街なかの民家の前などに「ご自由にお持ちください」と書かれた段ボールが置いてあり、なかにはその家で不要になった食器や日用品が入っていたりする。
捨ててしまってもいいものを、「もし必要な人がいるならどうぞ差し上げます」という親切心。そして、濃厚に生活感が反映されたラインナップ。
そう、ご自由にお持ちくださいには、ロマンが詰まっているのだ。
同時に、「どこへ行けば絶対に見つかる」という保証など存在しないのもまた、ご自由にお持ちくださいの世界。だからこそ、「今日1日、ご自由にを見つけるまでは帰れない」と決めて街へ出てみるのはどうだろう?
そんなスリルと興奮渦巻く小さな旅に、酒の穴のふたりが挑戦します。
前の記事:冬の海を見に行くだけの旅
「ご自由にお持ちください」のロマン
パリ:
たまに道ばたに「ご自由にお持ちください」ってあるじゃないですか。僕、あれが好きすぎて、必ずチェックしてしまうんです。
ナオ:
民家とか商店の前に、いらなくなったものを置いているコーナーですよね。町に突如現れるような。
パリ:
そうです。よくあるのは食器類とか。不要になったものを捨てる前に「もし必要な人がいれば」という、ご好意の世界。
ナオ:
うんうん。前にパリッコさんとふたりで板橋の街を歩いていて、酒屋さんの店先にそういうコーナーがありましたよねー! ノベルティのグラスとか。
パリ:
そうそう! 僕は、「コダマサワー」のグラスをもらいました。今でも使ってる。
ナオ:
僕は「マスコット」っていう炭酸飲料のグラス。あれは嬉しかったな。
パリ:
ね。妙に思い出深い。ああいう、普通にお店では買えないものと出会えたりするじゃないですか。あのトレジャーハント感! ご自由ににはロマンがあるんですよ!
ナオ:
確かに。なぜそれを手放したのか、どんな人が使ってたのかとかね。
パリ:
そうそう。それを勝手に想像しながら、意志を受け継ぎいだ気になって酒を飲むと。ところがあれって、完全に一期一会、偶然の世界じゃないですか。
ナオ:
そうですよ! 正直私はそんなに遭遇したことがないんです。年に1回あるかないかみたいなレベル。
パリ:
え! 僕の住んでる東京都練馬区、けっこうありますよ。土地柄も関係してるのかな。
ナオ:
なのかもしれない。私は大阪に住んでいるんですが、長く大阪に住んでいる友達何人かにも聞いたところ、そんなに見かけないって言うんです。かなりレアだと。たとえば粗大なもの、タンスとか、ああいうのって捨てるのにお金がかかるじゃないですか。
パリ:
はい。
ナオ:
なので、いったん「ご自由に」って書いて外に置いておいて、しばらくたってもらっていく人がいなければいよいよ捨てるみたいなことはあるそうです。
パリ:
ちょっとカルチャーが違うんだ。
ナオ:
そうっぽい。
パリ:
じゃあ今回、ちょっと無茶な提案をしちゃいましたかね……。というのも、完全に運次第な世界の「ご自由にお持ちください」。それを「その日1日、見つけるまで帰れない」っていう企画はどうかなと思いつき。
ナオ:
これはもう、背筋がゾクッとしました。永久に帰れないんじゃないかと……。
パリ:
ははは。面目ない。
ナオ:
いえいえ。でもまぁ、パリッコさんも鬼ではないので体力の限界を感じたら帰っても怒らないかなと。それに、あるところにはあるんですよきっと。
パリ:
まー、我々のやることですからね。無理のない範囲で。
ナオ:
とにかくチャレンジではありますよね。練馬区だってその日にあるかないかわからないし。
パリ:
そうなんですよ。僕も正直こわい。言い出した手前もあるし。それで、いったん延期というか、「長期間探してみる取材に路線変更するのもありですね」と提案したら、ナオさんが「いや、いっちょ1日、本気でやってやりましょう!」って。
