地球から1万光年以上離れた漆黒の宇宙に浮かぶ、ふたつの稀有な星が発見されました。
あまりにも常識からとっぱずれているため、これまで考えられてきた恒星の成り立ちをくつがえすかもしれないそうです。これらの星は、実は中心部分でまだヘリウムガスの核融合が起きているのに、表面が炭素と酸素──ヘリウムガスの核融合の燃えかすで覆われているのです。
え、本来逆の構造になるはずでは?
構造が従来とは逆
Monthly Notices of the Royal Astronomical Societyに掲載された論文によれば、PG1654+322とPG1528+025が発見されたのはつい最近のことで、ドイツのチームがアメリカにある大型双眼望遠鏡と中国のLarge Sky Area Multi-Object Fiber Spectroscopic Telescope(LAMOST)サーベイを使って調べたそうです。どちらの星も表面温度が太陽のおよそ10倍で、密度も非常に高いのが特徴です。
さらに特筆すべきは、表層がヘリウムガスが核融合を起こしたあとに作られる炭素と酸素でできていること。これらの星の直径と温度から推察されるに、中心ではまだヘリウムガスが核融合を起こしているのにも関わらず、です。
恒星の「たまねぎ構造」
これまでは、恒星がその生涯において核融合を起こしていくうちに、まずは水素ガスを使い果たして自重に耐えられなくなり、中心部分がつぶれると考えられていました。すると、水素ガスが核融合を起こしたあとに作られたヘリウムガスが圧縮されて温度が上がり、やがてヘリウムガスの核融合が始まります。
こうやって核融合の燃料を使い果たすたびに水素→ヘリウム→炭素・酸素→酸素・ネオン・マグネシウム…とだんだん重い元素が星の中心で作られていき、最終的には中心に鉄の核ができると考えられていました。これまでは。
ところが、PG1654+322とPG1528+025に至ってはその逆です。中心ではヘリウムガスがまだ核融合を起こしているのに、外側にその燃えかすであるはずの炭素と酸素が発見されたのですから。
当初は白色矮星なのでは?とも考えられたものの、白色矮星が核融合の燃料をすでに使い果たしてしまった星との定義がなされている以上は、これも違うようです。
通常、表面が炭素と酸素で構成されている星は、すでにヘリウムガスを使い果たしてしまっていて、白色矮星になる途中だと考えられてきました
と論文の筆頭著者でエバーハルト・カール大学テュービンゲン(ドイツ)の天文学者であるKlaus Wernerさんはプレスリリースで説明しています。
今回発見された新しい星たちは、その理解をいちじるしく試すものとなりました。
星同士が共食い?
こんなに変わった星をふたつも見つけてしまったからには、どうやってできたのかが気になりますよね。そこはWernerさんたちも気になったところであり、すでに2本目の論文(同じくMonthly Notices of the Royal Astronomical Societyに掲載)で仮説を展開しています。
2本目の論文の筆頭著者であるInstitute of Astrophysics La Plata(アルゼンチン)の宇宙物理学者、Miller Bertolamiさん曰く、
Klaus Werner氏が発見した奇妙な星たちは、ひょっとしたら非常に珍しいタイプの恒星合体が作り出したのかもしれません
とのこと。
私たちの論文では、正しい条件下においてなら、炭素と酸素で覆われた白色矮星が同じく炭素と酸素で覆われた白色矮星の連星と融合し、このような星ができる可能性を示しています。
Bertolamiさんによれば、ふたつの白色矮星が合体する過程で、大きい方がその重力をもって小さい方をズタズタに引き裂いてしまう可能性があるのだそうです。すると、ふたつの星はまんべんなく混ざり合ってひとつの星を形成するのではなく、大きい方の星が小さい方を共食いするようなかたちで合体する、と考えられるそうです。言ってみれば、大きな星が小さな星の中身を食べ尽くしてしまって、小さな星のぬけがらを被ってしまうかんじでしょうか。
この仮説は今後もコンピューターモデルを駆使してのテストが続けられ、パラメーターを実際のPG1654+322とPG1528+025に近づけてみても果たして有効かどうかが試されるそうです。
それにしても星同士が共食いするだなんて…。考えてもみなかった星の死に方。いっそ超新星爆発できれいに吹き飛んだほうがよっぽど爽快だろうと思えるぐらい、陰惨な最期です。
Reference: Monthly Notices of the Royal Astronomical Society(1, 2), 天文学辞典(1, 2)