これがヒシバッタ。
3才から6才くらいまでの頃、昆虫採集のターゲットといえばだいたいバッタやコオロギと決まっていた。幼稚園児の行動圏内にたくさん生息していて、網がなくてもまあ簡単に捕まえられるからである。真冬をのぞけば年中いる点も手軽でよい。
そんなバッタたちの中でも、とくにお気に入りだったのがヒシバッタだ。
ヒシバッタの魅力、それは寸詰まりの体型のかわいらしさ
虫に詳しい人なら「ヒシバッタなんて珍しくもなんともない」と思われるかもしれない。
じっさい、北は北海道から、南は沖縄にいたるまで、日本中にまんべんなく生息しているらしい。幼稚園児がそのへんで見つけてこられるくらいだから、住宅地のちょっとした植え込みなんかでも探せば見つかることがあるはずだ。
なぜそんな、ありがたみのない虫をあえて取り上げるのか。それはですね。
ヒシバッタがかわいいからだ!
この記事は、ヒシバッタのかわいらしさを知ってほしいという、ただただそれだけの記事である。
ためしに草むらでよく出会うほかの昆虫と比べてみよう。
バッタやカマキリたちは、速く飛ぶためだったり獲物を捕まえるためだったりで総じて細長くシュッとしている。
こういう虫たちも、幼虫の時点ではやはり頭が大きくずんぐりとした体型をしているのだが、大人になるにつれてスリムな美しさ目覚めてしまうのだ。ヒシバッタだけが、成長してもかたくなに幼児体形を維持しているのである。なにかそういう趣味のようなものをお持ちなのだろうか?不思議である。
漫画やアニメキャラクターのフィギュアの世界にも、ねんどろいどとかSDシリーズといったジャンルがある。もともと7頭身とか8頭身とかのキャラクターを、2.5頭身くらいに圧縮したデフォルメ版である。
久しぶりにヒシバッタを手元で観察してみて、そのかわいらしさにねんどろいどと通じるものを感じた。つまり、ヒシバッタの造形はいかにも日本人の感性にフィットした”かわいい”であり、世界に胸を張って広められる”KAWAII”だったのだ!
どんくさそうな体形と裏腹に、バッタ類の特徴である強力な後ろ脚は健在だ。じっさい、良く跳ねる。ただ、跳ねた後のことはあまり考えていないようで、真上に跳ねてはじめとほとんど同じ場所に着地したりする。
これでやっていけるのだろうか?といらぬ心配をさせられたりする。
バッタやイナゴは、手で捕まえると口から茶色くて臭い汁(消化液を吐き戻したもの)を出して嫌がらせしてくるのだが、ヒシバッタはそういういやらしい攻撃もしてこないようだった。
知れば知るほど愛される要素に溢れているのだ。
たぶんどこにでもいる。でも、捕まえるのに苦労した
さて、ヒシバッタの魅力がわかっていただけたところで、捕まえ方について簡単に紹介しようと思う。
先ほども述べたように、ヒシバッタは珍しい虫ではまったくない。この記事を読んでいるあなたが日本に住んでいるなら、たぶん自宅の近くで見つけることも可能なはずなのだ。
それなのに、はじめのうちなかなか見つけることができず焦らされることになった。
なぜかというと、探している場所が悪かったのだ。
バッタを捕まえるということで、上の写真のような、植物がモサモサと茂っているところから探し始めたのだが、結論から言うとこういう場所でヒシバッタを探すのは分が悪い。ではどういう場所がいいのだろうか。
考えてみれば当然のことだった。
トノサマバッタやショウリョウバッタが幼虫の育つ環境によって緑色になったり茶色になったりするのとちがって、ヒシバッタは茶色や黒色といった土に近い色にしかならない。
これは、ヒシバッタが茶色い場所に隠れられるよう進化したからなのだ。
下の写真のどこかにヒシバッタが隠れているので、探してみてほしい。
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え、簡単すぎるって?
なら次はどうだろう。
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とまあ、茶色い体色と複雑な模様のせいで恐るべき迷彩効果を発揮する。アメリカ軍あたりがヒシバッタの模様を参考にして『ヒシバッタ迷彩』を開発しても驚くまい。
しかも小さくて、足下の土の近くにいる。それこそ、大人より目線の低い子供の方がうまく見つけられるかもしれない。
さて、見つけてしまえば捕まえるのは簡単だ。
驚かせて逃げられてしまわないようにそっと近づいて、指でつまんでやるのが一番手軽である。
いわゆる『昆虫採集の季節』は終わってしまったが、ヒシバッタはだいたい11月一杯くらいまでは観察することができる。
我々好みの、寸詰まりでデフォルメされたかわいらしさを堪能してみてほしい。
というわけで、ヒシバッタを採って愛でるだけの記事でした。
当初はヒシバッタ科のさらに下の分類にまで踏み込もうかとも思っていたのだが、ハードルが高くあまりへたなことを書けないなと思ったので断念。
ともあれ、今回の記事を書くために数時間河原の草むらを散策してみて、緑っぽい色の生き物は緑色の植物の上に、茶色っぽい生き物は枯草や土の上にいるというあたりまえのことがきちんと実践されているという、シンプルな事実にあらためて感動した。
生き物たちはしっかりと自己分析をして、自分が一番活躍できそうな場所に身を投じていたのだ。人間ですらそれができない人がたくさんいるのにである。
見習わねばならないと思った。