日本のエネルギー問題 鍵は水力 – 田中淳夫

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イギリスでCOP26が開かれているが、岸田総理の演説の中身のなさにがっかりさせられた。化石賞をもらうのも、さもありなんである。まあ、想定どおりだが。

だが温室効果ガスを排出する化石エネルギーを減らすとなると、その代わりを見つけないと現代生活が維持できないというジレンマに襲われる。もちろん、脱成長という選択肢もあるのだが、誰も選びたがらない……。

そこで再生可能エネルギーに期待が集まるのだが、このところメガソーラーや巨大風力発電への批判の声が高まっている。森林など自然を広範囲に破壊することや景観、気象害に耐えられるのか、低周波を出すのではないか……等々、何かと生活に悪影響を与えるからだ。しかも、太陽電池の製造や廃棄問題まで考えると、本当に二酸化炭素削減になるのかどうかも怪しい。

私は、危急の際だからソーラーや風力は景観程度のデメリットは諦めて推進するのも仕方ないと思う。人里から離れたところなら低周波も影響は薄いし、バードストライクも技術的には抑えることは可能だろう。ただし、森林をなくして大気中の炭素を削減になるわけない。
とくにバイオマス発電に至っては、原理的にも二酸化炭素排出削減にならない。逆に排出を増やし吸収を減らすだろう。そんな再生可能ではない再生可能エネルギーも多いのである。かろうじて意味のあるのは製材施設に付随させた端材・廃材を燃料にするものだけだが、それでは燃料が足りずに日本では小規模なものでも5基もつくれないだろう。

では、何があるか。

そう考えた際に浮かんだのが水力発電だ。これこそ、日本ならではの再生可能エネルギーの主力になれるのではないか。地形的にも多雨気候からしても、日本にもっとも向いている。もちろん温室効果ガスを排出しないクリーンなうえ、日照時間や風向き・風速など天候に左右されない電力である。しかも、一度設置したらランニングコストが極めて少ない。また施設も、たいてい長持ちする。
とはいえ何も巨大ダムを新設しようというのではない。もっとよい手がある。

まずは、農業用水路や小河川によって発電する小水力発電所。(出力1000キロワット以下を小水力発電、数10キロワット以下はマイクロ小水力発電と分類されている。)これは各地で続々と誕生している。たとえば富山県や長野県、山梨県、熊本県などで増えている。しかも発電だけでなく、売電収益を施設の維持管理費に充てたり、地域の諸施設へ電力供給することで、電気料金が燃料購入のため流出することなく域内で循環するので、地域経済に資金が回るから地域づくりにも役立っている。

しかし小水力だけでは、あまりにも発電量が少ない。そこである程度のダムによる水力も必要だ。ただし私は、何も新設しなくても、従来のダムを利用しても電力を増やせると睨んでいる。ただし障壁となるのは、河川法や電気事業法、水利権など各種法令をクリアすることだ。

まず現有ダムの貯水量を増加させることだ。第一に取り組むべきは堆砂の除去。すでに半分以上が埋まっているダムもあるのだから。次にダムサイトを何メートルか嵩上げすること。技術的には難しくない。これだけで貯水量を一気に増やせるはずだ。そして本命は、貯水能力を常時(満水時の)半分しか貯められないようにしている多目的ダム法を改正することだ。治水のために普段から貯めるな、としているからだ。これは昭和30年代の法律だ。しかし今は気象予報が進んできたから、普段は満水近くにしておいて、大雨の前に放流すれば済むのではないか。

そして発電していないダムも利用する。農業用ダムや砂防ダムだって発電できる。いやダムではなく水路があれば小水力発電ならできる。

ちなみに元国交省官僚の竹村公太郎氏は、ダムを増やさないでも発電量は2倍にできる、日本の電力需要の2割ぐらいは賄えると指摘している。すると再生可能エネルギーは全体の3割を越す。ぐっと目標に近づけるではないか。

これらに要する資金は、ゼロから建設するよりはるかに安くつく。しかも建設期間もたいしてかからない。再生可能エネルギーを増やせ、というわりには、なぜ水力発電の強化に目を向かないのか。

奈良県川上村の大滝ダム。これは巨大な多目的ダムの一つだろうが、普段は満水になっていない。