィアランスが、またしても手柄を収めました。

火星の音をお届け

パーサヴィアランスはこれまでにもいろいろな偉業を成し遂げてきたんですが、特にすごいなって思うのが音です。火星に到着してまだ間もなかった2021年3月には、火星のナマの音を初めて人類の耳に届けてくれました。パーサヴィアランスに搭載された「SuperCam」にはマイクも付いていて、これを使ってジェゼロクレーターに吹き荒ぶ風の音や、レーザーの「カチッ」という音、そしてタイヤが砂利の上を進んでいく音などを記録することができたんですね。

実は、このマイクが火星環境下でちゃんと録音できるかどうかは確証がありませんでした。なぜなら、火星の大気が地球に比べるとめっちゃ薄いから。火星の大気圧はたったの0.095psi(655Pa)であるのに対し、地球の海面気圧は14.7psi(101,353Pa)です。音は伝達されるための媒体を必要としますから、火星の薄い空気の中でもちゃんと聞こえるのかどうかは誰にもわからなかったんです。

ですが、結果的にはパーシー(パーサヴィアランスの愛称)のマイクはバッチリ「火星音」を捉えることができていました。そして、そのデータを賢く使って火星での音速を測ることに成功したのが米ロスアラモス国立研究所のBaptiste Chideさんをはじめとする研究者たちです。詳しい研究結果はこちら。3月7日から11日にかけてテキサスで行われた第53回月惑星科学会議で発表されました。

速さ=距離÷時間

Chideさんたちはどのように音の速度を測ったんでしょうか?

パーサヴィアランスのSuperCamは探査機のマストに取り付けられており、地表から2.1メートル離れています。ここから最大7メートル先にある岩石めがけてレーザーを放射し、岩石を瞬時に粉砕します。そうやって粉々にした岩石の成分を分析することで、微生物の痕跡がないか、また人間にとって有害な物質が含まれていないかを調べています。

さて、Chideさんたちはこのレーザーが様々なロケーションにおいて放射された実験データを150回分取得。さらに当時の風速などの気象情報も調べました。そしてレーザーの「カチッ」という音が放射されてからマイクに届くまでの時間を割り出すことで、音の速度を計算したそうです。その結果、火星での音の速度は秒速240メートルだとわかりました。これは地球での秒速340メートルよりも遅め。ちなみに、この音速を割り出す方法を使って周囲の気温も測れるそうです。

低音の音速はさらに遅い

さらに興味深いことに、240Hz以下の低音は秒速230mでしか進まないこともわかったそうです。地球だと人間の可聴領域である20Hz〜20,000Hzに含まれる音はすべて同じ速度で進みますが、火星では可聴領域のど真ん中で突然音速が変わってしまうのだそう。太陽系内でこの現象が起こるのは火星のみだそうです。

そのまま「火星の特異性(Mars idiosyncrasy)」と呼ばれることになったこの現象を引き起こしているのは、低気圧における二酸化炭素分子の特異な性質なのだそうで、研究者によれば「240Hz以上の音はエネルギーを弛緩できない」ことに起因しているとか。さらに、このように「火星の音響環境においては高音が低音よりも先に耳に届くため、ユニークな音楽体験を引き起こすかもしれない」とも説明しています。

火星で音楽を聞いてみたい

すごく気になります、この「ユニークな音楽体験」。240Hz以下の音は、ベース音などの低音域から人間の声の最も低い音域を含みますよね。だとしたら、火星で音楽を流したら、中音域と高音域の音だけが先に聞こえて、そのちょっと後からドラムやベースギターなんかで構成された低音域のリズムセクションが追いかけてくるってかんじになるんでしょうか(遠くにいればいるほど)。しかも、大気中の二酸化炭素のもうひとつの性質として高音を減衰させる作用もあることを考慮すると、もうメチャクチャになるのでは…!

次回の火星ミッションには、ぜひ屈強なスピーカー音源も持ち込んでいただきたいものです。火星で聞くとしたらどんな音楽がいいかな〜?

Reference: Lunar and Planetary Science Conference

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