■日本でちょっと贅沢な「特製」ラーメンを食べると1,000円を超える。麺を大盛りにしチャーシューや味玉などのトッピングを「増量」にすることで高額なラーメンになる。
しかし日本のようなラーメンの歴史がなく「ラーメンは大衆の食べ物」という固定観念もないアメリカでは基本のメニューが1,000円以上となる。
ニューヨークなど一部の都市ではシンプルなメニューを注文してもラーメンは2,000円台となる。
ラーメンに常識がないアメリカでは、もっと客単価をあげようという向きもある。サンドイッチやピザなどの延長線上の食べ物にラーメンをおいているからできる芸当なのだ。
しかも流行りのデジタル・トランス・フォーメーション(DX)を組み合わせれば簡単に2,000円台以上という超高価格にも可能となる。
飲食店のDXとはモバイル・オーダーだ。モバイルオーダーは事前注文・事前決済システムだ。モバイル・オーダーはレジ待ち行列を緩和し、注文の聞き取りミスや勘違いによるヒューマンエラーを回避できることでクレームが減り、顧客ロイヤリティが高まる。
スタッフもより調理に集中できることで、店内オペレーションの合理化も図れるメリットがある。コンタクトフリーとなるモバイルオーダーはお客とレジ係りの物理的な接点がなくなることで感染リスクも最小化できる利点も注目されているのだ。
全米レストラン協会によると、モバイル・アプリなどの「カスタマー・フェイシングIT(Customer-facing Technologies)」に投資しているのはファーストフードチェーンで39%、カジュアル&ファインダイニング・レストランチェーンで50%、コーヒーチェーンで52%にも上っている。
モバイルオーダーをレストランに導入するのはパンデミックの影響だけではない。客単価のアップがある。
オンラインの食品注文プラットフォームの「チャウナウ(ChowNow)」の調査によるとモバイルアプリ注文は電話による注文より注文金額が平均で20%も増加するのだ。
モバイルオーダーの客単価が上昇するのはいくつかの理由がある。1つはモバイルオーダーではレジスタッフや注文をとるスタッフ、自分の後ろに並ぶお客など誰も待たせていないことがある。
時間を気にせずゆっくり注文できることでお客はよりカスタマイズできることになる。
普段なら注文しないデザートもモバイルオーダーなら決めるまで余裕があるため、注文する機会を増やすことになる。時間的な余地があることで有料トッピングも選択されやすい。
日本のラーメン屋では発券機が主流だが、一面に全メニューやトッピングが羅列している発券機のユーザーインターフェイス(UI)では全体のメニュー数が多すぎて注文が難しい。
後ろで待つお客の目を気にしては、トッピングをゆっくり選ぶこともできない。モバイルオーダーならこれが可能なのだ。
2つ目の理由としてモバイルオーダーなら注文確定後もアドオンの注文が可能となるからだ。レストランでスタッフに注文を告げた後、しばらくしてから忙しいスタッフを呼び止めて追加することに躊躇してしまう客もいる。
ファーストフード店なら食後にアイスクリームを注文しに再び行列に並ぶのは面倒だ。アプリ注文ならそのような抵抗感がなくなるのだ。
食べ終わったお客が再び発券機に行ってデザートを注文するのは難しい。
客単価がアップする3つ目の理由はスペシャルオファーをしやすいということがある。アプリのメインページなら、クーポンをオファーできる。顧客の多くが食わず嫌いになっているようなイチオシ・メニューをスペシャル価格で提案することで売上げアップにつながる。
発券機の固定化されたUIでは柔軟なオファーは無理だ。
またモバイルオーダーならアップセルも簡単だろう。
アップセルでよく知られているのはマクドナルド。モバイルオーダーの注文確定時の直前にマックのように「今ならプラス50円でポテトをLサイズに変更できますが、いかがですか?」を応用できるのだ。
5つ目の客単アップはお客がストレスフリーでポイントカードやスタンプカードを維持・管理できることだ。
物理的なカードで財布をふくらませる必要がなく、特典内容もポイントによって細かく指定できるのだ。客単アップが期待できそうな特典をオファーするだけだ。2回目の来店でビールを半額にするサービスでもいい。
しかしアメリカではまだ現実化していないモバイルオーダーによる客単価アップの施策はいくつかある。
例えばリアルタイム・メニュー。その日に採りたてなど旬な食材を生かしたメニューなら「シェフのおまかせ」を選ぶ顧客は値段が高くなっても喜んで注文する。
情報番組で「健康にいい」と紹介された素材を翌日、メニューに反映できる。
ITが進化すればAI分析をベースにした提案も可能となる。例えばラーメンにいつもチャーシューを増量する顧客がいたら、たまにモバイルオーダーで豪華なチャーシュー丼を提案する。コストレスでプライスアップなメニュー提案で利益率も向上する。
アメリカのモバイルオーダーが日本のラーメン屋に導入されれば一気に売上が図れるのだ。
トップ画像:アメリカでラーメンをモバイル注文すると、有料トッピングとなる増量のチャーシュー(2.50ドル)や鶏そぼろ(1.80ドル)、味付け卵(1.50ドル)等ですぐに4,000円台となる。簡単に抵抗なくカスタマイズ注文できるモバイルオーダーのマジックであり、ダークサイドをもつ魔力でもある。
⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です。モバイルオーダーで失敗を2度もやらかしたのがスターバックスです。モバイルオーダーを急ぐあまり1度目はお店の客離れが起きました。通勤時など狭い時間帯にモバイルオーダーが殺到したため、店のレジ客の対応ができなかったのです。2度目の失敗はパンデミック。接触リスクのないモバイルオーダーが予想以上の速さで浸透したことで現場が対応できず、不満なバリスタが労働組合の結成を考えるようになったのです。
すでにスターバックスの30店以上が全米労働関係委員会(NLRB)に労組結成に向けて嘆願していると報じられています。あのスターバックスがバリスタからの悲鳴をスルーしていたというのは、モバイルオーダーの魔力があるからだと思います。簡単に抵抗なくカスタマイズ注文できることで客単価がアップします。しかしスターバックスのFAX注文に似たモバイルオーダー(受注するとプリンターが注文スタッカーを印刷し、それをカップに貼り作る)は、受注状況をIUに反映しないので注文が一方通行となります
スターバックスのモバイルオーダーも現場の声を聞いてアップデートしなければならなかったのですが、それを怠ってしまったということです。モバイルオーダーの客単アップマジックのダークサイドとして反面教師にすべき事例です。