ナオ:
はは。チャレンジしてみたくなったんです。
パリ:
ルールは、とにかく街に出て、ご自由にを探し、なにかゲットするまで帰れない。ただし、冬だし寒いし無理はしない。で、ゲットしてきたものを後日オンラインで見せ合う、という感じかな。
パリッコが「ご自由にお持ちください」を探す1日
パリ:
それでは僕から発表させてください。
ナオ:
はい! よろしくお願いいたします。
パリ:
そもそも、定石がわからないじゃないですか? 繁華街のほうがいいのか、住宅地がいいのか。
ナオ:
本当にそうなんです。どこらへんに多いとか、なんのヒントもない。
パリ:
なのでもう開き直って、自分があまり知らないエリアに行ってみようと。僕の住んでいる西武池袋線、石神井公園の隣に、練馬高野台という駅があるんです。比較的新しい駅で、昔ながらの商店街があるとかではなく、あまり行かないんですけど、なんだか不思議なエリアなんですよ。地形がやたらと起伏に富んでいて、住宅街のなかにぽつぽつと飲食店が点在していたり。一度そこをじっくり探検してみたいと思ってたので、練馬高野台駅からのスタートにしました。
パリ:
ちなみにとにかく確率をあげようと、今回は自転車でやってきました。
ナオ:
そうか、それによって探索範囲が一気に広がる。
パリ:
ただし、飲酒運転になってしまうので酒が飲めないという。僕としては大きすぎる代償と引き換えに。
ナオ:
ははは。その点だけ見ても、今回の気合の入りようがわかるというもの。
パリ:
言い出しっぺの責任感もあり。ところがですね、ナオさん。いきなり面目ないんですが、駅の目の前に酒屋があるんですね。
パリ:
その店先に、
ナオ:
え……まさか。
パリ:
開始30秒で発見!
ナオ:
ははは! 初めて見た2文字。「からだる」と読むのかな。「あきだる」かな。偉いお坊さんの名前のようでもある。空樽和尚。
パリ:
はは。「おゆずりします」って厄介者扱い。たぶん、ここに酒を入れておけば樽の香りが着くんじゃないかな。
ナオ:
本当ですね。
パリ:
ディスプレイとしてもかっこいいし。
ナオ:
急な鏡割りにも便利。
パリ:
「誰か持ってねぇか? 空樽でいいからさ!」のときにね。ただ、幸先いいなと思いつつ、ふと我に返って、これ、自転車とはいえ持ち帰るの大変でしょう。家に置く場所もないし。
ナオ:
そうですね。持てあますかな。
パリ:
もしですよ? 今日この先、ひとつも他のご自由にが見つからなかったら、ここに帰ってきてこいつを持って帰るしかない。一転、重い枷になってしまって。「気づかないほうまだがよかった!」っていう
ナオ:
はは。本当ですね。「OK! 帰っていいですよ。ただし樽を背負ってね……」って。
パリ:
ウーバーイーツ間違い探しの素材みたいなことになる。
ナオ:
でも、本当に探してる人は買ってでも欲しいでしょうからね。漬け物つけたり? なんかいろいろできそうでもある。
パリ:
ね! 今読みながら「えー、欲しい!」って思ってる人、いるかもしれない。まぁ、一応は保険ができということで、あらためて探索を開始しました。
本格的に探索スタート
パリ:
とにかく縦横無尽に走りまくって。そしたらなんと!
ナオ:
すごいな!
パリ:
ものの15分くらいで、あったんですよ! もう、叫びそうになりました。
ナオ:
15分で! 練馬区そんなにすごいの。
パリ:
これ、今日楽勝なんじゃないの!? と。というかもう帰ってもいいんですもんね。
ナオ:
うん。もう自転車返してお酒飲んでいいですよ!
パリ:
ね。ちなみにこれがまたいいご自由にで。
パリ:
控えめ。
ナオ:
字がすごい上手。「いいちこ」「いい」の字みたい。粋な方なんでしょうね。ボックスのなかにはなにが入ってるんですか?
