今回のブリーフィングでは、ファッションブランドの創業者が資金を投資している先について深く探る。そのほか注目の話題は以下の通り。
・エクスプレス(Express)の2021年業績発表
・ファッションンブランドのアリス+オリビア(Alice + Olivia)がNFTをローンチ
・ニットウェアの台頭
・ブランドは男性向けにインフルエンサー戦略を書き換えている
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D2Cブランド創業者の最近の投資はファッションの方向性に光を当てている
控え目に言っても、小売業はいま不安定な環境に置かれている。ブランド創業者が自社以外のどこに投資しているのかに目を向ければ、ブランドのリーダーはそれぞれの業界がどのように淘汰されていくと考えているのか知ることができるかもしれない。
創業者の才能に魅力を感じ、ジュエリーブランドに投資
D2Cスリープウェアブランドのルニヤ(Lunya)の創業者兼CEOでベンチャーキャピタル会社NaHCo3の代表を務めるアシュレイ・メリル氏が、パンデミックの最中にジュエリーブランドのドーシー(Dorsey)に投資を行う動機となったのは、ドーシー創業者の、みずから率先して「とにかく何とかやってみる」という折り紙つきの才能だった。彼女の観点からすれば、予期せぬ挑戦に常に適応していくことこそがニューノーマルなのだ。
「デジタルネイティブな環境は、私たちの足元で動き出している」とメリル氏は言う。「こうしたビジネスがうまくいくための確実な方法はない。順応できるようにならなくてはいけないし、つねに反復しなくてはならない。なぜならソーシャルメディアが変化しているからだ。そして、人も変化している。私たちは生き方や活動の仕方を転換させた大規模なライフイベントをちょうど切り抜けたばかりだ」。
2年足らずで成長させた副業のジュエリーブランド
2019年11月にドーシーをローンチする前、創業者のメグ・ストラチャン氏は、バンディア(Bandier)、アニンビン(Anine Bing)、ガールフレンドコレクティブ(Girlfriend Collective)といったブランドに勤めており、eコマースで15年の経験を積んでいた。ガールフレンドコレクティブのグロース部門バイスプレジデント代理として働き始めて3カ月後に、彼女は副業のような形で自分の会社をスタートさせた。それと同じ時期、言うまでもなく彼女もまたパンデミックによる個人的なストレスを抱えていた上に、新米ママとしての生活もこなしていた。だが、彼女はヴィンテージアイテムの職人技とスタイルを取り入れた、美しく丈夫なジュエリーを自分にも購入できる価格帯で販売することにチャンスを見出していた。
わずか2年足らずで、ストラチャン氏はドーシーを7桁の売上を誇る事業へと成長させた。メリル氏を唯一の出資者とする最初の資金調達から3日後、彼女はついに本業を離れてフルタイムでこの仕事に取り組むことになった。また、デザインからブランドのeメールまで、それまではあらゆることをたったひとりで行ってきた彼女は、チームを築くことにした。
ストラチャン氏は、とくにガールフレンドコレクティブでよい結果を出してきたことで自信がついたと語っている。同社は、彼女が在任中に前年比350%の成長を遂げている。さらに、ガールフレンドコレクティブの創業者でCEOのクアン・ディン氏は、ストラチャン氏が同社を辞めた直後にドーシーのことを知り、投資を試みたという。その評価額はストラチャン氏が求めていた額には及ばなかったものの、ガールフレンドコレクティブの親会社であるストライプス39(Stripes39)のエグゼクティブが、現在ブランドの正式アドバイザーに名を連ねている。
卸売から完全なD2Cへ
「パンデミックのおかげで(両方の仕事を成功させることが)できた。なぜなら、私が家にいられたから」とストラチャン氏は言う。「自宅のガレージでひと通りの仕事をしてから、昼休みをとり、また家の角に行って注文を梱包した。そして夜には娘を寝かせて、さらに注文を梱包する。日中、普通ならランチを食べに行くために車を運転している時間に、私はこのビジネスを(構築)していた」。
ドーシーは当初、グープ(Goop)やリボルブ(Revolve)といった「主要な企業すべて」とつながっており、卸売りパートナーに大きく依存していたという。しかし、買掛金の管理が会社の将来を脅かすようになったときーー「率直に話すと、相手がお金を払ってくれなかった」と彼女は述べたーー完全にD2Cビジネスに移行すると決意した。
彼女はドーシーのウェブサイトをスクエアスペース(Squarespace)に開設、その後Shopifyに移行した。また、FacebookやInstagramなどのデジタル広告にも力を入れたが、現在はその予算の多くをインフルエンサーに再配分している最中だ。
古いマーケティング戦略は、もう通用しない
