スマホはNG? 北京五輪の残念さ – PRESIDENT Online

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スポーツ大会というより政治案件になってしまった

北京で開かれる冬季オリンピックの開幕まであとわずかになった。

出場する日本代表選手が着々と決まってはいるものの、スポーツイベントとしての大会への関心よりも、政治的な動きのほうが活発なようにみえる。これまでに米国、英国、オーストラリア、カナダといった国々が「外交的ボイコット」を表明した。日本も政府関係者の派遣を取りやめることを決めている。

国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長(左)と中国の習近平国家主席(=2022年01月25日)
国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長(左)と中国の習近平国家主席(=2022年01月25日) – AFP/時事通信フォト

米国をはじめとする民主主義国家は、中国国内で起きている人権侵害問題を提起し、北京での五輪開催に厳しい姿勢を取っている。対する中国政府は「五輪への招待を受けていない状況下での『外交的ボイコット』は完全に自意識過剰」とかみつくなど、あの手この手で対抗しているが、開幕まで間近となる今、中国が期待しているようには物事は進まず、政治的、外交的優位性を誇示するにも切羽詰まっている局面にあるようだ。

新疆ウイグル自治区の少数民族への対応を問題視

「外交的ボイコット」という言葉は今回の北京冬季五輪で初めてお目見えした。初出とみられるのは2021年5月、ナンシー・ペロシ米下院議長が、新疆(しんきょう)ウイグル自治区の少数民族に対する人権侵害問題を理由に「北京冬季五輪を各国首脳は欠席するべき」とする、外交的ボイコット(diplomatic boycott)を呼びかけた時だろう。

「外交的ボイコット」を早々と決めた米国でも、そもそもなんなのかという論議が起こっている。米スポーツ専門チャンネルESPNは、これについて「大会に各国の代表者を派遣しないことを意味」と定義。代表者に当たる人物は通常、その国の首脳に匹敵する政治家や王室のメンバーとしている。

米政府としての対応を正式に発表したのは、昨年12月6日のことだ。ホワイトハウスのサキ報道官は、「バイデン政権は北京オリンピックに政府関係者を派遣しない」としながらも、トレーニングを続ける選手への出場については「参加すべき」と述べている。

コロナ対策も報道規制も東京五輪以上の厳しさ

観客の有無をめぐっては、東京五輪に続いてチケットの一般発売は行わないことも決まった。折しも、北京でもオミクロン株の市中感染が発生し、中国政府は「カナダから来た国際郵便がその原因」として自国の感染対策には抜かりがないと正当性に躍起になっていたが、外国人、中国人を問わず、すべての観客をシャットアウトした形だ。

ただ、招待客を入れるとの報道もある。東京五輪の時にはほとんどの会場で無観客となったが、北京では「官製の観客」が競技を盛り上げるのかもしれない。

今回の大会ではそれでなくてもコロナ感染対策のため、中国政府は選手をはじめとする五輪関係者をすべて「感染対策バブルの内側(クローズドループ方式、と呼ばれる)」へと包み込む作戦に出た。外部の人々との接触はまったくできない。ボランティアも期間中は「バブル隔離エリア内」にある宿舎で滞在するという。競技の違いはあれど、選手たちにとっては東京大会以上に厳しい五輪になりそうだ。

4日には、国内外の報道機関の拠点となるメインプレスセンターがオープンした。オミクロン株の蔓延もあり、記者らの行動はプレスセンターと競技会場、指定された宿泊ホテルとの往復に限られる。「柵の中」での大会が実現することで、各国メディアが一般市民に対し、人権や民主化への課題といった「余計な質問」をするリスクは消滅した。国内の情報管理をしたい当局者は胸をなで下ろしているかもしれない。

オランダ政府は「中国にスマホを持ち込まないで」

一方、オランダのオリンピック委員会は、自国選手団に対し、中国のスパイ行為を避けるため、個人所有の携帯電話やノートパソコンなどを中国に持ち込まないよう推奨したと報じられている。「中国の監視から自国選手の個人情報を守るため」とその理由を掲げており、とうとう選手個人にまで不自由が生じる事態になってきた。

オランダも「外交的ボイコット」に加わった国の一つだ。中国が日常的に行っているとされるさまざまなインターネット上の検閲や記事削除などの事情を考えると、自国の選手がなんらかのサイバー被害や妨害を受ける可能性を警戒するのは無理もない。

しかし、それぞれの選手には家族や親戚、友人そして多くのファンがいる。勝っても負けても五輪で戦ったその興奮をすぐにSNSなどで伝えたいだろうが、それがまったくできないことになる。

会場は異例の「オール人工雪」になる見込み

中国北部にある北京の冬は日中でも連日マイナスだが、スキー場が開けるほど雪は降らない。それでも、そんなところで冬季五輪をやると言い出したのはなぜだろうか。冬季大会の誘致決定以来、中国メディアや北京五輪組織委員会は「北京が夏季、冬季両方の五輪を初めて開催する都市」と自画自賛している。他の国が達成できていないことを一番乗りだと自慢すれば、自国民はきっと「中国は偉大だ」と思うことだろう。

北京は、中心街がほぼ平らだが、周辺にある郊外の町村を北京市に次々と編入したため、約1万6000平方キロと、日本の四国の9割ほどの面積を持つ。中心街から50キロほど北に行くと、中国屈指の歴史的遺産として知られる万里の長城がある。斜面が必要な競技向けの施設は、長城よりさらに北側にある2つの街に新たに設置された。

こうした郊外会場で開かれる屋外競技は、ほぼ全面的に人工雪で行われるのだという。ちなみに、北京周辺の2月の降水量は1カ月で4ミリほど、降水日数も月に3日ほどしかない。これでは人工雪に頼るのもやむを得ない。

フランスの通信社AFPは、「北京大会は、中国でも特に降雪量が少ない地域で行われる」と紹介。約300基の人工降雪機「スノーガン」を使って人工雪をまいた後、専用のトラックでゲレンデなどに広げる。人工降雪機自体は、過去の大会でも雪が足りない部分に補充したりするのに使われているが、会場のほぼ全体を人工雪で賄うのは例がないと指摘する。

スキー場で稼働する人工降雪機
※写真はイメージです – iStock.com/alexander uhrin Source

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