Q&A:米・テレビ局の「 キャリッジフィー 」とは? – 有料テレビプロバイダーがテレビ局オーナーに支払う料金

DIGIDAY

米国のテレビ局のオーナーが、従来のテレビ放送からストリーミング配信を中心としたビジネスに切り替えるには、いくつかの大きな障害があります。そのひとつが、有料テレビプロバイダーから番組提供費用として受け取っている収益が失われてしまうことです。このいわゆるキャリッジフィーの存在が、有料テレビプロバイダーの加入料が高く、その加入料を支払わなければ番組を視聴できない大きな要因でもあります。

しかし、テレビ離れが進むなかで、有料テレビプロバイダーの加入者数に基づいて算出されるこのキャリッジフィーの重要性が高まっています。米国では、有料テレビプロバイダーの解約者が2021年に469万人となり、2019年の410万人から増えたことが、調査会社ライヒトマン・リサーチ・グループ(Leichtman Research Group)の調べで明らかになりました。この状況はテレビ局が以前から採用している二重収益モデルの一方に脅威をもたらしているため、テレビ局のオーナーは、ストリーミング配信において加入料と広告収入を組み合わせた新たな二重収益モデルを作り出す必要に迫られています。

いつものQ&Aシリーズで、解説していきます。

──キャリッジフィーとは何ですか?

キャリッジフィーは、米国の有料テレビプロバイダーが、従来のテレビチャンネルを自社のケーブルサービス、衛星サービス、有料ストリーミングサービスで配信するために、テレビ局のオーナーに支払う料金のことです。「アフィリエイト」や「配信料」とも呼ばれるこの料金は、毎年数億ドル~数十億ドル(数百億~数千億円)の収益をテレビ局のオーナーにもたらしています。

──キャリッジフィーはどのように計算されるのですか?

キャリッジフィーは、テレビ局の番組を受信する有料テレビプロバイダーの加入者数に基づいて算出されます。プロバイダーは、加入者ごとに料金をテレビ局に支払っています。有料テレビプロバイダーとの契約が「バンドル契約」といわれることが多い理由は、この仕組みのためです。有料テレビプロバイダーは、複数のテレビ局をひとつにまとめて月額料金を請求し、加入者が事実上テレビ局を選べないようにしています(ただし、特定のテレビ局をまとめた複数のコースを提供しているのが一般的です)。

──すべてのテレビ局が同じ金額のキャリッジフィーを受け取っているのですか?

そんなことはありません。キャリッジフィーの金額は、有料テレビプロバイダーとテレビ局のオーナーが個別に交渉します。一般的には、そのテレビ局が有料プロバイダーにとってどれほどの価値をもたらすのかが基準となります。たとえば、加入者の獲得や維持にどれだけ役立つのかといった具合です。この交渉はスポーツチームと選手の契約交渉のようなもので、トップ選手であれば契約条件は良くなります。

──有料テレビプロバイダーはテレビ局の番組を配信するためにいくら払っているのでしょうか?

調査会社のSNLケイガン(SNL Kagan)によれば、加入者ひとりにつき1ドル(約118円)未満からディズニー(Disney)傘下のESPNの7.64ドル(約905円)までさまざまです。契約期間はたいてい2~10年で、更新時に両者で料金を交渉できます。

──有料テレビプロバイダーで特定のテレビ局が見られなくなることがあるのは、そのためなんですね?

その通りです。有料テレビプロバイダーの加入者数は減っており、テレビ局はキャリッジフィーから得られる収益を失いかねないため、損失を穴埋めしようとキャリッジフィーの引き上げを交渉しています。一方、有料テレビプロバイダーは、視聴者が減って加入者の獲得や維持への貢献度が弱くなっているテレビ局への支払いを増やしたくないため、キャリッジフィーの引き下げを求めています。

両者が合意に達することができなければ、既存のキャリッジ契約は終了し、該当のテレビ局は有料テレビプロバイダーのラインナップから消えることになります。2020年には、こうした契約交渉の決裂によって、テレビ局は1840万ドル(約21億8200万円)のアフィリエイト収益を失ったと、SNLケイガンは報告しています。

──「バンドル契約」の話に戻りますが、なぜ個別のストリーミングサービスに加入できるように個別のチャンネルを選べないのですか?

ここでものをいうのは数の力です。加入者がチャンネル単位で料金を支払えるようにすれば、支払いをする加入者が少ないチャンネルが出てきて、テレビ局のオーナーが得られる利益が減るかもしれません。同じく有料テレビプロバイダーも、チャンネルのラインナップを自由に選べるようにするより、複数のチャンネルをひとつの加入契約にまとめたほうが、多くの利益を得られるかもしれません。

──ですが、有料テレビプロバイダーに加入せずに、テレビ局のストリーミング配信サービスを契約することもできます。

確かにそうです。ただし、テレビ局のストリーミングサービスが、従来のテレビと同じ内容を配信しているとは限りません。テレビ局のオーナーは、有料テレビプロバイダーとの契約によって、プロバイダーのエコシステム以外の場所での配信に制限を課せられていることが一般的です。ディズニー傘下のHulu(フールー)やNBCユニバーサル(NBCUniversal)のピーコック(Peacock)、パラマウント(Paramount)のパラマウント+(Paramount+)といったサービスで、従来のテレビで放映されてから数カ月経たなければ見られない番組があるのはそのためです。テレビ局のオーナーがこうした制限を緩和するために交渉することは可能ですが、たいていの場合、キャリッジフィーが引き下げられることになります。

[原文:WTF are TV carriage fees?

TIM PETERSON(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:長田真)

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