計30億円 前澤氏がお金配る真意 – 御田寺圭

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なぜ宇宙にいってもカネ配りをするのか

とうとう本当に宇宙旅行に行ってしまった、ZOZO創業者の前澤友作氏。先日宇宙ステーション滞在を終え、無事地球への帰還を果たしたが、氏の宇宙旅行でとくに大きな話題になったのが、もはや氏のライフワークあるいは代名詞ともなりつつある「お金配り」だった。

共同通信社

ZOZO創業者で宇宙旅行中の前澤友作氏(46)が19日、宣言していた「宇宙からのお金贈り」を開始した。ネット上では瞬く間に「#宇宙から全員お金贈り」がトレンド入り。異例の宇宙からのぶん投げで、ネット上はマネー狂騒曲となっている。

2年前からネット上で約30億円ものお金配りを実践してきた前澤氏は、宇宙旅行でも壮大な仕掛けを用意していた。「ハズレなしで全員に当たる」と銘打ち、この日18時から、お金配りをスタートした。
(東スポWeb『前澤友作氏「宇宙からのお金贈り」開始 500円から100万円ばらまきにネット上は狂喜乱舞』(2021年12月19日)より引用

宇宙に行ってもなおやることが「お金配り」であること、そしてすでにこの「お金配り」企画が累計で30億円に達していることには驚いてしまった。

BLOGOS編集部

しかしながら「お金配り」は、あくまでひとりの富裕層が行う社会的営為としては、それほど合理的でもなければ「コスパ」がよくないようにも思える。というのも、「お金配り」を敢行すれば、案の定お金目当ての人間ばかりが群がってしまう状況をつくってしまうからだ。

「お金をくれるから」という不純な動機で集まった人は、お金を与えているうちには気前よく尊崇や敬愛の念を示してくれるが、ひとたびお金を与えなくなってしまえば、すぐに手のひらを返して、愛想をつかして去っていく。その手のひら返しの速度はすさまじい。「金の切れ目が縁の切れ目」とは実によくいったものである。

さらに問題なのは、「お金目当ての人」が群がっている光景をほとんどの人が好ましく思わないことだ。その人と同じくらいの所得水準の富裕層だけでなく、一般的で常識的な人もそうした光景を「あさましい」といって嫌がり、その人のもとを離れていく。

「お金を配る金持ち」と親しくしていると、自分も周囲から「お金目当てに群がる卑しい人間のひとり」と見なされてしまいかねないし、なにより相手から自分自身をそのようなまなざしで見下されているような気がしてあまり快くない。人はだれだって生きていくためにはお金が欲しい。だからといって守銭奴になりたくはないし、ましてや物乞いになりたくないというプライドを捨ててまで生きたいとは思わないのだ。

ゆえに「お金配り」は、富裕層がする営為のなかで、自身のカネも、交友関係も、名声も、なにもかもを棄損するもっとも「コスパ」の悪い社会的営為であることは間違いないだろう。にもかかわらず、この営みを何度も繰り返してはSNSの泡沫のネタを提供する前澤氏の行動は、一般的な富裕層の価値基準や行動様式とは相当に乖離している。

——そんなことは、私がここでいちいち書かなくても、当の前澤氏が百も承知のはずだ。それなのになぜ彼は、あえて「お金配りおじさん」であり続けるのだろうか?

合理的で道徳的な金持ちたち

しかしながら「お金配り」が富裕層にとって経済的にも心理的にも社会的にも、あらゆる側面から「コスパ」の悪い社会的営為であることは、現代社会の別の問題を浮かび上がらせている。

写真AC

というのも、かれらにとっては貧乏人にお金を与える営みが合理的でないことから、富裕層はこぞって、より合理的な使途を探し出して、これに用いようとするからだ。

富裕層は自分にとって経済的にも心理的にも社会的にもメリットの大きな方向で自分のお金を使おうとする(だからこそ富裕層なのであるが)。「貧困層への配分」がそのいずれにおいても有効でないどころか、デメリットばかりが目立つからこそ、かれらは明日の支払いにも困るような貧困層をその窮状から救うためではなく、たとえば貴重な動植物の保護や歴史的遺産や建造物の修繕などに気前よく私財を投じようとする。

パリで暴れまわるイエロージャケットに同情的な富裕層はいなかったが、焼け落ちるノートルダム大聖堂にかれらは心を痛め、こぞって寄付を申し出た。かりにSNS経由で前者に大金を配っても「名誉」や「道徳性」は少しも得られない。しかし「私はノートルダム大聖堂に~万ユーロを寄付します!」とSNSで高らかに宣言すれば、あの人はなんとすばらしい慈善家であるかと人びとに褒めてもらえる。どちらを選ぶか想像に難くない。

「貧者へのお金配り」が経済的にも社会的にも道徳的にも心理的にも非合理的であることは、富裕層の「貧困層への所得再分配」に対する潜在的な忌避意識に通底している。

国内で格差問題が紛糾し、富裕層課税の強化の議論が盛り上がるたび、かれらは激しく嫌がり「海外脱出」をちらつかせる。かれらにとって課税が自分の手持ちのお金の使われ方のなかで、あらゆる意味でもっとも「非合理的」だからである。

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