有馬目前 2021年競馬を振り返る – 村林建志郎

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私は今怯えている。

2021年がもう終わってしまうなんて、ちょっとあっという間すぎやしないか。私は沢田研二の「時の過ぎゆくままに」が大好きだが、どうもこのまま時の過ぎゆくままにこの身を任せていたら、気がついた時には白髪と黒髪が私の顔の上で戯れているなんてことも考えられる。あまりに速い時の流れに先程から震えが止まらない。

電光石火の速度で過ぎ去る2021年だが、今年も競馬界には数多くの印象的なシーン・レースが誕生した。

5月のヴィクトリアマイルを皮切りに都度筆を執らせていただいた私にとっては、執筆のたびに改めて過去のレースをじっくりと見返すことができ、甚だ有意義な時間を過ごすことができたと思っている。

というわけでここでは、まもなく迎える年末の総決算・有馬記念の前に、私のゴリゴリの独断と偏見に基づいて、2021年の中央競馬を簡単に振り返ってみようと思う。

白毛のGⅠ馬誕生、歴戦の古馬撃破…最強だった3歳世代

毎年競馬ファンは、「クラシック」という言葉を幾度となく口にするが、これは3歳の馬たちのみが出走できる3冠レース(皐月賞・日本ダービー・菊花賞)を指している。また、この3冠以外にも3歳”牝馬”のみが出走できる3冠レース(桜花賞・オークス・秋華賞)も存在する。競馬に携わるすべてのホースマンがこの夢の舞台を目指すわけだが、今年出走した3歳世代の馬たちは間違いなく競馬界を盛り上げ、そして、間違いなく強かった。

白毛馬のソダシは、2歳の時点でその美しい純白の馬体が話題を呼んでいたが、デビュー後着実に勝ち星を積み上げついには無敗でGⅠ勝利。3歳となった今年は牝馬3冠の1冠目である桜花賞も制し、ただのアイドルホースではないことをその強さでもって証明した。さらに今月には初のダートに挑戦。12着に終わったが、来年以降のレース選択が注目されそうである。

阪神JFでGⅠ初勝利をあげたソダシ – 共同通信社

3歳世代の馬たちにとって最も特別な舞台である日本ダービーを制したのは、シャフリヤールだった。3月に毎日杯を勝利した後、クラシック1冠目の皐月賞を回避しそのままダービーへ直行。十分な休養と調教を施した上で出走し、2着の馬にハナ差で先着した。その2着の馬というのが、エフフォーリアだった。ダービー馬の称号を手に入れることはできなかったが、初めての古馬との対戦となった天皇賞(秋)で、3冠馬コントレイルやGⅠ5勝をあげていたグランアレグリア(後に6勝目をあげ引退)などを撃破。改めてその実力を示しただけでなく、世代のトップであることを証明した。

また、3冠レースに出走していない3歳世代の馬たちも強さを見せつけた。NHKマイルカップで春の3歳マイル王に輝いたシュネルマイスターは、その1カ月後の安田記念で早くも古馬と初対決。3着に食い込む実力を見せ、秋のマイル王を決めるマイルチャンピオンシップではグランアレグリアに次ぐ2着となり、来年以降のマイル戦線の中心を担う存在になった。

スプリンターズステークスに出走したピクシーナイトは、3歳馬としては14年ぶりの同レース勝利をもぎ取った。ピクシーナイトの父であるモーリスは国内外でGⅠを6勝した最強マイラーだったが、この6勝というのはすべて古馬になってからの勝利。3歳の時点でGⅠを制してしまった息子の末恐ろしさを感じずにはいられないスプリンターズステークスだった(※先日の香港スプリントで骨折。ゆっくり治してまたターフに帰ってきてほしい!)。

ターフを去る名馬、天国へ旅立った名馬

当然だが、どの競走馬にも「引退」の時が訪れる。今年も多くの名馬がターフを去った。

シンボリルドルフ、ディープインパクトに次いで、昨年無敗の3冠牡馬となったコントレイルは、ジャパンカップがラストランとなった。昨年のジャパンカップでアーモンドアイに敗れ初黒星を喫して以降、今年は4月の大阪杯、10月の天皇賞(秋)と惜敗が続いたが(それぞれ3着と2着)、ダービー馬4頭が集結した今年のジャパンカップでは見事2着のオーソリティに2馬身差で有終の美。

「立派に走ってくれた。ジョッキー人生のすべてをこの馬に注ぎ込んだ」と勝利ジョッキーインタビューで語った福永祐一騎手の涙を見ていると、3冠馬に騎乗することの重みやプライドを想像せざるを得なかったのは言うまでもない(もちろん私の想像を遥かにしのぐものだったと思います)。

ジャパンカップで勝利したコントレイル – 共同通信社

アメリカブリーダーズカップのフィリー&メアターフを制したラヴズオンリーユーは、先日の香港カップでGⅠ4勝目をあげ引退した。2019年に牝馬3冠の2冠目にあたるオークスを勝利してからはGⅠ勝利から遠ざかっていたが、今年だけで海外GⅠ3勝。日本からの長距離輸送などを考えるとこれはとてつもない大偉業だったように思う。また、ラヴズオンリーユーは上述したコントレイルと同じ矢作芳人厩舎が管理していた馬でもあるため、ブリーダーズカップ、ジャパンカップと矢作厩舎の凄みを畳みかけるようにして思い知らされた。

ターフから旅立った馬もいれば、天国へ旅立った馬もいる。

2021年8月31日に天国へ旅立ったドゥラメンテは、2015年の2冠馬だ。「ドゥラメンテ」と聞けばまず思い起こされるであろう皐月賞の衝撃の末脚、そしてディープインパクトの持っていたレコードタイムを上回り勝利した日本ダービー。勝つ時の他を寄せ付けない圧倒ぶりは、まさに馬名の由来の通り”荒々しかった”。

4歳でケガによる引退を余儀なくされてからは種牡馬としての生活を送っており、これからたくさんのドゥラメンテの血を継ぐ馬たちを見られる…と思っていた矢先での突然の訃報に、私は言葉を失った。Twitterのトレンドで「ドゥラメンテ」の文字を見た時は、こんな形でトレンドにあがってほしくないと何度も思い、何度も夢であれと願った。その後、皐月賞以降の全レースで手綱を握ったミルコ・デムーロ騎手がInstagramで追悼。「さようならチャンピオン」の文字が添えられた投稿は、今でも私の心の中にドゥラメンテの荒々しさと、力強い輝きをしっかりと閉じ込めてくれている。

ドゥラメンテ亡き後、菊花賞でドゥラメンテ産駒のタイトルホルダーが圧勝した時は、誰もがタイトルホルダーと横山武史騎手の勝利を祝福し、誰もが「よかったね、ドゥラメンテ」といったような言葉を心の中に並べたのではないだろうか。