デジタル広告について彼女は、「(利用可能なトラッキング)データがあまりにひどいので、現時点では顧客獲得のために何を支払っているのか、本当にわかっている人などいないのではないか」と指摘する。「もはや未知の領域になっている」。
より新しいブランドアンバサダープログラムは、すぐにビジネスの20%を占めるまでに成長し、ストラチャン氏の計画では、いずれはインフルエンサーが売上の30〜40%を牽引することを目指している。投稿によって売上を伸ばした人に報酬を与える本来のアンバサダープログラムだけでなく、商品のプレゼントや独占イベントの開催もその戦略の中心になる予定だ。
また同社は、検索、eメール、テキストマーケティングにも投資しており、ダイレクトメールの展開準備も進めている。さらにドーシーのソーシャルチャンネルに生の動画を投稿したところ、エンゲージメントによる成功がみられたたため、ストラチャン氏は「TikTok担当者」を雇用しているところだ。
「古い(マーケティングの)戦略は、もう通用しない」と彼女は言う。「以前のような人材や代理店を雇うことはない。あらゆることが急速に変化しているので、私たちはみなリアルタイムで学んでいる」。
今年の第3四半期までに、オンラインショップの利用者を対象にした購入前の試着プログラムをローンチした後、ニューヨークとロサンゼルスにドーシーの店舗をオープンする計画である。「私たちはエンドツーエンドの消費者体験に注力している」と彼女は述べた。
これまでドーシーでは人工宝石を使用し、約350ドル(約4万1600円)のネックレスを販売しているが、毎年500%の売上成長率を記録している。現在は2週間ごとに新商品を発売しており、今後90日間で300点の新しい製品を展開する計画だ。
投資家との出会いはInstagram経由
長年グロースマーケティングの役割に限定してきたストラチャン氏だが、こうした成長のさなかに自分の好きなブランドマーケティングへと傾倒しつつある。その両方を行うことができる彼女の能力こそが、メリル氏をドーシーに引き寄せた理由のひとつだ。メリル氏が初めてストラチャン氏に出会ったのは、ストラチャン氏がInstagramのDM経由で資金調達の質問をしてきたときのことだ。
「彼女は、多くの(適切な)ツール、明確なビジョン、オープンマインド、学ぶ意欲を持って現れた」とメリル氏は述べ、ドーシーのスタイルが時代を感じさせないこともセールスポイントだと指摘した。「そのようなゆるぎない基盤があって柔軟に物事を吸収できる人は、誰にも止められない」。
現在、メリル氏はストラチャン氏のメンターとして、ほぼ毎日、彼女と話をしているだけでなく、メリル氏が投資を行い、CEOが交代する間の1年ほど会社の運営を行っていたアクティブウエアブランドのアウトドアボイシズ(Outdoor Voices)のチームとも話をしているという。
ストラチャン氏との仕事についてメリル氏は、「(この関係は)双方にとって有益だった」と話す。「競争の激化、買収コストの増加、製品コストの上昇など、さまざまな問題が山積みだが、ふたりともそうしたことを解決しようと試みており、彼女はすばらしい相談役となっている」。
エクスプレスの2021年の業績の内幕
現在、「ショッピングモール向けブランド」というイメージを払拭しようと躍起になっているエクスプレス(Express)は、3月9日、2021年の第4四半期と通年の業績を発表した。注目すべきは、第4四半期の売上高が前年比53%増、通期のeコマース需要は2020年比で33%増となり、後者はブランドアプリの改善とユーザー生成コンテンツの導入拡大が寄与したという点だ。そして最後に、2021年1月以降に270万人が新規会員に加入するなど、アクティブなロイヤルティメンバー数が史上最多となったという報告があった。
決算説明会の後、CMOのサラ・ターヴォ氏は、昨年採用した戦略とその結果の数字についてさらに詳しく説明した。
第4四半期にTikTok、Instagram、ライブストリームで1億1000万回の動画視聴を達成するなど、動画に注力した新しいキャンペーン戦略について:
「当社のキャンペーンは、四半期ごとにインプレッションの点で大きくなっている。バラエティトークショー『ケリー・クラークソン・ショー(The Kelly Clarkson Show)』でのセグメントや、アデル氏のテレビの特番『ワンナイトオンリー(One Night Only)』でのスポットで、(『RSVP Yes!』という)ホリデーキャンペーンをローンチした。またすべてのソーシャルプラットフォームでのローンチも行っており、『ホリデープランがあることを言わずに教えてほしい』という発想でさまざまなインフルエンサーに関与してもらった。インフルエンサーたちはホリデーシーズンのルックをすべて披露したが、それは私たちが推しているトレンドであると同時に、ホリデーシーズンにおけるファッションの悩みを解決するのに役立つものだった。これは、当社のスタイリングコミュニティをどのように活用すれば、顧客にインスピレーションやいいアイデアを授けることができるのかという発想に基づいている」。
