たとえば、大泉洋と聞いてどんな印象を持つだろうか。
「紅白歌合戦」の司会、と答える人はもちろんいるだろう。
「探偵はBARにいる」の主演、と答える人もいるだろう。
「水曜どうでしょう」で散々騙された人、と答える人もいるだろう。
天然パーマの俳優、と答える人もいるかもしれない。
どれも正解だ。
「紅白歌合戦」や「探偵はBARにいる」「水曜どうでしょう」に出演している大泉洋はもちろんどれも素晴らしい。最高にかっこよくておもしろい。だが、私が大泉洋と聞いていの一番に思い浮かべるのは紅白やどうでしょうではない。
では何を思い浮かべているのか――北海道出身の私が近年稀にみるレベルで私情を丸出しにしてお答えしよう。
北海道で毎週木曜日深夜0時15分から放送されている30分番組「ハナタレナックス」だ。
「ハナタレナックス」公式サイト
「ハナタレナックス(以下:ハナタレ)」の説明をする前に、もはや言うに及ばずではあるが、大泉洋が所属しているTEAM NACSについて説明しておこう。
出会いは大学時代 学年と年齢がややこしい5人組
TEAM NACSは、北海道札幌市にある北海学園大学の演劇研究会で結成された5人の演劇ユニットだ。
狂おしいほど釣りを愛する一番年下の音尾琢真、在学中に「水曜どうでしょう」に出演するという多忙を極めながらも実は教員免許を取得している大泉洋、一般的には“ミスター残念”として親しまれているが、一部の熱狂的なファンからは“手稲の蒼い流星”としても親しまれている戸次重幸、寡黙さのなかに類い稀なる狂気をはらむ無類のビートルズファンの安田顕、そして彼ら4人を包み込む、まるで北海道そのもののような雄大な心を持つリーダーの森崎博之からなる。
実はこの5人、年齢と学年の関係がいささかややこしい。
年齢順でいうと、リーダー(1971年生まれ)→安田顕・戸次重幸・大泉洋(1973年生まれ)→音尾琢真(1976年の早生まれ)の順になる。だが学年でいうと、リーダー→安田顕(現役)→戸次重幸(一浪)→大泉洋(二浪)と音尾琢真(現役)が同学年、という順になる。さらに卒業順でいうと、リーダー(二留)と安田顕が同時に卒業→大泉洋→戸次重幸(二留)と音尾琢真(一留)が同時に卒業という順になり、入学から卒業までストレートだったのはなんと安田顕しかいないというややこしさなのだ。
現在主演映画が絶賛公開中の安田顕 – BLOGOS編集部
大学時代に出会った5人も今ではアラフィフに突入(※リーダーはつい先日50歳になられました。おめでとうございます!)。コロナ禍においても最新舞台「マスターピース~傑作を君に~」を届けるなどこれまで数々の芝居を打ってきたわけだが、実はTEAM NACSは、一度解散している。
リーダーと安田顕が大学を卒業するにあたり、「LETTER~変わり続けるベクトルの障壁~」を卒業公演として制作。最初で最後の5人での公演、つまり“旗揚げ解散公演”を行ったのだ。
だが、意外にもそれほど時を置かずして5人は再結成することになる。就職したはずのリーダーと安田顕が1年足らずで退職、リーダーの呼びかけにより5人は再び一堂に会することになったのである。
その後も着々とオリジナルの芝居を打ちながらそれぞれのメンバーがドラマやバラエティ番組に出演していく中で始まったのが、ハナタレである。もはや全国区となった北海道発のローカル番組「水曜どうでしょう」のレギュラー放送が2002年9月に終了して間もない2003年1月に放送開始、18年が経過した現在も絶賛放送中のローカルバラエティ番組だ。
衝撃の企画「オナラで『運命』演奏」
道外の方々がどれほどご存知なのかはわからないが、実はNACSメンバーは北海道でいくつかレギュラー番組を抱えている。
「水曜どうでしょう」(現在は不定期放送)はもちろん、大泉洋と戸次重幸が北海道のみならず全国の美味い飯を食べ歩く「おにぎりあたためますか」、大泉洋がSTVテレビの木村洋二さんと絶妙な掛け合いを見せる「1×8いこうよ!」、リーダーが北海道の農業の魅力を発信する「あぐり王国北海道NEXT」など様々な番組が存在するのだが、私にとってハナタレは、これらの番組よりも実に特別な番組である。
それはなぜかというと、ハナタレはNACSメンバー全員が集まる唯一の番組だからだ。
これまで様々な企画が行われており、スタジオで5人だけでトークする時間もあれば、街頭インタビューでメンバーに寄せられた質問に答えていく「ハナタレ一問一答」など、正直短い文章では説明しきれないほど多くの企画を行っている。その中でも、2008年にスタートした「北海道の笑顔プロジェクト」では、メンバーが北海道各地へ赴き、それぞれの地域で出会った笑顔やグルメ、風景などを撮影。延べ1万枚の写真を一つに集めてフォトモザイクを完成させるという壮大なプロジェクトを敢行し、2018年に見事完成させた。(完成版は番組HPで見ることができます)
少し話が脱線するが、ここで、私が長いハナタレの歴史において最も抱腹絶倒を極めた企画を紹介しよう。
「オナラで『運命』演奏」という企画だ。
読んで字のごとく、放屁音でベートーヴェンの「運命」を演奏するという企画だ。「運命」のあの有名な旋律「デデデデーーン、デデデデーーン」の「デ」が、「ブ」になるのだ。想像しただけで笑いが止まらなくなる。そしてベートーヴェンに申し訳なくなる。
演奏の細かな手法はというと、札幌市内にあるレコーディングスタジオに集結したNACSメンバーが、それぞれ放屁したくなったタイミングでマイクの前で放屁。その放屁音を、絶対音感を持つプロが「運命」の音階に当てはめ、最終的にすべての音を満たすまで放屁を続けていくというものだ。人間という生き物はいつでもどこでも放屁が可能な身体ではないため、たまに繰り出される一発の放屁に思いを込める。研ぎ澄ます。だが、無論採用されない放屁音もあるため、なかなか「運命」完成まで辿り着かないというかなりハードな企画なのだ。
読者の皆さんが普段自分の放屁についてどれほど思いを巡らせているかは正直なところ分かりかねるが、放屁マイスターを自称している私にとっては毎週の放送が楽しみで仕方なくなる内容だった。
ちなみに、番組HPにはスタッフの方の編集後記が掲載されているのだが、1カ月以上放屁の企画を編集したがために、“オナラーズハイ”になってしまったという。