シャープ戴氏がCEO退任についてコメント–ひとつの事業も放棄せず、黒字経営へと導いた約6年間

CNET Japan

 シャープは4月1日付で、会長兼CEOの戴正呉氏が、会長執行役員となり、呉柏勲常務執行役員が、副会長執行役員兼CEOに就くトップ人事を発表した。

シャープ 会長執行役員兼CEOの戴正呉氏
シャープ 会長執行役員兼CEOの戴正呉氏

 それにあわせて2月18日、戴会長兼CEOは、社員に向けてメッセージを配信し、今回の人事について説明。「社長就任からの約6年間、全社一丸となって経営改善に取り組んだ結果、シャープの経営は根本から改善され、企業風土も極めてポジティブに変化し、次の100年の新たな歴史を築いていく土台を構築することができたと考えている。3月末をもってCEOを退任し、本日開催した取締役会において、常務執行役員の呉柏勲(Robert Wu)氏に、今後のシャープの舵取りを託すことを決定した。呉常務執行役員は、主に海外事業で活躍し、私が絶大な信頼を置く幹部の一人である。必ずやシャープを輝けるグローバルブランドへと導いてくれることを確信している」と述べた。

 また、「2022年度は、シャープにとって極めて重要な転換点になることから、新CEOの順調な船出を支えるために、私自身は1年間、引き続き会長としてシャープの経営に携わる」とも述べた。

 戴会長兼CEOは、2016年8月にシャープの社長に就任して以降、社員向けメッセージを定期的に発信しており、そのなかで、2022年3月末でのCEO退任を明らかにしていた。

 戴会長兼CEOは、「4月から新体制をスタートすることになる。呉CEOのもと、より一層結束を強め、社員全員の力でさらなる成長を実現していこう」と社員に呼び掛けた。

 メッセージのなかでは、約5年半のシャープにおける経営の舵取りについても振り返り、「2016年、テリーさん(鴻海精密工業の創業者である郭台銘氏)は、鴻海の本部に『義』という文字を書き、すべての金融アドバイザーの反対意見を押し切って、シャープへの投資を決定した。私はテリーさんのその強い思いを背負って、社長に就任した。あれから約6年の歳月が経過したが、この間、社員とともに、抜本的構造改革を断行してきた結果、短期間で黒字転換し、2017年には東証一部復帰を果たすことができた。そしてその後も、外部環境がどんなに厳しくても、シャープは黒字を維持することができている。また、事業本部ごとに見ても、本社費用配賦の廃止により、経営の自由度が高まり、個々の事業の競争力が向上し、社員のモチベーションが高まり、チームワークの良い風土が醸成された。そして、一時売却すべき事業としてやり玉にあげられていたソーラー事業を含めて、シャープは、ひとつの事業も放棄しておらず、大半が黒字経営を継続している」と、約6年間のシャープの変革ぶりを示した。

2017年には東証一部復帰を果たした
2017年には東証一部復帰を果たした

SDPを完全子会社化する2つの狙い

 一方、2月18日に開催した取締役会で、現在20%の株式を持つ、大型液晶パネルを生産の堺ディスプレイプロダクト(SDP)を、完全子会社化する方針を決定したことについても報告。「現株主との協議や、最終合意ののち、法定手続きを経て、本取引を完了させる予定だ」とした。

 SDPの完全子会社化の理由については、「今後、世の中ではデジタル化が一層加速し、これに伴いディスプレイの役割がますます高まっていくことが想定される。シャープが将来にわたって、より良い製品やサービスを提供し続けるためには、ディスプレイ関連技術を強化していくことが極めて重要であり、これが今回のSDP完全子会社化の前提となる考え方である」とした。

 加えて「シャープでは、業績の安定化を目的に、SDPの持分売却を検討していたが、昨今の国際情勢や大型パネル市場の動向や、シャープの事業戦略などを勘案すると、いま、このタイミングで完全子会社化することが、将来のシャープにとって、必ず良い決断になると考え、今回の決定に至った」とも述べた。

 また、SDPは、シャープが2009年4月に設立した会社であり、当時のグリーンフロント堺全体での投資額が、シャープが液晶工場に4300億円以上、関連企業が5000~6000億円の総額1兆円規模にのぼっていたことに触れながら、「このような背景から、SDPには多くのシャープ社員が出向しており、土地やユーティリティなども、シャープからの賃借であるなど、シャープとSDPは、実質的に事業共同体となっている。そうした観点からも、SDPの完全子会社化には大きく2つの狙いがある」とした。

 ひとつめは、「テレビ事業におけるグローバル拡大戦略の加速」である。「シャープは、グローバルでの『AQUOS』復権に向けて、『AQUOS 8K』や『AQUOS XLED』など、特長的な新商品をいち早く市場に投入するとともに、日本でのシェアNo.1の維持、欧米でのブランドの取り戻し、中国での事業拡大戦略の再構築、ASEANでのブランド力強化など、グローバル事業拡大を積極的に推進している」と前置きした。

 「今後もこうした戦略を進めていくうえでは、テレビのコスト構造において大きな割合を占めるパネルの安定調達が極めて重要になる。だが、大型液晶パネル市場で非常に大きなシェアを持つ中国は、現在、米中貿易摩擦の真っただ中にあり、先日も、米国が自国企業からの輸出を制限する企業のリストに大手液晶パネルメーカーを含む中国企業33社の追加を発表し、摩擦はより深刻化している。このような状況下、過度に中国に基幹部品を依存することは、調達量や価格において、リスクを抱えることになりかねない」と指摘した。

 さらに、「現在、AQUOSには、SDPからは、主に堺工場製パネルを調達しているが、完全子会社化後は、今回の買収対象には含まないSDP広州工場で生産するパネルを有利に調達できる契約を締結する方針である。これにより、シャープは将来にわたって、大型テレビを5インチ刻みでフルラインアップでき、安定的に、優位性を保ちながら維持することができる。グローバル市場での競争を勝ち抜き、より収益性の高いテレビ事業を展開していくことが可能になる」とした。

 2つめは、「ディスプレイデバイス事業の強化」である。ニューノーマル時代の到来や、DXの加速を背景に、IT機器向けパネルの需要が高まり、現在、シャープにも多くの引き合いがあることを示しながら、「SDPにおいても、ノートPC用液晶パネルの開発および生産に着手している。また、今後も自動車やメタバースをはじめとしたさまざまな分野でディスプレイが活用され、さらなる需要拡大が期待できる。SDPを完全子会社化することで、シャープのディスプレイデバイス事業のアプリケーション拡大や、生産能力向上を図るとともに、お互いのリソースを融合させることで、将来のシャープの大きな強みに育てていきたいと考えている」とした。

 その上で、「かつて経済産業省が主導した『液晶日の丸連合』は、シャープが参加しなかったことで、その構想が頓挫したが、私は日本の将来のためにも、日本にディスプレイ事業を残し、再び世界をリードしていくべきだと考えている。かねてより、ディスプレイ事業を集結させた『日の丸連合2.0』の必要性を訴えてきた。今回のSDPの完全子会社化が、こうした動きを加速するきっかけになることを期待していている」とも述べた。

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