2年ぶりに開催された米DIGIDAYの対面型イベント、DIGIDAYメディアバイイング・サミット(Digiday Media Buying Summit)では、メディアエージェンシーとそのクライアントの日常業務に内在するさまざまな問題が浮き彫りにされた。明白な問題もあれば、人目に付かない問題もある。多様性(Diversity)、公平性(Equity)、インクルージョン(Inclusion)、すなわち「DE&I」の取り組みは明白な問題の一例で、権利を奪われた人々が聞いてくれた、見てくれた、投資してくれたと感じるほどの影響を与えるには、まだ長い道のりがある。
このイベントは、10月18日から20日にマイアミのキンプトン・エピック・ホテルで開催された。今回、熱心な参加者から寄せられたフィードバックをもとに、米DIGIDAY編集長ジム・クーパーと筆者がまとめた6つのポイントを紹介する。
DE&I実現の道のりは長い
ふたつ用意されたタウンホールの片方では、難しいが必要な問題である多様性、公平性、インクルージョン(DE&I)について話し合われた。メッセージは明確だ。この15カ月間に善意と前向きな動きが見られたにもかかわらず、エージェンシーの従業員たちは、採用活動や中学、高校レベルの関心を高める活動が十分に行われていないと感じている。進捗状況の測定は、形だけのDE&Iになってしまう危険をはらむ。議論に参加したあるCEOは次のように述べた。「測定はばかげた解決策だと思う。美徳シグナリングを助長するだけだ(中略)私たちはくだらない測定にあまりに多くの時間を費やし、若い才能の発掘や教育、業界の一員になるための基本である対人スキル、文章力、コミュニケーション能力などを身に付けさせることができていない」。
Advertisement
CTVは混乱している
あるタウンホールでは、バイヤーやプランナー、ストラテジストが一様に、CTV(コネクテッドTV)を効果的に計画、購入、評価することがいかに難しいかを訴えていた。理由はいくつもある。ある参加者はCTVの混乱したマーケットプレイスを5年前のモバイル動画に例えた。あまりに多くのDSPが同じインベントリー(在庫)を売ろうとしているため、無駄や重複が発生しているという指摘も数多く聞かれた。そのうえ、透明性が欠如しているため、不正なオーディエンスや存在しないオーディエンスも生まれているという。
もうマーケティングファネルとは呼ばせない
ブランドマーケティングとパフォーマンスマーケティングの重複をテーマにした議論で一貫して聞かれたのが、「マーケティングファネル」という言葉はもはや有効ではないという意見だ。むしろエージェンシーはブランドのハロー効果を生み出しながら、パフォーマンスベースの目標を達成する必要があり、これはまさにカスタマージャーニーの取り組みと捉えるべきだ。ある参加者は「特定の商品に関しては、ファネルは確実に崩壊している。特にTikTokやインスタグラムでは、財布やスマートフォンケースのようなリスクが低い商品の場合、商品にまつわるストーリーがなくても購入につなげることができる」と説明した。そして、別の参加者は次のように補足する。「有料メディアチャネルのアトリビューションが難しくなるにつれて、パフォーマンスがブランド全体に影響を及ぼし始めたようだ。クリエイティブへの依存度も高まっている。最終的に、このふたつは婚約でもするんじゃないかと思う」。
サイロ化の嵐
トラッキングベースの広告からコンテクスチュアルへの移行とともに、データのサイロ化が進んでおり、あらゆるタイプのウォールドガーデンが現れようとしている。それぞれのウォールドガーデンでファーストパーティデータの旗がはためくことになるだろう。エージェンシーとクライアントがこのような状況下で目標を達成するには、アイデンティティ、プライバシー、測定に焦点を当てた柔軟性の高いパートナーシップが必要になる。あるデジタルバイヤーは苛立ちをあらわにした。「iOS 14.5以降の世界では、コンバージョンベースのキャンペーンにおける追跡、規模の拡大、アトリビューションがどんどん厳しくなっている」。
ベンダーからパートナーへの転身
新型コロナのパンデミックとサードパーティCookieの廃止による混乱を経て、エージェンシーは従来の代理店業務よりコンサルティングに近い役割を担うようになっている。エージェンシーが生き延びるには、ビジネスソリューション・アナリストやコラボレーターにならなければならない。また、この業界の新しいリーダーを目指して努力し、そのスキルに見合った報酬を得る必要がある。あるタウンホールの参加者は次のように述べている。「メディア報酬はほぼ例外なく支出と連動している。予算が少なく、スタッフの労働時間がその支出に見合っていない場合は大変だ」。
クリエイティブがかつてないほど重要になっている
メディアエージェンシーがクライアントのために追求するマーケティングの選択肢が複雑化するにつれて、クリエイティブプロセスのより明確な提案が求められるようになっている。30秒の動画スポットをFacebookやTikTokに再利用できる時代は終わった。実際、Facebook用の動画スポットをつくっても、TikTokには再利用できない。創造的な爆発は健在だが、創造のプロセスを導くには、メディアによる優れた提案が必要だ。「我々が苦労しているのは、別のプラットフォームのためにつくられた完璧なコマーシャルを再利用するのではなく、TikTok専用のクリエイティブを制作あるいは承認するようクライアントを説得することだ」とある参加者は語った。
MICHAEL BÜRGI(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:小玉明依)