現実世界(IRL)での復活が待ち望まれていたCESだが、パンデミックの影響による相次ぐキャンセルによって盛り上がりにはかけたものの、ビューティ業界は今年もラスベガスとメタバースの両方の展示で存在感を示した。
1月5日から7日まで対面式とバーチャルの両方で開催された昨年2021年のCESは、コロナ感染者数が急増したため、Amazonやプロクター・アンド・ギャンブル(Procter&Gamble)といった大手企業が対面式ブースを次々にキャンセルするという事態に直面した。ビューティとパーソナルケアの分野では、ラスベガスでの対面参加を見送ったブランドは新製品を紹介するバーチャル体験の体制を整えていた。同展示会では先進的な美容機器が大きな存在感を示し続ける一方で、とくにメタバースに関しては、バーチャルビューティも引き続き好調である。
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ビューティブランドにとって不可欠となるバーチャルトライオン技術
パンデミックの影響を鑑みて、CESへはバーチャルでの出展を決定したパーフェクト株式会社(Perfect Corp)の創業者でCEOのアリス・チャン氏は、「当社はAIやARを駆使したデジタル体験を提供するリーダーとして、インタラクティブなバーチャルブース体験を提供する体制が十分に整っており、自宅からCESに参加する人々は対面で参加しているような気分を味わうことができる」と述べた。
パーフェクトは、ARトライオンツールの展開のほか、メタバースやNFTへの進出など、同社の新開発を展示するためにメタバース風のバーチャルブースを設置。そのオンラインブースを訪れた人は、同社の担当者とライブチャットで会話をしながら発表内容についての詳細を知ることができる。
パーフェクトの注目の新しいバーチャルトライオンツールには、新たなファンデーションマッチングツール、ビデオチャットによるARメイクアップアプリケーション、ジュエリーのトライオンなどがある。同社はまた、ビューティテック界で最近NFTブームに乗り出したばかりの企業でもある。同社はビューティとファッションのNFTをバーチャルトライオン体験に取り入れ、ブランドと協力してAR用のNFTを作成する計画を発表した。
「メタバースにおける没入型のブランド体験とNFTは、美容ブランドにとって消費者層と有意義なつながりを築く上で不可欠なものとなる」とチャン氏は言う。「ARやAIのように、バーチャルトライオン技術は顧客エンゲージメントの促進に必須となっており、ARメタバースにおける魅力的な体験は美容ブランドにとって同じように重要なものとなるだろう」。
メタバース体験を通じて製品や持続可能性の取り組みを学ぶ
プロクター・アンド・ギャンブルもCESでの展示ブースは完全にバーチャルとなり、昨年の同社のプレゼンテーションと同様に、ビデオゲームのようなナビゲーションを備えたライフラボ(LifeLab)と呼ばれるバーチャルブースを主催した。参加者は、バーチャルのブース内でジレット(Gillette)やオーラルB(Oral-B)といったブランドの担当者に近づいてチャットをすることができる。
そのプロクター・アンド・ギャンブルも、ロンドンの王立植物園と提携してBeautySPHERE(ビューティスフィア)というメタバース体験を開始している。ユーザーは、ゲーム化されたバーチャルツアーで園内を歩きながら、製品の成分や同社のサステナビリティへの取り組みについて学ぶことができる。
「FacebookがMetaに改名したことで、現在目にしているようなメタバースへの熱狂が生まれているが、かなり以前から私自身は、これは何になり得るだろうかと取り組んできた」と話すのは、プロクター・アンド・ギャンブルのデザイン・スキン・アンド・パーソナルケア・バイスプレジデントのアレクシス・シュリンプ氏だ。彼女はシーミービューティ(SeeMe Beauty)のチーフデザインオフィサーで共同設立者でもある。「メタバース」というラベルが誕生するよりも以前から、幅広い没入型の体験があるとして「当社のブランドは、長年にわたりデジタルへの取り組みを続けてきた」と彼女は述べている。
美容やパーソナルケアのハイテクガジェットも注目を集める
2022年も、これまでのハイテク機器というテーマに続いて美容とパーソナルケアのガジェットが展開された。大手コングロマリットでは、ロレアル(L’Oréal)が家庭用の毛染め用機器を発表、オーラルBはオーラルケアの新製品を複数公開した。スタートアップの分野では、ニヌ(Ninu)がスマートフォンのアプリと連携してパーソナライズされたフレグランスを作り出す「スマートパフューム」の携帯型デバイスを発表している。
最初の資金調達ラウンドに成功したばかりのビューティグルー(Beautigloo)の共同設立者でCEOのクララ・リジエ氏は、パリからラスベガスに飛び、CESで同ブランドの新製品を発表した。ロレアルとLVMHのアクセラレーターのメンバーであるビューティグルーが発表したのは、温度と湿度を一定に保つインテリジェントな温度システムを搭載した新しい化粧品専用冷蔵庫である。また、5分で冷却できる特許取得のクライオスティックも公開された。来場者数の減少にもかかわらず、同ブランドは物理的なブースを維持することを選択している。
「CESの開幕直前には、小売店や販売店とのイベントを予定していた。しかしパンデミックのために多くのバイヤーや小売業者が来ることができず、中止になってしまった」とリジエ氏は言う。彼女は、バーチャル・プレゼンテーションやCESアプリをさらに活用して、潜在的な顧客やバイヤー、小売業者と話をする予定である。
ハイテク・デジタル機能搭載の電動歯ブラシも
一方、オーラルBは、ハイテク・デジタル機能を搭載した新たな電動歯ブラシのモデルをバーチャルで発表している。その試験段階にあるのが、歯を調べるための携帯電話のカメラアタッチメントや電動歯ブラシの最新モデルだ。同社のiO10コネクテッド歯ブラシにはブルートゥースを搭載した充電器が付属しており、ブラッシングの時間や力加減、磨き残しがあれば指摘するなど、ユーザーにフィードバックを通知する。そのデータはオーラルBのアプリに同期され、歯科医と共有することもできる。ユーザーが正しいブラッシングに成功すれば、充電器にお祝いのライトが点灯し、引き続き頑張るようにユーザーを励ましてくれる。
「信じられないかもしれないが、人々は(その報酬を)楽しみにしていて、実際に長い時間、頻繁に歯を磨いていることが当社のデータでは示されている」と、オーラルBとクレスト(Crest)の研究開発グループ長シェリー・キンダーダイン氏は述べている。
以上みてきたように、各ブランドは、ラスベガスの実際の展示会場にそれほど多くの人がいなくても、CESに参加することに価値を見出しているという。
リジエ氏は次のように述べている。「もちろん、チャンスは減るだろうが、我々は目標達成のために、そしてより目出つようにベストを尽くす」。
[原文:CES 2022: Beauty gets in on the metaverse]
LIZ FLORA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)