ナオ:
食器系だ。なんか味わいあるな。
パリ:
ストーリー感じますよね。ピカチュウのお茶碗とかさー。もうひとつの箱には、お抹茶の椀とかも入ってて、本当、粋な方なんだと思います。そして、お子さんはもうずいぶん大きくなったのかな。
ナオ:
ね。そうなのかも。もしくはお孫さんかもしれないですね。今は大人用の茶碗で食べてるのかも。
パリ:
三世帯で住んでてね。かなりいいお家だったので。それでここでは、この、可愛らしすぎる猫ちゃんのお椀をひとつ、ありがたくいただいて帰りました。
ナオ:
はは。かわいい! 独特のタッチ。
パリ:
見ればみるほどいい表情。ピカチュウのお椀を使ってた子の親御さんが子供時代に使ってたのかな。このお椀は最後にもう一度じっくり見てもらうとして、再び探索を続けますね。
ナオ:
すごい! まだあると踏んだんですね。まあ確かに、まだ15分だもんな。
パリ:
せっかくなら行けるとこまで行きたいじゃないですか。ところが、そう甘くはなくて、こっから1時間くらいは何も見つかりませんでした。なので、少し練馬高野台の不思議な世界観を味わってってください。
パリ:
どう見てもただのガレージなんですが。
ナオ:
こういうシャッターアートっていいの多いですよね!
パリ:
確かに。
ナオ:
シャッターを閉めてる間も美しくあろうとする姿勢がいい。
パリ:
シャッターアートの世界、記録していきたいですね。
ナオ:
これもまた粋ですね。今度それも発表しあいましょう!
パリ:
ぜひ! 駅から近くもなんともない場所にぽつぽつと店があるのも不思議で、
パリ:
老舗っぽい鰻屋とか。ここは昔行ったことあるんですが、庭園を眺めながらお座敷でうなぎが食べられるような、かといって敷居が高すぎるわけでもない、すごくいい店なんですよ。
ナオ:
へー!
パリ:
かと思うとスナックが突然あったり。
ナオ:
「ハマユウ」か。
パリ:
こんな砂利道とか、最近そう見ない。
ナオ:
閑静な住宅街なんだけど、それだけじゃない感じ。
パリ:
そうそう。平日の昼間だから誰もいないし、白昼夢感を味わうのにはうってつけ。
ナオ:
ずいぶん歴史のありそうな。
パリ:
以上、練馬高野台の雰囲気特集でした。
ナオ:
色んな時代のものが共存している感じでおもしろいですね。
パリ:
こんどぜひ散歩しましょう!
街を徘徊すること1時間
パリ:
で、苦節1時間、ついに発見しました。
ナオ:
お、おお! いや、なんだろうこれは。
パリ:
はは。そう。ここは、「なんだろう?」系中心でした。
ナオ:
はは。「還暦お祝いグッズ」、使えるチャンス少ない!
パリ:
誰がどういう用途で用意した紙袋か。そしてなぜここに……。赤いちゃんちゃんこが入れてあったのかな。
ナオ:
これはかなりご自由系ですね
パリ:
唯一、
パリ:
だけがわかりやすい品だったんですが、大きすぎるのもあって持ち帰らず。
ナオ:
そうかー! うーん。
パリ:
でも、今ちょっと後悔してます。この皿、欲しかったかもと。
ナオ:
なんかいいもののような気もする。
パリ:
絶妙にどっちかわからない。なにをのせていいかもわからない。
ナオ:
子どもが喜びそうでもあり……いや、喜ばなそうでもあり。
パリ:
わはは。そうそう! 「う〜ん、どっちかな〜?」っていう。絵柄も統一性ないもんな。
ナオ:
もっと欲しい人がもらうべきかもしれない。
パリ:
ですね! 「ちょうどこういうの探してたのよー!」って方に譲りましょう。で、こっからがまたずっとなにも見つからない時間で。ちなみにこの日、昼くらいには出発しようと思ってたんですが、急ぎの仕事なんかもあって、出発が午後2時くらいになってしまったんです。それで、お昼がまだだったので、なにか食べられるお店を探しつつ回ったんですが、そうすると見つからないんですよね。
ナオ:
あっても昼休みに入ってる時間帯なんですね。
パリ:
そうなんですよ。
ナオ:
はは。この感じはもう営業してないでしょう。というかすごい店名だな。
パリ:
見つからないとよけいに腹減ってきて、さらに極寒なのでガチガチに体が冷えていく。でもなんか、ふたつ見つけたから、もうひとつだけ見つけたいなみたいな欲が出てきてしまって、意地になりつつ徘徊し、
パリ:
と、だんだん態度も悪く。
ナオ:
はは。惜しい!
