「我々は古いリターゲティングから、はるかに前進してる」:英パブリッシャーのリーチ、T・ホーンズビー氏

DIGIDAY

『デイリー・ミラー(Daily Mirror)』紙や『OK!』誌など200を超える英国の出版物やウェブサイトを所有しているリーチ(Reach PLC)は当初、2022年までに700万人のメールアドレス登録を目標にしていた。しかし現在、すでにその目標は達成され、2021年11月23日の最新の収益報告によれば、登録ユーザー数は7月末の670万人から800万人へと跳ね上がっているという。

米DIGIDAYは、リーチのグループデジタルディレクターであるテリー・ホーンズビー氏にインタビューし、リーチがいかにしてここに到達できたか、そして次なる目標である登録ユーザー数1000万人達成についてどのような計画を練っているのかを尋ねた。

2年前、リーチはブランドセーフティーツール、マンティス(Mantis)の使用を開始した。このツールは、データをスキャンして収集し、コンテンツが広告に適しているかどうかを確認するというものだ。パンデミックのあいだ、このツールはコンテンツをブロックするのではなく、ポジティブなCOVID-19関連のストーリーに合わせるために広告主に使用された

これに合わせて、リーチは同社Webサイトにアクセスする人々の関心に関するデータを収集するために、マンティス・コンテクスチュアル(Mantis Contextual)を開発し、広告主のためにオーディエンスセグメントを構築するリーチプラス(Reach Plus)も立ち上げた。たとえば、引っ越しに関するコンテンツを読んでいる人を、「家具プラス」セグメントに入れる。行動パターンとして、新しいソファを購入するサイトにアクセスする可能性が高いからだとホーンズビー氏は述べる。マンティスは1日に12万5000のデータポイントを収集する。ホーンズビー氏によると、このツールは会社をCookieのない未来へと導くのにも役立つという。「これによって、私たちは2022年と2023年に向けた準備がひとつ進んだ」と彼は付け加えた。

このインタビューは編集され、要約されている。

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――予定より早くユーザー登録数の目標を達成できたが、リーチはそのためにどんなことをしたのか?

私たちは戦略や計画を変更したわけではない。強いて言えば、ユーザーをより理解するよう努め、当社にサインアップする適切な理由をユーザーに示して、登録を促したことが大きいと思う。たとえばロイヤルファミリーコンテンツを見ている人は、王室のニュースレターにサインアップできるようになる。こうしたユーザーマッチングが当社の目的であり、また、これまで続けてきたことだ。コメント機能とニュースレターは大きな推進力となっている。当社はローカルニュースアグリゲータープラットフォームのインユアエリア(In Your Area)を使用して、ローカルニュースをユーザーに提供している。この購読のために登録している人も多い。特にパンデミックの最中においては、ローカルニュースの信頼は非常に高かった。当社が各地のビジネスとのつながりが非常に強いのは、ユーザーが地元の信頼できるブランドに目を向けるようになり、たとえば、近くのレストランは今日開いているだろうかといったことを知りたがっているからだ。

私たちはユーザーエンゲージの拡大を図り、最終的にはそれはページビューの増加、広告およびパフォーマンスの機会の増加、そして広告の成長につながる。つまりそれは循環だ。データから始まり、そのデータがループ的に拡がって返ってくる。

――1000万人まで、あと200万人。ギャップを埋めるためにどのような取り組みをしているのか?

既存のツールを微調整し、変更するだけでも大きな武器になる。行動ターゲティング広告に関する非常に優れたデータを当社は持っている。それを実際に広告を制作する際に使用できるし、また、たとえば先月と今月の傾向を調べたりすることもできる。ユーザーがほかのコンテンツよりも多くの時間を費やしたコンテンツの種類を知ることができる。王室の場合なら、王室のメンバーごとのページビュー数を確認できる。当社はヘンリー王子の記事を多く書いているが、キャサリン妃のほうがページビュー数を稼いでいたので、キャサリン妃の記事を増やしている。こうした事実を常に見つけることはできないが、トレンドを特定することはとても大切だ。

ビジネスとしての成功はさらなる成功を呼び、当社の目標であるユーザーへのさらなる理解、そしてあらゆる分野におけるパフォーマンスの向上を実現させている。私たちにできることはたくさんある。たとえば当社が利用できる編集ツールはほかにもあるので、2022年は、推奨コンテンツやコンテンツサンプルの提供、Webサイト上の特定のセクションを見ている人がほかのセクションをどれくらい好むかなど、各ユーザーの体験をパーソナライズする予定だ。

――登録ユーザー数1000万人達成という目標に対して期限を設けているか?

答えは「ノー」だ。期限を設けることはできない。私たちはできるだけ早くそこにたどり着き、そこからさらに前に進みたいと考えている。1000万人達成はあくまで通過点に過ぎない。ユーザーをより深く理解して、確実にユーザーが私たちにエンゲージし、より多くのプロダクトにサインアップしてくれるように努める。人々がサインアップできるデジタルプロダクトが多ければ多いほど良い。こうしたことが整ってこそ、体験のパーソナライズへの取り組みを開始できる。つまり、2022年の目標である個別化された体験の提供が可能になる。

――体験の個別化は、リーチが2022年に実行すべき目標としてあなたは言及している。これは、登録者数を増やす新しいツールのひとつとして考えているのか?