ロイヤルティプログラムの成功の原動力となったのは何か:
「昨年3月のリブランドとリローンチから(ロイヤルティプログラムとともに)スタートした。ユーザーエクスペリエンスとプログラムのブランディングを強化したかった。以前は、銀行や取引ベースのプログラムのような感じだったので、顧客にとって魅力的なものをベースにハード面でのメリットを進化させ、プログラムにソフト面のメリットをさらに取り入れたいと考えた。その結果、プログラムの価値提案がよりうまく明確になり、人々に関与してもらうことができたため、オンライン体験の向上と顧客獲得だけでなく店頭での体験も改善された。ロイヤルカスタマーの価値と、それが長期的なブランドの健全性と売上に貢献することはだれもが知っている。当社では、店頭でのショッピングパーティー、限定オファーや懸賞など、さまざまな方法でこのプログラムを活性化してきた。そして、ロイヤルティプログラムのグループに自分たちは特別であると感じてもらい、ブランドともっと関わりたいと思わせるような方法を引き続き模索していく」。
改善された新製品の品揃え:
「2021年には製品を完全に再構築した。マーチャントリーダーは、彼女がエクスプレスのエディット哲学と呼ぶものにチーム全体を注力させた。その考え方は、全員が同じエディットポイントに向かって取り組み、トップス、ボトムス、ワンピースなどすべてにおいてモダンで汎用性の高い品揃えを作り出すというものだ。アイテムを組み合わせて、ドレスアップからドレスダウンまで、またその中間のあらゆるルックを作り出すことができ、顧客は購入した製品からより良い価値を得ることができる。また(チームは)商品のフィット感や品質の向上にもかなり力を入れており、それが顧客の反応にも表れている。デニムに関しては、まさにフィット感のバリエーションに注力した。昨年、若い世代がスキニーデニムをバカにする風潮があったのは周知の通りだ。より幅広いオーディエンスにアピールするために、フィット感や素材感を多様化している」。
店舗のあり方について:
「顧客がブランドや商品を体験する上で、店舗は非常に重要な役割を担っている。今年はリテールチャネルのパフォーマンスにおける真の進歩があった。今、当社では既存の店舗に目を向けて、いくつかの市場でどのようにリフレッシュできるかを検討している。美観を向上させ、またそれが製品の魅力も高めるよう、よりよいフィッティング・ルームや、よりくつろげる場所を提供することを考えている。エクスプレスエディット(Express Edit)の店舗(のキュレーション)でも、すばらしい結果を目にしている。それらの店舗は人通りが多く、アクセスしやすい場所にあるため、新規顧客の獲得や既存顧客の再来店といった点では従来のどの店舗よりも優れている。また当社の不動産チームは(新しいエディットストアのための)場所を見つけるために一生懸命取り組んでいる」。
「Web3はファッションの向かう先」
1月下旬、パーソンズ・アントレプレナー(Parsons Entrepreneur)のバーチャルイベントで、アリス+オリビア(Alice + Olivia)の創業者ステイシー・ベンデット氏は、同ブランドがメタバースディレクターを雇用すべく動いていると話した。そのとき彼女は、2020年に始めたクリエイターのための求人プラットフォーム、クリエイティブリー(Creatively)で人材をスカウトしていた。
3月10日、アリス+オリビアは初のNFTをリリース、これはベンデット氏のシグネチャールックをベースにした悪名高い「ステイス・フェイス(Stace Face)」モチーフをフィーチャーしたリミテッドエディションとなる。また購入者は、元Facebookのランディ・ザッカーバーグ氏が講師を務める、NFTの世界に参加する方法に関するクリエイティブリーのライブコースに優先的にアクセスすることができる。
「ファッションはアートであると私は常に信じてきたし、この新しいデジタル世界は、ブランドやデザイナーがコレクター向けの領域で作品を発表するための新たな方法を提示している」と、今週ベンデット氏は米Glossyに語った。
さらに彼女は次のように述べた。「Web3はファッションの向かう先であり、私たちのチームがその競争をリードしていきたい。将来的には、私たちは皆、クチュールを着たアバターを持ち、世界中のあらゆる都市でバーチャルに買い物をし、店舗はバーチャルとリアルを融合させた体験となるだろう。競争力を維持するためには、私たちも消費者と同じようにデジタル技術が使えるようにならなくてはならないし、だからこそすべての企業は、そのビジョンを戦略化する必要がある」。
快適でサステナブルなオンデマンドのニットウェアが台頭
セリノ(Serino)やエボリューション・セントルイス(Evolution St. Louis)などのアパレルブランドやメーカーは、最近、ファッションの方向性においてニットウェアが完璧な位置を占めていると大々的に宣伝している。着心地のよさと無駄のない生産はその始まりにすぎない。