パリ:
トータルで3時間くらいうろうろしましたかね。もう限界がきたあたりで、
ナオ:
お! 立派な銭湯だ。
パリ:
地元地域の名銭湯にたどり着きました。
パリ:
いったん、とにかくあったまろうと。いや〜、最高でした……。寒さでこわばった体がとろとろにほどけてく感じ。ここ、すごいんすよ。洗い場のカランの目の前が一列ぶん、鏡じゃなくて水槽になってて、鯉が泳いでる。
※こちらのページに写真がありました
ナオ:
すごいな! 体を洗いながら鯉の泳ぎが見られるんだ。
盲点だった場所にも……
パリ:
すっかりリフレッシュしまして、頭も冷静に戻り。意地張ってもなんだし、今日は猫ちゃんのお椀もゲットしたし、もう帰ろうと。飯はもうあきらめて、帰って自転車置いて酒でも飲もうと。ただ、帰り道にふと思い出したのが、地元石神井によく行く不思議なリサイクルショップがあるんです。食器類が充実してて楽しい。
ナオ:
はは。またすごい名前だなー!
パリ:
元気力で発電ですよ。商品も「慈善事業か」って値段で。だから、もしかしたら無料のものもあるんじゃないかな? と、最後に寄ってみたんです。そしたら!
パリ:
この、虐げられた一角に、
ナオ:
おお、やった!
パリ:
そしてここで、
ナオ:
「味よし」か、いいなー! まだあるのかな、お店。
パリ:
電話番号と店名で検索してみたら、神奈川県横浜市の東白楽にかつてあったらしい? という情報だけがかろうじて見つかり、詳細不明です。誰か知ってる人いないかな。どういう経緯でここにあるのかも気になりますよね。
ナオ:
お店を閉めるにあたって世に出たのかなー。
パリ:
そうそう。個人系の飲食店がお店を閉めるときって、ご自由にが発生しがちじゃないですか。
ナオ:
うんうん。処分しなきゃいけないものも大量に出るし。
パリ:
それを誰かが持ち帰り、巡り巡ってここにやってきたのかなとか、想像するとやっぱりロマンがあります。
ナオ:
そうですね。想像するのが楽しい。
パリ:
最後に、今回持ち帰った品を見てやってください。とくにお椀。
ナオ:
はは。この手の小ささ!
ナオ:
内側にも絵が!
パリ:
最高でしょう?
ナオ:
ずいぶん凝ったデザインですね。
パリ:
たぶんこれ、ファミレスの「ジョナサン」の可能性が高い気がします。
ナオ:
うんうん。言われてみるとそうっぽいですね。
パリ:
ノベルティか、ジョナサンでかつて使われていた子供用のお皿か。
パリ:
これは逆に、柄ここだけ。
ナオ:
それもまたよし。この湯呑み、好きだなー。これで緑茶飲みたいわー!
パリ:
緑色が映えますよ。仕事中、気分転換に梅こぶ茶飲むことが多いんだけど、それ用にしようかな。
ナオ:
いいですねー!
パリ:
といったところで以上でした!
ナオ:
盛りだくさんだったなー!
