三谷幸喜 闘病ユーモアで語る訳 – みんなの介護

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2016年に前立腺がんの手術を受けていた脚本家の三谷幸喜氏。その体験をもとに、主治医である頴川晋氏との対談形式で闘病記を綴った『ボクもたまにはがんになる』を2021年10月に上梓した。暗くなりがちな闘病記だが、本書では三谷氏ならではのユーモアが光っている。これまでの作品とは毛色が違うこの1冊に込めた思いとは。

取材・文/みんなの介護

早期発見すれば前立腺がんはまったく怖くない

みんなの介護 先ほど、ご自身の作品で「誰かの人生を変えたいと思ったことはない」(※前編参照)と仰っていました。ただ、今回の『ボクもたまにはがんになる』は、人の生き方や生活に直接影響を与えるような本ではないでしょうか。

三谷 そうです。この本に関しては今までの僕の考えと真逆のことを言ってしまっています。

『ボクもたまにはがんになる』は、「早期発見さえすれば前立腺がんは怖くない」ということを、なるべく多くの人に伝えたいという思いから出版しました。メッセージありきで、ものすごく僕らしくない本なわけです。

みんなの介護 医療情報として必要なものを盛り込みつつ、面白く、読みやすく仕上がっている、というのがご著書を読んだ印象でした。執筆にあたってどんなことを意識されたんですか?

三谷 前立腺がんになったらどんな経験をしていくのか、対談の中でディテールをていねいにお伝えしようと思いました。

僕の場合、最初、前立腺がんについてよく知らなかったことが恐怖を生みました。自分ががんになるなんて思ってもいなかった。だから「前立腺がんです」と言われたときはびっくりしました。そして怖かったです。その後、ネットで前立腺がんについていろいろ調べたんですが、今一つよくわからない…。

例えば前立腺がん検査の「生検」についても、言葉としてはわかるんだけど、理解できない部分がありました。だからこの本では目に浮かぶように細かく書いたんです。

生検を行う機械がチャッカマンに似ているということや、どんな音がするのかということ。肛門から超音波を出す機械を入れて検査をするとか…。書くのは恥ずかしいんです。でも語るときは全部語ろうと思って全てお話ししました。

すべてが終わってみると、実際僕が思っていたほど怖いものではなかった。もちろん、早く見つかったからということはありますが。だからみんなに知ってもらうことで無駄な恐怖を取り除くことができると思ったんです。

生まれて初めて真剣に人の役に立とうと思った

みんなの介護 「この本を読んでがんを早期発見できた」と読者に感動も与えられるのではないでしょうか。

三谷 それは感動なのかな(笑)。ただ役には立つなという感じです。生まれて初めてかもしれませんよ、僕が真剣に人の役に立とうと思ったのは。

みんなの介護 ちなみに『ボクもたまにはがんになる』というタイトルは三谷さんが考えたのですか?

三谷 そうです。深刻にはなりたくないけど、ポエミーなのも恥ずかしい。なかなか難しかったですね。「逃げ恥」とかもそうですが、省略できるタイトルは、いいタイトルだと思うんです。「ボクたま」とみんなに言ってもらいたいという思いも込めました。

みんなの介護 初期で見つかったとしても、前立腺がんになっていろいろおつらいことがあったと思います。三谷さんにとって特につらかったことは何ですか?

三谷 男性にしかわからないかもしれないんですが、尿道に管が入っているビジュアルの薄気味悪さ。そして、それを抜くときの恐ろしさはありました。痛いのは痛いんですが、一瞬だから実際我慢はできるんです。それより恐怖心が強かったですね。そのことは、いまだに印象に残っています。

初期で治療できたので、症状自体は特になく、治療がものすごく痛かった記憶はありません。全摘しましたが、傷跡もほとんど気づかないぐらい小さい。本当に手術したんだろうかという感じです。また、手術の記憶もないので、騙されてるんじゃないかというような状態の中でここまで来ています。

前立腺がんは胃がんや肺がんより罹患率が高い

みんなの介護 「男性だからわかる苦しみ」というお話がありました。逆に、ご自身の経験を通して 女性の読者に伝えたいことはありますか?

三谷 前立腺がんは男性の病気ですが、女性にも読んで欲しい。ご家族が罹患する可能性もありますからね。胃がんや肺がんを抜いて羅漢率がトップのがんです。

前立腺がんになる原因には加齢もあるので、超高齢社会にあって新たに前立腺がんが見つかる人は今後ますます増えていくでしょう。ちなみに、アメリカは前立腺がん大国と言われており、多くの人が前立腺がんの知識を持っています。しかし日本では、前立腺がんの実態を知らない人がまだまだ多いのではないでしょうか。

実際に、面倒くさがって検査に行かない男性もいると思うんです。そのとき、この病気の知識を持つご家族が背中を押すことが必要だと感じます。

みんなの介護 三谷さん自身は奥様のサポートも受けられたのでしょうか?

三谷 それはもう数え切れないぐらいあります。例えば、手術の後しばらくは尿漏れするのでオムツをすることになりました。そんな経験初めてでした。「僕はこれからオムツして稽古に行かなきゃいけないのか」と自尊心が傷つき、憂鬱でしたね。

稽古場で「今僕はオムツをしているんだ、誰かに気づかれるんじゃないか」と思うと、それも怖い。また、それ以前に尿漏れしてしまうことのふがいなさに落ち込みました。今はもう尿漏れがおさまったので、オムツはしてないんですけどね。

オムツを外した後も、たまにお漏らしすることがあって、ほんのちょっとなんですけどね。小型のスポイド三分の一くらい。そんな時に、妻は全く気にする様子もなく黙々と僕の下着を洗ってくれて、心底感謝しました。

前立腺がんを経験してからは「家族のために健康に気をつけて少しでも長く働きたい」という思いがますます強くなりました。

撮影:公家勇人

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