露がウクライナに負ける可能性 – WEDGE Infinity

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 ダニエル・グロス(欧州政策研究センターの特別フェロー)がProject Syndicateのサイトに3月7日付けで「プーチンのポチョムキン軍(Putin ‘ s Potemkin Military)」という論説を書いている。

Torsten Asmus / DragonTiger / Leestat / iStock / Getty Images Plus

 「ポチョムキン軍」という言葉は、18世紀のクリミア併合を指揮したロシアの軍人・政治家、グリゴリー・ポチョムキンに由来する。彼は1787年、エカテリーナ大帝が新しく領土になったクリミアとその周辺を視察する旅行をした時に、皇帝に見せるためにニセの居住地を建設したとされている。このエピソードの史実性は疑わしいとされているが、「ポチョムキン軍」というのは、見せかけだけの軍隊の意味である。

 論説は、ロシア軍が見せかけだけであると指摘し、それほど強くないこと(予想された激しいサイバー攻撃や圧倒的な空軍力による制圧が無かった)、軍を支える経済産業力が西側に比較して劣ること(EU全体のGDPはロシアのGDPの約10倍である)、戦争およびプーチン政権の潮目が今後変わりうることを指摘したものである。

 「ロシアを士気が低くなる経済的衰退の路線に乗せた。それら以上に彼はウクライナ人が自由のために激しく戦うように動機づけた」、「もしウクライナ人が当初の攻撃に何とか耐えることができたら、無制限の西側の支持と彼らの決意は、プーチンの戦争、プーチン政権の潮目を変えることができるだろう」と言っている。若干楽観的な見方のように見えるが、一理ある議論であると思われる。

 ロシア軍の侵攻について、プーチンは予定通りであると言っているが、ウクライナ側の強い抵抗によりプーチンが期待したように進んでいないことは明らかである。民間人への攻撃、原発への攻撃など戦争犯罪に当たる乱暴なことをしているが、それでもロシアの思惑通りに戦況が動いているとは思われない。

プーチンに不都合な二つのニュース

 ロシア経済は西側の制裁でますます弱くなるだろう。国民生活は圧迫される。ロシア国民のウクライナ戦争への反対は経済困難、戦争の早期決着がないなか、今後徐々に高まると考えてよい。プーチンはそれがわかっているから、厳しい情報統制を行い、国民の目をふさごうとしているが、真実を正直に知らせずに嘘で国民の戦争支持を得ることはできないだろう。

 注目に値するニュースが二つある。

 一つは、「ウクライナに侵攻したロシア軍は職業軍人よりなっており、徴集兵はいない」とプーチンが言ったとのニュースである。徴兵された人は派遣されていないとの発言は、ウクライナ戦争への国民の支持が弱いとプーチンが認識していることを示している。アフガン戦争の時には、「兵士の母」という団体があり、徴兵兵士の母親が息子のことを心配し、戦争の是非を問題にしたことがあった。プーチンはそれを覚えているだろう。

 今一つは、プーチンがシリアより市街戦に経験のある兵士を傭兵として雇うとのニュースである。これも兵士不足、その背後にはロシア国内での戦争反対があることを示す。

 北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルク事務局長は、ウクライナ情勢は今のところ良くなるより悪くなる可能性が高いと言っており、その通りであると思われるが、プーチンがこのウクライナ戦争という賭けに勝つシナリオは見通せない。プーチン政権が終わる可能性は、時期や形は不明であるが、かなりある。

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