スズキナオが「ご自由にお持ちください」を探す1日
ナオ:
私は冒頭にも書いたとおり、ふだん大阪で過ごしていて、あまりご自由にを見かけることがないんですね。で、あるとしたらどこだろうっていうのも思い浮かばなくて、商店街も住宅街も両方あるようなエリアが無難かなと。それで千林大宮という、商店街が縦横に入り組んで続いている、個人的も好きな街があって、そこなら商店街から少し離れれば住宅街なので、両方歩けるなと思って行くことにしました。ちなみに私は、徒歩で探していくことに。
ナオ:
まずはてきとうに歩いてみました。
パリ:
いい雰囲気。
ナオ:
ご自由にかと思ったら、
パリ:
はは。わかる! けっこうフェイクが多いんだよな。って、勝手にご自由にを探してるからフェイクと感じてしまうだけなんだけど。
ナオ:
ね。ふだん見ない場所に注目しながら歩く感じ。「パンご自由に!」だったらいいのになーとこのオブジェを眺めたり。
ナオ:
パーッと歩いたけど見つからず、
ナオ:
次はこっちを歩いてみることにしました。
パリ:
あー、大阪に行きたくなる風景。
ナオ:
でしょうー! いい商店街なんですよ。これがもう縦にも横にもずーっとつながっていて、おもしろそうなお店も多いんですよ。
パリ:
ご自由に探ししてる場合じゃない。
ナオ:
でもやっぱり、お店って商品を売ってるから、軒先にワゴンとか出してるんですよね。そこに「ご自由に」が共存していると、もしかしたら売りものまで持っていかれるのかもしれないなとか。
パリ:
なるほど。
ナオ:
安いものはいろいろあるけど、タダのものってないんですよねー。
パリ:
なかなかそうかー。
ナオ:
とにかく商店街をうろうろして、
パリ:
なんと!
ナオ:
女の子が服に落ちた雪を見て「雪の結晶やー!」って言ってて、もう、空から降って来た「ご自由に」ってことにして帰ろうかしらって、思いもしましたよ。
パリ:
わはは! いくらデイリーといえど強引なオチ。
ナオ:
はは。すみません! ほんとこんな感じで、私のほうはずっとご自由にが出てこないのでご了承ください。
パリ:
その心づもりでおります。
ナオ:
ところで道ばたに、
ナオ:
がいて、「なんか見つかりますように」と、お賽銭を入れたんです。ふと横の立て札を見たら、
パリ:
えー!
ナオ:
運命的でしょう。
ナオ:
読みづらくてすみませんが、酒をかけたらすぐに吸ったみたいな言われが。
パリ:
酒呑み地蔵さんって、ほとんどナオさんのことと言っても過言ではない。
ナオ:
はは!「こんにちは、酒呑み地蔵さんです! 今日は大阪の激安立ち飲みを紹介します!」みたいなね。
パリ:
ははは。クセのあるYoutuber!
ナオ:
でも、欠けの部分の話はこわい。
パリ:
ね。船頭さん、亡くなっちゃってる。「後に」が寿命だったならいいけど。
ナオ:
はは。そうですね。「後に、100歳まで生きて亡くなりました」であることを祈りましょう。
パリ:
そうしましょう。酒地蔵は寛大ですから。
「ご自由にお過ごしください」
ナオ:
こんな横丁、最高でしょう!
パリ:
いいなぁ。ほんと関西行きたくなる。街並みのバリエーションが練馬区とは段違い。
ナオ:
たしかに飲食店は無数にあるんですよ。ここらへん、何度も通ったことがあって、この、
ナオ:
がずっと気になってたんですよね。
パリ:
飲食店の“自称”はいろいろあるけど、ファミリー割烹は初めて聞いたな。気になりますね。
ナオ:
ね。ちょっと中が想像できない。
ナオ:
ランチのこの「A」。まあAしかないんだけど。「かしわちり鍋」、1680円? と思ったけど、いや、680円っぽい。
パリ:
安いですね! かしわちり鍋か、良さそう。
ナオ:
でしょう! 雪も降ったりやんだりの寒さだったので「今だー!」と入ってみましたよ。
パリ:
やった!
パリ:
いいですね〜。
パリ:
はは。かわいすぎ! あと、さっきの店内写真に戻るけど、この「ほろよいセット」。ビール2本と料理3品で3000円なら、普通に好きなもの頼んでもそれくらいなのでは。
ナオ:
はは。本当ですね。
パリ:
ほろよいセットってもっと、1000円くらいでサクッとな感じですよね。
ナオ:
確かに。逆にランチが安すぎるのか。
パリ:
はは。本当ですよ。
ナオ:
「うまくない煮物」……。
パリ:
はは! なんなんだこの店は。「骨なしカルピ」?
