優れた作品を生んだダ・ヴィンチや葛飾北斎は「動体視力」に秀でていた可能性がある

GIGAZINE
2023年04月27日 08時00分
メモ



小説の描写でも絵の制作でも、優れた作品を生むためには他人や世界を観察する能力が重要です。スイスのバーゼル大学の遺伝学者であるデビッド・セイラー氏は、有名なルネサンス期の芸術家レオナルド・ダ・ヴィンチや、江戸時代後期の浮世絵師である葛飾北斎は、スポーツのトッププロが持つような「クイック・アイ」を備えており、優れた動体視力で一瞬を切り取るように観察することができた可能性があると指摘しています。

Did Leonardo da Vinci’s ‘quick eye’ help him capture Mona Lisa’s fleeting smile? | Live Science
https://www.livescience.com/leonardo-da-vinci-quick-eye-mona-lisa-smile.html


(PDFファイル)EVIDENCE FOR EXTRAORDINARY VISUAL ACUITY IN LEONARDO’S COMMENT ON A DRAGONFLY / SFUMATO IN LEONARDO’S PORTRAITS: OPTICAL AND
PSYCHOPHYSICAL MECHANISMS

https://phe.rockefeller.edu/wp-content/uploads/2020/06/LeonardoFlickFusionSfumatoPortraitJune182020.pdf


動体視力に関係するクイック・アイの能力は、野球選手が高速で飛んでくるボールの縫い目を捉えてボールの回転を把握できたり、テニスプレイヤーが高速で変化するボールの軌道に反応できたりと、スポーツに置いて大きなアドバンテージを与えるものとなっています。セイラー氏によると、クイック・アイの能力が高い人はフリッカー融合頻度という数値が影響していると考えられているそうです。

セイラー氏は、ダ・ヴィンチはフリッカー融合頻度の数値が高く、落ちる水滴の形状の変化までつぶさに見ることができたため、「『モナ・リザ』のような固定されたポーズではなく笑顔になりつつある瞬間」「『最後の晩餐』でキリストが裏切者について言及した直後の混乱」を描き上げたと語っています。


セイラー氏がダ・ヴィンチの観察能力に着目したきっかけは、ダ・ヴィンチがトンボの飛行について残したメモにあったそうです。メモには「トンボは4つの翼で飛ぶが、前の羽が上がると後ろの羽が下がる」と書かれていましたが、セイラー氏自身はトンボをいくら注意深く観察しても、動きが素早いためぼんやりとした輪郭しか見ることができませんでした。そこで、「動体視力が優れているとはどういうことか」を研究しはじめたところ、トンボの「後ろの羽」は「前の羽」と約100分の1秒ずれており、この1秒に100回という速さは、一般的な人間のフリッカー融合頻度の約2倍だと判明したそうです。すなわち、トンボの前後の羽のズレを肉眼で捉えていたということは、フリッカー融合頻度が極めて高いクイック・アイの能力を備えており、普段の視界で見えている情報から普通の人とは異なっていた可能性があるとセイラー氏は指摘しています。

また、クイック・アイの能力は、ダ・ヴィンチの作品に見られる「スフマート」という技法にも現れているとセイラー氏は指摘しています。スフマートとは、深みやボリュームを創り出すために色彩の層を上塗りしていくことで、画面の明るい部分から暗い部分までを境界線なしに徐々に変化させていく技法を指します。普通の人は、ある一瞬のシーンを「1つの中心的な焦点を持つまとまりのある全体」として視覚化しますが、スフマートの技法は「全体像は瞬間的なイメージの部分的な焦点を認識して精神の中で縫い合わせている」と理解した上で、その部分的な焦点を抜き出す技法です。そのため、クイック・アイにより瞬間的な焦点を認識できたことで、スフマートを使いこなせたとセイラー氏は述べています。

ダ・ヴィンチだけではなく、江戸時代後期の浮世絵師である葛飾北斎も、優れたクイック・アイの能力を持っていた可能性があるとセイラー氏は述べています。北斎は飛行中のトンボがどのように羽を動かしているか正確に描写した木版画を作成しており、ダ・ヴィンチ同様に極めて高いフリッカー融合頻度を備えていたと考えられるそうです。


セイラー氏が2020年に公開した論文「ダ・ヴィンチのトンボに関するコメントから見る並外れた視力の証拠」および「ダ・ヴィンチの肖像画における工学的および精神物理学的メカニズム」は、ルネッサンス期の芸術作品から微生物を収集してダ・ヴィンチの遺伝物質を回収しようと試みる「レオナルド・ダ・ヴィンチDNAプロジェクト」の一環として発表されています。セイラー氏は「プロジェクトによりダ・ヴィンチに関する何らかの塩基配列(DNAシークエンス)が発見されれば、私が着目するダ・ヴィンチの視覚能力についても、大きく進展すると思われます」と期待を語っています。

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2023年04月27日 08時00分00秒 in メモ, Posted by log1e_dh

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