ニットウェアの台頭を促進する企業のひとつに、4年前に創業したテクノロジープラットフォーム、クリエトミー(CreateMe)がある。同社は最近では、デザイナーのマリサ・ウィルソン氏が2月のニューヨーク・ファッションウィークで発表した2022年秋コレクションを製造している。また、1月にローンチしたトム・ブレイディ氏のテクニカルアパレルブランド、ブレイディ(Brady)とチームを組み、現在発売中の3Dニットボンバージャケットの制作も行っている。3月11日には、SXSWにてカスタマイズ機能にスポットライトを当てたアクティベーションを行い、その技術を披露する予定だ。
ブレイディの共同創業者でデザイナーのダオ・イー・チョウ氏は、サンプルへのアクセスが容易で環境に優しいことから、クリエトミーのブルックリンにある施設でボンバージャケットを製造することを「夢のようなシナリオ」と呼ぶ。また彼いわく、生産時間も半分以下に短縮され、スピードも向上した。
「ニットウェアは現在の重要な問題を把握しており、さらにその先を見据えている」とクリエイトミーの創業者キャム・マイヤーズ氏は述べている。「クリエイトミーはオンデマンド製造の中心に位置し、需要の上昇軌道を継続させる態勢ができている」。
もっとも優秀なメンズウェア・インフルエンサーは、インフルエンサーにあらず
そしてブレイディといえば、同ブランドの共同創業者イェンス・グリード氏が共同出資するコンテンポラリーブランド、フレイム(Frame)は、2021年秋にメンズラインをリローンチして以来、スタイルを重視しないインフルエンサーを起用しており、その中にはNFLやNBAの選手も含まれている。この分野のエグゼクティブとの最近の会話によると、多くのメンズウェアブランドで同じことが起きているようだ。そうしたブランドの顧客に影響を与えている人々について、ブランド・エグゼクティブたち自身の言葉で紹介する。
「(女性と比較するとSNSに)常に投稿している男性のニッチ層は小さい。彼らの多くにはさまざまな本業があり、そうした本業を通じてフォロワーを増やし、我々のために何かをすることができる。我々は、ゴルフやテニスをするアスリートのほか、そのスポーツをしないのではないかと思われているミュージシャンやセレブリティと仕事をすることが多い。現在は、パール・ジャムのフロントマンであるエディ・ヴェダー氏と、テニスコートの上で彼の動画を制作することについて話し合っている。彼がクールなのはよく知られているが、大のテニス好きであることを知っている人はいない」。
——ゴルフとテニスのアパレルブランド、レッドヴァンリー(Redvanly)創業者アンドリュー・レッドヴァンリー氏
「男性はほかの男性にスタイルのアドバイスを求めるが、その際、プロの専業インフルエンサーではなく、賞賛されていてすばらしい人生を送っている影響力のある人たち、つまりミュージシャンやアスリート、ビジネス界の人物などに注目する。我々は、そうした人たちすべてにリーチして話をすることで、彼らを我々の世界に引き込むことができる」。
——リボルブ(Revolve)共同創業者兼共同CEOマイケル・メンテ氏
「2004年のメンズ(カテゴリー)のローンチ以降、メンズジュエリーの進化や男性オーディエンスへのマーケティングの進化を目の当たりにしてきた。俳優のヘンリー・ゴールディング氏を当社のブランドアンバサダーに選んだのは、彼が情熱と気概を体現し、創造性と利他主義という当社の価値観を共有しているからだ。個々のスタイルやキャラクターが私たちのブランドと合致していて、なおかつその業界で最高の才能の持ち主であるブランドアンバサダーを見つけることが重要だった」。
——デヴィッド・ヤーマン(David Yurman)社長エヴァン・ヤーマン氏
「スタイルからルック、アイデンティティ、オーディエンスなどに関して、全員が異なる何かを提供している多種多様なインフルエンサーと仕事をしていることに誇りを持っている。これによって、彼らは私たちの消費者とつながっている。(たとえば、ブー・ジョンソン氏は)昨年まで私たちが開拓していなかったスケートという分野の人物であり、多くのファンを抱えている。そして昨年は、ミュージシャンのタイラ・ヤーウェ氏やリル・スカイズ氏から、シャキール・オニール氏やシメオン・パンダ氏といったスポーツ選手にいたるまで、多くの人々とコラボレーションを行っている」。
——ブーフーマン(BoohooMan)クリエイティブ責任者クリーブランド・キャンベル氏
Image via Ashley Barrett
[原文:Fashion Briefing: DTC brand founders-turned-investors shed light on fashion’s direction]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:猿渡さとみ)