テレワークが定着した昨今、INTERNET Watchの編集部スタッフやライター陣も、それぞれの仕事環境を改善すべく日々工夫を凝らしている。この連載では、そんなスタッフが実際に使ってオススメできると思ったテレワークグッズのレビューをリレー形式で紹介していく。今回はテクニカル系の記事を多く執筆していただいている小林哲雄氏のレビューをお届けする。
買い切りプランあり!追加料金不要な個人向けクラウドストレージ
無料で使えるクラウドストレージは大体10GBぐらいが現在の相場で、それ以上はサブスクリプション型の利用というのが一般的だ。たとえば筆者の場合、Gmailに移行して以降のすべてのメールを保持するため、Google One 100GBの契約を行っているし、それ以外にも、Acronis Cyber Protect Home Officeの1TBストレージをバックアップ用に利用している。
以前は「(実質)無制限」の有償オンラインストレージも存在したが、これらはほぼ淘汰されてしまった。最近ならばAmazonのUnlimitedストレージやGoogle Photoで影響を受けた人も多いだろう。
一方リモートワークでは、どこからでも使えるクラウドストレージが欠かせない。大企業でもMicrosoftのOneDrive for BusinessやBOXのようなクラウドストレージを活用している。
筆者のような個人事業主の場合、エンタープライズ向けクラウドストレージは不要だが、完成した原稿をOneDriveに保存してやり取りをしている(筆者のメインアカウントは古い事もあってOneDriveの無料枠が40GBあり、まだ10GBも使ってないので当面は安泰だ)。
テキストにリサイズした画像を含めた完成原稿はせいぜい数十MBなので、無料版でもなんとかなるが、動画ファイルをアップロードしてシェアするわけにはいかない(受渡しにクリップ画像を入れることもあるが、数か月後に消去している)。
大容量ファイルの受け渡しとしてNASを利用する方法(関連記事:「Synology Drive」でテレワークもファイル共有も! 1万円台のNASでもPCとファイルを自動同期)もあるが、もう少しハードルが低い方法があるとよいと考える人も多いだろう。
先日、とあるオンライン公演動画をシェアする必要があり、そこで利用したのが「pCloud」といういサービスだ。pCloudは、買い切りプラン(ライフタイム)があり、そして個人向けクラウドストレージとしてかなりの大容量(確認できる範囲で4TB)を実現している。
無料ユーザーは実質的に「おためし用」。有償での500GB/2TB利用が本命か
pCloudは、現在スイスに本社を構えるオンラインストレージベンダーだ。設立は2013年と比較的若い。現在1400万ユーザーを突破しており、日本の有償ユーザーも6万人を超えたという。
ご多分に漏れず、この手のオンラインストレージはサインアップで一定サイズ(自力で10GB、友達を多数招待して最大20GBになるという)が無料で利用できる。しかし、ログオフしてから6か月でアカウントが消える上、常用するのに20GBは心もとないのでお試し用と割り切るのがよいだろう。
有償のオプションは色々とあるが、容量に関していえばシンプルで500GBと2TBしかない。しかも年額制と買い切り(ライフタイム)の2つの選択肢しかなく、買い切りは3.5年分程度の値付けとなっている。なので、まずは試してみて、使い勝手や速度に不満がなければ買い切りを選ぶのがよいと思う。
ちなみに規約によると、ライフタイムはアカウント所有者(譲渡は禁止されている)の生涯または99年の短い方と規定されている。あくまでサービスが継続すれば、という条件が付くが、よほど長生きしないかぎり、生きている間は「ずっと使える」と考えてよい。
データは米国か欧州のデータセンターに格納されるため、利用環境によって転送速度差が生まれる。以前はデータセンターを決めたら変更できなかったと記憶しているが、現在は変更可能だ。
データセンターを決定する手助けとして、ウェブの設定画面に速度テストも用意されている。筆者の環境では米国サイトが安定しているものの、ダウンロード速度は欧州サイトの方が4倍速かった。しかし一方で、アップロード速度は米国サイトの半分以下と結構悩ましい数値となっている。
また、5人までのユーザーで共用できるファミリープランもある。大容量を1人で使うのはもったいないと考えるならば、ファミリープランもありだろう(ビジネスプランもある)。ファミリープランをざっくり説明すると、契約者の保持する容量の一部を子アカウントに使わせるもので、割り当て容量は親が設定可能なので「軒を貸して母屋を取られる」が起きない。
オンラインストレージでは当たり前だが、第三者にファイルを公開することもできる。公開はフォルダ、またはファイルのリンク以外に、他のpCloudユーザーとのフォルダ共有、そして共有・閲覧前提のパブリックフォルダが用意されている。
