睡眠のメカニズムは脳の進化に先立つ可能性、生物は睡眠状態がデフォルトかもしれない

GIGAZINE



長年、「睡眠は脳によって制御されたシステムであり、脳のない動物は眠らない」と考えられてきました。しかし、近年「脳のないクラゲが眠る」ことが示されるなど、脳のない生物も眠ることを示す証拠が複数報告されています。そんな「脳のない動物の睡眠」に関する研究について、学術雑誌のScienceがまとめています。

‘If it’s alive, it sleeps.’ Brainless creatures shed light on why we slumber | Science | AAAS
https://www.science.org/content/article/if-alive-sleeps-brainless-creatures-shed-light-why-we-slumber

睡眠に関する研究は以前から多く行われており、1950年代~1960年代には脳波・眼球運動・心電図・筋電図などを組み合わせた「睡眠ポリグラフ検査」を用いた研究が活発に行われ、「人間の睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠がある」といったことが発見されています。また、動物の行動観察や生理学的分析によって「一部の海洋哺乳類は泳ぎながら眠る」「一部の海鳥は脳の半分を眠らせることで、飛行中に眠る」「コウモリは1日20時間眠る」といったことが明らかになっています。

しかし、上記の研究は脳を持つ動物に対して行われたもので、「ヒドラやクラゲなどの脳のない動物は眠るのか?」という疑問が長年存在していました。近年、この疑問を解決するべく単純な神経系を持つヒドラやクラゲ、海綿、平板動物などのを対象にした睡眠研究が複数行われています。

例えば、カリフォルニア工科大学の研究チームはクラゲの昼夜の行動を観察して「脳のないクラゲも眠る」ということを明らかにしました。この際、生物学者のPaul Sternberg氏は「クラゲは我々が『原始的な神経系を持つ』と考えていた生き物であり、この実験結果は非常に重要です」と述べています。

脳のないクラゲも眠ることが実験で示される – GIGAZINE


さらに、九州大学の伊藤太一助教と金谷啓之氏(研究当時九州大学理学部在籍)はヒドラを対象にした睡眠に関する研究を行い、「原始的な神経系を有するヒドラに睡眠が存在する」「ヒドラに睡眠薬の効果が及ぶ」「ヒドラが睡眠に関わる遺伝子を発現している」といったことを確認しました。研究チームは研究結果に基づいて「動物が脳の進化よりも先に睡眠をメカニズムレベルで獲得していた可能性」を提唱しています。

私たちの眠りの起源はどこに? | 研究成果 | 九州大学(KYUSHU UNIVERSITY)
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/504/


他にも、「地球上で最も単純な動物」とも言われる板状動物の行動速度が夜間に減速することが観察されたり、複雑な神経系をもたない海綿の一種であるAmphimedon queenslandicaで「睡眠に関わることが知られている遺伝子の発現が24時間周期で切り替わる」ことが確認されたりと、「脳のない動物も眠る」という証拠が数多く示されています。

これらの研究成果から、「睡眠は脊椎動物が出現する前の時代から進化してきたシステムである」という考え方が広まりつつあります。セントルイス・ワシントン大学で神経生物学を研究するポール・ショー氏は、「環境に反応する方法を進化させるまでは、初期の生物は『反応』しませんでした。私たちは睡眠を進化させたのではなく、覚醒を進化させたのだと思います」と述べ、生物のデフォルト状態は「睡眠」であったと指摘しています。

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