中国に依存せざるを得ない韓国 – PRESIDENT Online

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なぜ日韓関係はこれほど悪くなってしまったのか。東京大学大学院の木宮正史教授は「日韓は歴史問題をめぐって対立を深めているが、それは関係悪化の根本的な原因ではない。ここまで関係が悪化した根本的な原因は、激化する米中対立に対する立場の違いにある。しかし、この立場の違いは決定的なものではない」という――。

2020年11月26日、ソウルの大統領府での会談で、中国の王毅外相(左)と握手する韓国の文在寅大統領(右)
2020年11月26日、ソウルの大統領府での会談で、中国の王毅外相(左)と握手する韓国の文在寅大統領(右) – 写真=The Blue House/AFP/時事通信フォト

関係悪化の一途をたどる日韓問題

小渕恵三政権と金大中政権との間で合意された1998年の日韓パートナーシップ宣言で、日韓関係は歴史問題をめぐる対立に一区切りをつけて、新たな段階に進むと期待された。

しかし、その後の日韓関係は、

韓国の盧武鉉(ノムヒョン)(進歩)→李(イ)明博(ミョンバク)(保守)→朴(パク)槿(ク)恵(ネ)(保守)→文在(ムンジェ)寅(イン)(進歩) 日本の森喜朗→小泉純一郎→安倍晋三→福田康夫→麻生太郎(以上、自民)→鳩山由紀夫→菅直人→野田佳彦(以上、民主)→安倍晋三→菅義偉(以上、自民)

と、それぞれ政権交代を経過したが、関係悪化の流れに歯止めがかからなかった。こうした関係悪化の原因となったのは、第一義的に、日韓の間に存在する、歴史問題や領土問題であった。

特に、慰安婦問題や徴用工問題など歴史問題に関して、1965年の日韓請求権協定や2015年末の慰安婦問題に関する日韓政府間合意などによって、日韓政府間で解決が合意されたにもかかわらず、韓国の司法が、加害者である日本の政府や企業に損害賠償を命じる判決を下したのである。

こうした判決は、政府間合意を受け入れ難いとする韓国の被害者および支援団体、そして、それを基本的には支持する韓国社会の世論に支えられたものだった。

2018年10月の韓国最高裁(大法廷)は、劣悪な条件での苛酷な労働という反人道的な人権侵害に対する慰謝料請求などを含む損害賠償請求は未解決であるとして、被告である日本企業に対する損害賠償を命じる判決を確定した。

この確定判決に基づき、日本企業の在韓資産に対する現金化措置の手続きが進まざるを得なくなったのである。

協力的だった経済や安全保障まで対立が拡大

慰安婦問題に関しては、文在寅政権は、日韓政府間合意を破棄するとは言わないが、これでは問題解決にはならないとして、合意に基づいて創設された「和解癒やし財団」を解散した。

さらに、2021年1月、ソウル中央地裁は、「主権免除」の国際慣習法によって外国政府を被告とした裁判は成立し得ないという原則を適用せず、元慰安婦女性に対する日本政府の損害賠償を命じる判決を出し、従来から訴訟に参加しないという日本政府の原則に則って控訴もしなかったために、判決が確定した。

こうした一連の韓国の司法判断に対して、日本政府は「国際法違反」だとして、韓国政府に対して、その是正を求めたが、韓国政府は「三権分立」なので司法判断には介入できず、日本政府の要求全てに応えることはできないという立場であった。

そして、今度は、日本政府が、そうした韓国政府への実質的な対抗措置として、2019年7月、対韓輸出管理措置の見直しを行い、これに対して韓国では官民挙げての対抗措置が採られることになった。

さらに、そうした渦中、韓国海軍による自衛隊哨戒機へのレーダー照射問題が起こり、これに関する日韓両政府間の見解が対立するなど相互不信が増幅した。このように、歴史問題をめぐる対立が、それまで日韓の協力分野であった経済や安全保障の領域にまで拡大する様相を示し始めたのである。

非対称的な関係から、対称的な関係に変化した日韓関係

従来、日韓間に歴史問題や領土問題は厳然として存在した。にもかかわらず、関係が必然的に悪化したわけではなかった。それではなぜ、近年、日韓関係が急激に悪化することになってしまったのか。

7月に岩波書店から上梓した『日韓関係史』では、その原因として日韓関係が「非対称で相互補完的な関係」から「対称で相互競争的な関係」に変容したにもかかわらず、日韓双方の政府、さらに社会が、そうした構造変容に適切に対応できていないという点に注目している。

1980年代の冷戦期、下記の点において日韓は“非対称な関係”にあった。

①日本の力の優位
②日本の市場民主主義と韓国の開発独裁という体制の違い
③政府・財界関係のみの関係
④関心・情報・価値の日本から韓国への一方的流通

こうした非対称な関係の下で、日韓の経済協力によって韓国の経済発展と政治的安定を達成し、それによって北朝鮮に対する韓国の体制優位を確保することで日本の安全保障を確実なものにするという相互補完的な関係が形成されていた。そして、その共通目標は見事に達成された。

しかし、1990年代以降、冷戦の終焉と韓国の先進国化・民主化によって、日韓の関係性は、

①日韓の力の対等化
②市場民主主義という価値観の共有
③地方政府間関係、社会文化関係を含む多層で多様な関係
④関心・情報・価値の流通における日韓の双方向化

などによって対称的に変化した。

そして、それに伴って、日韓間には競争関係が強く刻印されることで、相互に自分のほうが進んで譲歩し難いという関係になってきたのである。

互いに協力する目的を失ってしまった

このように、冷戦体制下において、日韓協力を通して韓国の経済発展と政治的安定を確保し、北朝鮮に対する韓国の体制優位を確実なものにすることで、日韓の安全保障に資するという共通目標自体が達成されてしまったが故に、一体何のために、どのように協力するのかが不透明になったのである。

日本と韓国
※写真はイメージです – 写真=iStock.com/Oleksii Liskonih

さらに、不透明になるだけでなく、場合によっては、外交目標に関する日韓の乖離が目立つようになった。そのような状況のなかで、日韓の間に存在する歴史問題や領土問題に起因した対立関係がエスカレートしないように管理するという課題を、日韓双方とも共有しなくなった可能性が高い。

そうした対立争点を妥協に導くためには、日韓双方の相対的な強硬世論に対して、そうした対立争点があるにもかかわらず、より一層重要な分野、具体的には経済や安全保障に関して協力する必要があるので、そうしなければならないと説得する必要がある。

しかし、そうした協力の必要性が低下すると、強硬な国内世論を説得してまで、対立を妥協に導く必要がないということになってしまうからである。

しかも、日韓が対称で相互競争的な関係になることで、「相手には絶対負けられない、譲歩できない」と双方の国内世論、特に、従来はそれほどでもなかった日本の国内世論がより一層強硬になることで、政府としてはあえて強硬な国内世論の支持を相当程度失うかもしれないというリスクを負ってしまう。

そのようなリスクを取ってまで、相手国との妥協を試みるという選択をするだろうか。

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