44年ぶり野音 伊藤蘭の姿に感涙 – 松田健次

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2021年9月26日、伊藤蘭が日比谷野外大音楽堂のステージに立った。それは44年ぶりの野音であり、44年前の1977年7月17日にトップアイドルだったキャンディーズ(伊藤蘭・田中好子・藤村美樹)はこのステージで解散を宣言した。

コンサート終盤、「私たち、皆さんに謝らなければならないことがあります。私たち今度の9月で解散します!」と突然の発表。ファンの歓声は驚嘆に変わって混乱に染まり、キャンディーズは涙声で「ごめんなさい」と繰り返した。

そこで伊藤蘭が発した「普通の女の子に戻りたい」という叫びはシンボリックに世間に放たれ、この年の流行語となる。あらためて設定された78年4月の後楽園球場でのファイナルコンサートに向かって、キャンディーズ解散までの日々はひとつのムーブメントとして膨らんでいった。

野音はその「終わりの始まり」の地としてキャンディーズ・ヒストリーに刻印された場所だ。その野音に、ふたたび伊藤蘭が立った――。

「今、私が野音でコンサートを行う、その意味って何だろう」

伊藤蘭はキャンディーズ解散後、女優業を主として芸能活動を続け、歌手業を封印してきた。40年以上の長い時を経て歌手活動への復帰を果たしたのは2年前、2019年だった。以後、ソロシンガーとしてコンサートを開催。そこでキャンディーズ時代のヒットナンバーもたっぷり披露している。

それはキャンディーズファンにとって感慨ひとしおのことだった。しかし、その主役はリターン・トゥ・キャンディーズではなくソロシンガーとして新たな一歩を踏み出した伊藤蘭自身だった。

そして2021年7月、伊藤蘭はセカンドアルバム発売に合わせてのツアー「Beside you&fun fun Candies!」で、特別追加公演として日比谷野音でのライブ開催を発表する。このライブに関してオフィシャルサイトでは伊藤蘭による以下のコメントが寄せられた――、

「9月26日に東京の日比谷野外音楽堂での公演が決定しました。

野音のステージに立つのは44年ぶり。ご存知の方もいると思いますがキャンディーズ時代の77年7月17日、私達が解散の意思を公にした場所です。私にとっても当時を知るファンの方達にとってもあまりにも鮮烈な思い出を残す場所なので、このお話を聞いた時は正直迷いました。

今、私が野音でコンサートを行う、その意味って何だろうと…。

現在私を支えてくれるスタッフの中には、キャンディーズ時代の音楽活動に思い入れを持ってくださる方も多くいて、今回もそうしたスタッフの方々の提案がきっかけとも言えます。やはりそんな熱意は今とても有り難く響いてきます。

あまり考え過ぎずに素直に受け止め私にできるのであれば応えてみたいと思いました。

野音の風を感じながら、新曲はもちろんキャンディーズ時代の歌の数々を楽しんでいただけたらと思います。皆さんと一緒に長い年月を経て再びその場所に戻れたことを、お互いに喜び合えるステージにできたら嬉しいです」

キャンディーズの「終わりの始まり」となった地でのコンサート、となれば、このコンサートに限っては主役は伊藤蘭にとどまらず、キャンディーズ・ヒストリーが前面で並び立つ。キャンディーズへ堂々とリターン・トゥできる日、ということになる。

なので行ってきた。ファンだったから。 公演当日、野音のすり鉢状の客席は自分も含め熟しきったオトナ達で埋め尽くされ、男性9割女性1割の様相。開演は17時。ステージにバンドメンバーが現れ拍手が起きる。キャンディーズ登場を煽るナンバー『SUPER CANDIES』から始まり、懐かしさがこみあげてくる。その演奏がおもむろに『春一番』のイントロに切り替わり、いきなりのメインナンバーにアドレナリンが噴きあがった。

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ステージ奥に設えたセットのセンターから伊藤蘭が姿を現す。「ランちゃーん!」という掛け声を誰もがマスクの内に無声で押しとどめ、その思いを拍手に込める。

『春一番』を歌い終えると――、「ただいま野音、そう言わせてもらってもいいのでしょうか・・・」と伊藤蘭が語った。客席の誰もが「おかえりなさい」の言葉を心の内に発する。44年の時がつながり、記憶の中のキャンディーズと邂逅する野音のステージが幕を開けた。

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