ロッキンは中止する必要あったか – 山田太郎

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7月7日、日本最大級の野外ロック・フェスティバルであるロッキン(ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2021)の中止が決まったとのニュースが飛び込んできました。日本を代表するアーティストたちが参加し、若者をはじめ何十万人ものファンが毎年楽しみにしているイベントです。
開催地の茨城県は緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象地域ではなく、予定されていたイベントは政府の示す開催制限等を遵守したものでした。しかしながら地元の医師会の強い要請があったために、主催者は苦渋の決断を迫られたのです。

ロッキンは中止する必要があったのか?

緊急事態宣言が発令された7月8日、私は参議院議院運営委員会で、コロナ禍でのイベント開催について西村大臣に質疑を行いました。
結果として西村大臣から、政府としてエンタメ支援策の基準を見直すことへの言質が得られましたが、私が問題視しているのは、支援以前に、そもそもロッキンを中止する必要があったのかどうかです。

▼質疑の動画はこちら
【国会質疑】西村大臣に問う!ロッキン中止 #ロッキン #ラブシャ #フジロック(7月8日)
https://www.youtube.com/watch?v=_QDteVaSSiY&list=RDCMUC5eBtg3Lx8FQQNL7VNXeXhw&start_radio=1

ロッキンは開催地である茨城県ひたちなか市が後援し、開催に向けて準備が進められていましたが、開催の約1ヶ月前の7月2日になって民間の団体である茨城県の医師会からの中止要請があり、7月7日に主催者が中止を発表しました。1ヶ月前というと、機材やスタッフの発注は完了しており、多くの費用がすでに発生している状態。この段階での中止は、かなりの経済的な損失になるはずです。

エビデンスに基づかない反対を全て聞き入れていたら、今後一切経済活動が再開できないのではないか?

ロッキンに続き、8月には新潟でのフジロック(FUJI ROCK FESTIVAL’21)、山梨でのラブシャ(SWEET LOVE SHOWER2021)と、例年10万人規模で行われる野外フェスが予定されています。
そこで私は、7月9日、CiP協議会の方々と面会し現場の実情を伺いました。
CiP協議会はロッキン、フジロック、ラブシャに加え、ARABAKI ROCK FEST.、RISING SUN ROCK FESTIVAL、SUMMER SONIC、RISH BALLを主催する事業者とともに、安全かつ安心な野外音楽フェスの開催および拡大を目指した活動を展開しており、その一環としてコロナウイルス感染症対策を中心としたガイドラインの策定なども行っています。


△CiP協議会の理事の方々との面会の様子。

話を聞くと、現場では政府のガイドラインに従い、十分に感染対策をした上で開催準備を進めていることがわかりました。実際、JAPAN JAMやVIVA LA ROCK、GREENROOM FESTIVALなど、今年の5月、6月にいくつかの野外フェスが行われていますが、クラスターは一度も発生していません。

そもそも緊急事態宣言やまん延防止等重点措置等は行政が責任を持って出すべきもので、感染拡大の危険性があるから発令されます。仮に茨城県でイベントを開催してはいけないぐらい感染拡大しているのであれば、行政が緊急事態宣言を発令していなければなりません。発令がないということは、感染症対策をした上で普通の生活を送って問題がないと判断しているということです。
つまり、7月時点で緊急事態宣言等の発令の対象地域ではない茨城県では、ロッキンを中止する必要がなかったのです。
加えて、茨城県医師会の中止要請は、病床数の逼迫などの具体的なエビデンスに基づいたものではありませんでした。
宣言が出されていないのに、エビデンスなしでなんでも中止に追い込んでしまえば、裏を返せば宣言が意味をなさなくなってしまいます。

行政は緊急事態宣言等の発令に責任を持ち、イベント参加者はルールを守る

前述のように、緊急事態宣言等が存在する以上、対象地域外では感染症対策をした上で経済活動を再開すべきであり、できないのであれば宣言を発令すべきです。
行政の長である知事は、緊急事態宣言等の意義を理解し、責任を持って必要に応じて発令の要請をしなければなりません。宣言の濫発は社会的にも経済的にも大きな混乱を招きますから、知事にはバランス良く舵取りする能力が求められますが、それは自治体のトップとして当然の責務であり能力です。

一方で、イベント参加者も、きちんとルールを守って参加する必要があります。マスクを外して騒いだりしてクラスターが起きては、全ての努力が水の泡です。
皆がルールを守って初めて、イベント開催が可能となるのです。