ファイルリンクは、プレビューのみかダウンロードも許可するかの設定以外に、パスワード保護に加え、リンクの有効期限が設定できる。設定ミスでずっと公開状態にならないのはうれしい。ただし、本人以外がダウンロードするとその分の転送容量を消費するので、ファイル配布用として使うのは難しくなっている。身内用にしておくのがよいだろう。メディアファイルはウェブブラウザー上でプレビューできる。動画の場合、わざわざダウンロードして見なければいけないことは少ないので、これはうれしい仕様だ。
オプションは他にも盛りだくさん
買い切りだけでは運営的に成り立つのか? という疑問もあるが、オプションが色々と用意されている。
pCloudの特徴の1つになっているのが、暗号化フォルダだ。AES256と強度の高い暗号化方式を使っているだけでなく、ローカルで暗号化したファイルを送るので、pCloudが暗号キーを保持しない(この仕組みゆえに暗号化フォルダは共有できない)。暗号化容量に制限はない。暗号化オプションは買い切りもあるが、年額制、月額制と14日間のお試し利用も用意されている。
第三者へのファイル公開は転送容量を消費すると書いたが、これも増やすことができ、年額制、月額制が用意されている。
もう1つ、オンラインバックアップ向けの機能となるが、履歴管理を1年に延ばすことができる。ちなみに無料プランでは15日、有料プランでは30日が標準となっている。この機能だけ買い切りはなく年間サブスクリプションだ。
容量に関して従来500GB or 2TBと思っていたが、昨年末に「Get an extra 2TB at the best possible price」というプロモートメールが届いている(価格は同一)。更なる買い増しができるかどうか分からないが、少なくても4TBの運用が可能だ。
筆者は一昨年2TBを買い、昨年暗号化オプションも買っている。さすがに海外サーバーを使っているため爆速ではないものの、おおむね満足している。
転送速度は少々遅い。筆者は現在米国のデータセンターを活用しているが、2Mb/s程度の速度しか出ていなかった。対してGoogle Driveでは7.9Mb/s、OneDriveで4.9Mb/sだったので見劣りは否めない。容量も速度も最高ではないが外部アーカイブ用と割り切れば問題ないと思う。
他のオンラインストレージのバックアップ先にも。日本語化とお試しキャンペーンも
大容量のオンラインストレージゆえ、任意のフォルダからの自動バックアップ(要アプリ)できるほか、他のオンラインストレージの自動バックアップにも対応している。
現在Google Drive/Photo、One Drive(One Drive for Businessは現在非対応)、Dropbox(Dropbox Business/Enterpriseは現在非対応)、Facebookに対応している。2つのクラウドストレージにバックアップを取れば、何か問題があった際の復帰が容易になる。
また、スマートフォンアプリでは画像などの自動バックアップが行える。スマートフォンで撮影した画像を無圧縮ですべて保存したい人には十分利用できるだろう(Automatic Uploadフォルダに端末名フォルダが作成されて格納される)。
ウェブ画面は3月に日本語化され、日本人向けとして大きくハードルを下げた。ヘルプや規約も日本語化されている。これは日本のパートナー企業の存在が大きいようで、この企業から日本円による購入も可能となっている。ちなみにリセラーには割引価格で提供している関係上、特別なセールでない場合はリセラー経由の方がお得に購入できる。
現在、日本語化記念という事で「500GBが3か月無料」のキャンペーンが行われている。今回記事を書くために作成した無料アカウントにも後付けで有効になった(申し込み期限は2022年12月31日[GMT]まで)。500GBあればかなり大きなファイルをやり取りして速度や使い勝手を調べることもできるので、これはうれしい(転送容量がないので第三者への共有利用はできないようだ)。
pCloudはそれなりのストレージ容量が欲しく、あまり管理に手間をかけたくない人には向いているサービスだと思う。バックアップ先として利用するほか、GBクラスの動画ファイルを比較的安全にグループ共有するような使い方も行える。
最大の懸念点は「サービス終了にならないのか?」だろう。企業である以上、倒産やサービス終了になる事がないとは言い切れないが、サービス開始から8年が経過していることを考えると、早々にビジネスが終了するとは思いにくい。また、現在1400万ユーザーが利用、日本でも買い切りライセンスユーザーが6万を超えているため、ビジネスとしては堅調であると考えられる。