ナオ:
ひょうきんな大将がカウンターの向こうにいて、鍋のポン酢が入った皿が出てきて、
パリ:
いやいや、わかんないから。初めて食べるから。
ナオ:
そうですよね。自家製の薬味っぽいし、この時点ではどんな鍋かわかってないし。
ナオ:
そしたらこんなボリュームの鍋が出てきて。
パリ:
うおー! これはまたナオさんの好きそうな鍋。
ナオ:
そしてびっくりしたのがさ、
パリ:
はは! まじ? というかこれは細めのうどんではないんですか?
ナオ:
中華麺っぽい味わいな気がしました。シメの一品までもう入ってる。もちろん鶏肉も美味しいし、お腹はち切れそうでしたよ!
パリ:
寒い日に染みそうな鍋ですね〜。
ナオ:
ちなみに大将、「今日は寒いから弁当が全然売れへんねん。酢豚めちゃくちゃ美味しいんやけどな」ってぼやいてました。
パリ:
日替わりの弁当がピンポイントで酢豚ってのもおもしろい。唐揚げ弁当があって、とかじゃなく。
ナオ:
はは。ほんとですね。他に選択肢はない。で、その後、常連さんが来店して、弁当の酢豚を食べてて、大将がすごく嬉しそうにカウンターから「どや、うまいやろ。早く、もっと食わんかい」とか言ってて最高なの。
パリ:
はは。そもそも、弁当そこで食べるんだ。
ナオ:
冬のランチは鍋か弁当の二択みたいです。で、手があいたら大将が競艇のマークシートに鉛筆で書きこんでたり、ご自由な店なんですよ。
パリ:
「ご自由にお過ごしください」なんですね。
ナオ:
はは。そうそう。こんどこそ「ご自由に」をゲットしたことにしたい。
パリ:
なぜこれを選んだんだ!
ついに「ご自由に」を発見!?
ナオ:
で、店を出てまた歩き出しました。ここから早足でいきますが、
ナオ:
豆腐屋さんで豆乳買ったり。
パリ:
ナオさんのエナジードリンクですね
ナオ:
そうです! 見つけると必ず飲んでしまう。
ナオ:
けどやっぱり、ご自由にはないんです。
パリ:
ないかー。
パリ:
あー! 道中酒いいなー!
ナオ:
とか思ったりしながらさ。
パリ:
カレーが1円? ご自由によりすごい!
ナオ:
そこまで行ってもタダではない。たとえば、
ナオ:
置いているものを過去に勝手に持って行かれたことがあったようで「警告!」みたいな、「カメラで見てます!」みたいな貼り紙があったりするんです。
パリ:
すごい。どちらかと言うと、「持ってかれたら持ってかれたでええねん。またなんぼでも置けばいい」って感じなのに。
ナオ:
はは。そういう雰囲気なんですが、まぁ、もちろんすべて大事なものなんでしょうからね。
パリ:
そりゃそうか。
ナオ:
で、千林大宮の商店街は隣町のほうともつながっていて、
ナオ:
ずーっと歩いた。
パリ:
商店街酔いしてくるな。
パリ:
ははは。ここにはもう、書かなくてもいいすもんね。ご自由には。
ナオ:
そうですよね。で、ちょっとこれはやっぱり難しいかもなと。
パリ:
うんうん。正直、ギブアップもありですよ。っていうか、今のチラシで目的達成でもなんとか形には。
ナオ:
うん。だから、それも視野に入れつつのヤケ酒というか、
パリ:
良さそうな店しかないなー!
ナオ:
ここは守口市にある「伏見屋商店」という、創業100年もの歴史がある酒屋さんだそうで。
パリ:
あんまりそうは見えないところが大阪っぽいですね。気取りがないというか。
ナオ:
あー、そうですね。ポップな感じでね。
パリ:
創業100年の老舗にパラソルあんま置かないもんな。
ナオ:
粕汁飲んであったまりつつ。
パリ:
おいおい。
ナオ:
で、ここはだし巻きが名物だそうで、お持ち帰り用もあるぐらい。
パリ:
わー、きれい! 食ってみて〜これ!
ナオ:
いい店だったなー。行きましょう。
パリ:
はい! 今回のこの、ナオさんがご自由にを求めてさまよったルートをそのまま案内してほしいですわ。
ナオ:
もちろん! で、こりゃいいわーと、チューハイもおかわりして飲んでおりましたら、私はカウンターのはしに立っていたのですが、ふと横を見ると、
パリ:
う、うおおおおおおお!!! すごい。
ナオ:
あったんです!