責任の所在を行政にすることで、万が一の際に公的な支援を可能に

対象地域外では通常通りイベントを開催すべきですが、そうは言っても個別の事情により開催が難しいような例外はあるでしょう。
しかし、ロッキンのように特定の民間の要請で中止になった場合、要請を出す側がイベント主催者に対し何らかの補償ができるわけもなく、主催者は泣き寝入りすることになってしまいます。

 一方で、最終的な開催可否の決定権を民間の主催者ではなく行政の長である知事に持たせれば、責任の所在が行政となり、やむを得ず中止になってしまったイベントに対し公的な支援や補償をすることが可能になります。もちろんその中止の判断は、エビデンスに基づいたものであることが前提です。
 公的な支援には、例えば地方創生臨時交付金の充当や、既存の制度である文化庁の「ARTS for the future!」や経済産業省の「J-LODlive2」の支援の適用を拡大して対応するなどが考えられます。
また、チケット代の払い戻しを希望しない参加者に寄付控除を認めるなど、主催者側の負担を減らし、皆でイベントを支える仕組みを作っていくこともできます。

なぜ緊急事態宣言を発令するのか、改めてその意義を明確に

圧倒的にエビデンスが弱い政府の情報発信の現状

私はこれまでも政府に提言を出すなど繰り返し指摘していますが、いつまでも国民の不安が拭えない大きな原因のひとつが、政府がエビデンスに基づいた情報発信をきちんとしていないことです。
すでに下記のような技術や制度が開発、活用され始めており、コロナ感染への対策やエビデンスを取ることは決して難しくありません。

【技術や制度の例】

  • 二酸化炭素モニター:換気状態の目安となる二酸化炭素濃度を測定し、可視化する。
  • 下水疫学検査:下水中の新型コロナウイルス濃度を測定し、下水集水域に存在する感染者数を推定する。
  • 非接触型イベント入場管理システム:イベント会場や飲食店でQRコードを読み込み、システムに登録することで、同じ施設で感染者が発生した場合に通知を受け取ることができる。
  • 接触確認アプリ:厚生労働省の「COCOA」やスマートフォンのGPSを活用したアプリなど。新型コロナウイルス感染症の陽性者と接触した可能性について、通知を受けることができる。
  • 認証制度:基準を満たした感染対策を実施している事業者を自治体が認証、公表し、ステッカー等を交付する。
  • ワクチンパスポート:新型コロナウイルスのワクチン接種を受けたことを証明する。
  • VRS(ワクチン接種記録システム):クラウド上のシステムで、個人のワクチン接種記録情報を管理する。

ガイドラインも宣言も、本来の目的は一日も早く日常を取り戻すこと

政府は、エビデンスを取った上で、緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置について発令の基準を明確にすべきです。重傷者数なのか死亡者数なのか、あるいは病床の逼迫率なのか、明確な基準を設定した上で、誰が見ても理解できるような分かりやすく公平なガイドラインを作成・提示しなければなりません。
 同時に、現在政府が発表している感染状況に応じたイベント開催制限についても、収容率や人数上限を実態に合わせて見直す必要があります。今後もデルタ株のような変異株が発生するなど、状況の変化が予測されますので、状況に応じた素早い対応が欠かせません。
その上で情報がしっかりと発信されれば、感染拡大防止と経済活動の再開に、皆が同じ判断基準で取り組むことができるようになるはずです。

 緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置の発令は、経済活動を抑え込むことが目的ではなく、感染拡大を防止しコロナ感染を抑えることにより一日も早く経済活動をはじめとする日常を取り戻すことが目的のはずです。
 感染拡大の恐れがある地域には行政が責任を持ってエビデンスに基づいた緊急事態宣言等を発令し、そうでない地域では感染症対策をした上で経済活動を再開する。改めて宣言の意味を明確にし、国民全体で共有する必要があります。

さて、今回の質疑で西村大臣からは政府としてコロナ禍のイベント支援の基準を見直すとの言質を得ましたが、政府に任せっぱなしにせず私自身も責任を持って動き続けます。
西村大臣には質疑の後にも直に具体的な対策案を進言し、さらに直接官邸筋にも働きかけています。
私の方では現場の実情を把握し、その声を政策に反映すべく、引き続き実効性のある取り組みを進めます。

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