共同通信社
米菓製造工場で火災 6人死亡の悲劇
2月11日深夜、新潟県の米菓製造業者「三幸製菓」の荒川工場で火災が発生。工場1棟が全焼した。現時点で6人の死亡が確認されており、うち4人は60代と70代の清掃担当のアルバイト女性であった。(*1)
三幸製菓といえば、アラレや煎餅、柿の種などがスーパーやコンビニなどにも並び、全国的にも名前を知られたメーカーである。そうしたメーカーの工場で人がお亡くなりになるような火災が発生したことは、非常に驚きである。
報道などの情報をまとめると、火災の影響で工場内が停電し、真っ暗となってしまったことで、逃げ遅れが発生したとみられている。(*2)今回は深夜の火災発生だが、たとえ昼間であっても、衛生的に近代化された工場においては停電が発生すれば避難は非常に困難になると考えられる。
「夜勤アルバイトは避難訓練に不参加」の愚かさ
そして僕が現時点でもっとも衝撃的だった報道は「アルバイトは工場の避難訓練に参加していなかった」という報道である。工場では年2回の避難訓練が行われていたようだが、訓練は日中に行われており、夜勤のアルバイトは避難訓練に参加していなかったのだ。
避難訓練の目的は、実際の現場で避難経路や待機場所を確認することだ。通常時であれば出入り口を間違える事はないが、火災などの混乱のなかで冷静でいることはとても困難だ。ましてや大きなメーカーの工場は面積も広く、非常口までの距離が遠いセクションもあるだろう。
安全に退避するためには非常口の確認と避難通路の把握。それでも通路が炎で遮られるなど、想定したルートが使用できなくなる可能性もあるので、複数の避難方法を工場にいる全員が把握しておく必要がある。そのために避難訓練は必須である。
普通に考えれば分かるが、こうした工場で働く人の大半はアルバイトであるし、その中には夜勤となる人も含まれる。彼らが参加していない「避難訓練」に果たしてどれだけの意味があったのだろうか。
避難の難しい現代の工場
もちろん、アルバイトであっても日頃から非常口を確認することくらいはできる。しかしそれも自分が働くゾーンのみの話である。近代的な食品工場では衛生管理の点から、ゾーン間の移動は制限されていることが多く、同じ工場の同じ棟内であっても自分の働く場所以外は立ち入らないのが普通だ。
定められた場所で働くアルバイトにとっては避難訓練でもなければ、他のゾーンの非常口を確認することはできず、その結果として自分が日頃知っている非常口への通路が炎にまかれてしまえば、途端に別の脱出ルートの見当が付かなくなってしまうのである。
実際、4人の清掃担当のアルバイト女性は玄関に繋がる防火扉の前で倒れていたという。(*3)普段通っていたと思われる場所が防火扉によって塞がれてしまい、煙で視界が遮られるなかで近くにあるはずの避難用扉を見つけられなかったのだろう。
彼女たちにも避難訓練を行い、避難ルートを確認させておけば、火災は免れなくても、火災による悲劇は防げたかも知れない。工場作業の多くを占める、避難訓練も受けていないアルバイトたちが、火災の影響で停電を起こした深夜の工場で炎と煙から逃げる。その困難さを考えると、もっと多くの死傷者がいても不思議ではなかっただろう。
命は取り戻せない 困難でも経営判断で訓練実施すべき
確かに大規模な工場でアルバイト全員に避難訓練を行うことは、非常に困難だ。アルバイト全体で避難訓練を行えば、ある程度工場を停止させなければならないし、また時給も支払わなければならない。
さらに当然、社員と違って専従ではないから、その日に出勤しない人も多いだろうし、24時間稼働の工場で、訓練の時だけ別のシフト時間帯に出てくるのも大変である。
だからといって「アルバイトは避難訓練に参加させなくていい」というのは、非正規労働者に対する差別的な態度であるといわざるを得ない。こうした事故を防ぐためには、経営トップが旗振り役となってでも、脱出ルートの確認をさせる必要がある。こうした悲劇が起きた以上、もしそうしないのであれば、それは怠慢と指摘されてもやむを得ないだろう。
様々な日時に気軽に参加できる少人数での避難訓練や避難経路確認の工場内ツアーのようなものを行うなど、たとえ事故が発生したとしても、それ以上の悲劇を防ぐための工夫はできるはずだ。
工場の設備は立て直すことができても、人の命は一度奪われれば取り戻せないということを、経営者たちには肝に銘じてもらいたい。
*1:「雪の宿」の三幸製菓火災、避難ドア開けられず逃げ遅れた可能性…バイト4人は訓練不参加か(読売新聞オンライン)https://www.yomiuri.co.jp/national/20220214-OYT1T50033/
*2:犠牲の清掃員4人、停電で避難路見失い死亡か 新潟・三幸製菓の火災(朝日新聞デジタル)https://digital.asahi.com/articles/ASQ2F76RLQ2FUOHB007.html
*3:防火扉前に4人 う回用ドア見つけられず逃げ遅れたか 新潟(NHK 首都圏のニュース)https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20220214/1000076627.html