パリ:
まさかの!
ナオ:
欲望のままに行動してたらあったよ!
パリ:
やっぱりいるな、「ご自由に」の神様は。
ナオ:
神は見捨てなかった。あとで大阪出身の友達に「あったよー!」って報告したら「それはすごいことですよ!」「ほぼ奇跡!」と言われた。
パリ:
奇跡を巻き起こした。
ナオ:
で、そのコーナーからこの、開高健さんの奥さん、牧羊子さんのエッセイ集を。
パリ:
わ〜! 普通にめっちゃ読んでみたい。タイトルもいいな。
ナオ:
なんかね、悪妻だったという噂も伝わる奥さんらしくて、文章家で、お酒も飲むし料理も好きっぽい。すごくおもしろい人みたいなんです。
パリ:
開高健さんは食通で、酒飲みとしても有名ですもんね。
ナオ:
そうそう。料理の話もたくさん書かれている。
パリ:
対談はどんな方と?
ナオ:
たとえば井上ひさしとか、大庭みな子っていう作家とか。
パリ:
なるほど、繋がりのある作家とか文化人的な。
ナオ:
そうそう。交友関係が広かったようで。ちなみにこの、私が飲んでる「伏見屋商店」っていう角打ち、だし巻きは若いマスターが作ってくれたんですが、そのお母さんらしき方も厨房にいらして。常連さんに「ねえさん」って呼ばれてるその方が読書家で、それでこのコーナーがあるんだそうです。
パリ:
ラインナップが知的ですもんね。
ナオ:
で、若きマスターが「俺は本なんかよう読まん。学がある人は持ってってや!」って言って、常連さんたちが「ほな、うちら全員だめやんか!」みたいな。「自分、漢字読まれへんもんな!」「あほ、それでも読めるで! 本ってふりがな振ってんねん」「わははは!」みたいなお客さんの会話も最高でした。
パリ:
最高。
「ご自由に」の余韻に浸りつつ
ナオ:
ほろ酔いで店を出て、これで帰れる!と、あとはもうてきとうに散策して、
ナオ:
来たほうへと戻っていって。
ナオ:
この時間も優雅で良かった。
パリ:
ブランデー紅茶! 良さそうなお店ですね。
ナオ:
初めて飲んだ。美味しかったです! そして出発地点の千林大宮あたりへ戻ってきたんですね。すると、
ナオ:
こんな、街の交流スペースみたいなところで、京都芸術大学という大学の学生の方が写真展を開いてて、そこに、
パリ:
ノってきた!
ナオ:
写真展と連動した冊子がもらえて、地元の人におすすめのデートスポットを聞くみたいなテーマなのかな。
パリ:
おもしろい切り口の本ですね。
ナオ:
そうなんです。卒業制作として作られたものっぽかった。ページを開くと、近くにある「神徳」という銭湯のことが書かれていて、
ナオ:
これはいいタイミングだなと思って、
パリ:
わはは。同じことやってる。これまた、たまらん佇まいだな。
ナオ:
ここもすごくいいんですよー。
ナオ:
今日はもうお腹いっぱいだったけど。
パリ:
銭湯でうどんが食べられるの!? 最高ですね! ここも行きてー!
ナオ:
ツアーに組みこみましょう! という感じです。ご自由に探しのおかげでいい流れの旅になりました!
ナオ:
最後にひとつだけ、余談なんですが、この取材に出かける数日前に、別の用事で京都の出町柳という町に行ったんです。商店街を歩いていたら、時計屋さんの店先に、
パリ:
え?時計!?
パリ:
はは。箱フリー!
パリ:
このよくわからないおもしろさも、ご自由にがなければ味わえなかったわけですもんね。やっぱり「ご自由にお持ちください」はロマンだな〜! あらためて思いました。
ナオ:
知らない世界への入り口ですよね。あと「どこのエリアには多い」とか、地域差も知りたくなった。
パリ:
うん。 南に行くと多いとかありそう。
ナオ:
今後はあちこちを注意して歩こうと思います!