私たちのゴールは、体験の個別化を更に進化させ、ユーザーがそのとき必要としている、または望んでいるコンテンツをすぐに視聴できるようにすること。これになるだろう。ユーザーにとって、「ホーム」だと思ってもらえるページを作りたい(私は、アメリカンフットボール、NBA、リアリティ番組「メイド・イン・チェルシー(Made in Chelsea)」が好きだとあなたに話したが、ホームは、そんな私の好きなコンテンツがすべてある場所だ)。そこへ行けば、すべてそろっている。それが当社の目指しているものだ。

私たちにはマンティスがあるので、カテゴリーだけでなくコンテクストも理解しているというユニークな立場にある。多くのパブリッシャーは、ある人が過去30日間にスポーツセクションを訪れたら、その人はスポーツが好きだ、という。だが、そうとは言い切れない。なぜなら、スポーツのセクションにアクセスしたとしても、それは本当に望んだからとは言い切れない。別の目的があったからという可能性もある。

――そのゴールに到達するために、障害になるのは何か?

データマッピング、およびそもそものデータの把握だ。これは大切な作業であり、かつ時間がかかる。2022年にパブリッシャーにとって重要になるのは、データとストーリーテリング、そして人々の消費行動、特に消費する際の基準事項を理解することだ。引越しサイトを閲覧している場合は、その家の場所に始まり、学校などの施設、犯罪率など、家に関するさまざまなコンテンツが読まれるだろう。しかし、それは長期的なパーソナライズにはつながらない。体験の個別化と言っても、短期的なものと長期的なものとでは、内容はまったく異なる。たとえば今は、ニューヨークで十本の指にはいるレストランを制覇したいと思い、実際にニューヨークに行って食べ尽くしたとしても、2週間後にはシカゴへ行ってレストランを制覇したいと思うかもしれない。私たちにとって、重要なのはそのデータを正確に理解することであり、私たちがまだゴールに到達できていないのは、まさにこの理由からだ。

――なるほど……私は7月に結婚したが、まだ結婚式のコンテンツと広告が表示されている!

私たちが避けたいのはそれだ。短期間のデータポイントは常に存在する。パンデミックの最中、私は本当にこれにやられた。ある人がBMWの購入を考えていたとしても、短期間のうちに失業して、それどころではなくなるかもしれない。BMWのコンテンツを1週間読んでいたかもしれないが、次の週には「就職の面接で成功するには」という記事を読んでいる可能性がある。

パブリッシャーとしての私たちの仕事は、必要なときに読みたい記事を目にすることができ、同時に常にあらゆる新鮮な記事も読めるという状況を作り出すことだ。私たちは毎週マインドマッピングセッションを行い、異なるパターンが何を示しているかを検討している。ストーリーテリングの次の進化は、そのデータから、その人が人生のどのステージにいて、何を買っているかを知ることだ。2022年、私たちがもっとも目指すところは、コンテンツおよび広告の方向性・筋道を個別化して、消費者に私たちにエンゲージしようと思ってもらい、「リーチは本当に私のことをわかっている。よし、登録しよう」と言わせることだ。

私たちは古いリターゲティングから、はるかに前進している。Cookieやリターゲティングを使用せずに、コンテクストから誰かが人生のどこの段階にいて、そこで何を望んでいるかについて多くのことを知ることができる。それを提供する当社のアジリティが鍵となるだろう。そして、このような幅広いコンテンツを配信する私たちのようなプラットフォームなら、釣りに興味を持っている人には、即座に釣りのコンテンツを提供できる。

――リーチの最新の収益報告では、Googleのシングルサインオン機能も登録ユーザーの増加の一因となっている。それはいつ追加されたのか、そしてそれはどのくらいの影響を及ぼしたか?

数カ月前に追加された。サインアップにはさまざまなタッチポイントがある。私たちはそれらを「スキニー(skinny)」や「フル(full)」と呼ぶ。「スキニー」は、すぐにメールを送信できるニュースレターのサインアップボックスなど、人々が慣れ親しんでいるワンクリックのサインアップだ。一方で「フル」は、手続きに手間と長い時間のかかるもの。たとえば、コンペについての詳細情報の提供や個人プロフィールの開示によって、より多くの情報を把握できるタイプのものだ。ただし、当社とってサインアップへの導線としての主力はニュースレターとインユアエリアだ。私たちのコンテンツおよびシステムの強みを発揮できる。たとえば「OK! ビューティーボックス」(月額購読)は、電子メールでサインアップするタイプだ。その登録者数増加を促すさまざまなコンテンツやデジタルプロダクトを我々は持っている。

――これらのGoogleベースの登録ユーザーを直接登録ユーザーに変換するために何かする予定はあるか?

ない。私たちのプラットフォームを利用している人はいつでも、私たちのすべてのプロダクトにサインアップできる。つまり登録ユーザーは、当社のほかのコンテンツやデジタルプロダクトに再登録する可能性がある。言い換えれば、すでに登録があるのに、別のプロダクトから重ねて登録される可能性が高い。しかし、それはかまわない。むしろそれによってユーザーが何に登録したいかを把握でき、そのプロダクトへの関心が示される。つまりそこから、彼らの消費行動のパーソナライズを開始できる。

[原文:A Q&A with Reach’s Terry Hornsby on how the U.K. publisher plans to reach 10 million registered users

SARA GUAGLIONE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)

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