2021年9月9日、「人々を笑わせ考えさせた業績」に送られるイグノーベル賞の第31回授賞式が行われました。その中で、数人が「歩きスマホ」を行うことで周りの歩行者の通行にも影響を及ぼすことを明らかにした京都工芸繊維大学の村上久氏らが動力学賞を受賞。日本人のイグノーベル賞受賞は15年連続となりました。
Improbable Research
https://www.improbable.com/2021-ceremony/
Sex can relieve nasal congestion, and other work honored by 2021 Ig Nobels. | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2021/09/feline-acoustics-the-smell-of-fear-and-more-receive-2021-ig-nobel-prizes/
第31回授賞式は、昨年に引き続きオンライン形式で実施。授賞式の様子はYouTubeの公式チャンネルから視聴できるほか、日本語字幕付きのライブストリーミングがニコニコ生放送で確認できます。
2021年のイグノーベル賞受賞研究は以下の通り。
◆生物学賞:ネコの多種多様な鳴き声を音響学的に分析した研究
ネコの「ニャー」という鳴き声にイントネーションの違いがあることを音響分析により明らかにし、人間がネコの鳴き声の違いからネコの意思を識別できる可能性を示唆した一連の研究に対し、生物学賞が贈られました。
対象となった研究は、スウェーデンのスザンヌ・シュッツ氏が主導した2011年、2012年、2013年、2014年、および2016年の5つの研究。授賞式にはネコ耳を付けたシュッツ氏が参加し、画面越しにトロフィーが授与されました。なお、今年度のトロフィーは人間の歯でできた「歯車」。パンデミックにより国際郵便としての送付が難しいとのことで、PDFデータとして送られました。
◆生態学賞:道ばたに吐き捨てられたガムに含まれる細菌の変化を捉えた研究
生態学賞に輝いたのは、スペインのレイラ・サタリ氏らによって行われた研究。サタリ氏らは道ばたに吐き捨てられたガムを5カ国から8個回収し、中に含まれる細菌がどのように変化するのかを調査したほか、自分たちでもかんだガムを道ばたに捨て置いて調査しました。この研究から、ガムに含まれる口腔微生物叢が周囲の微生物に取って代わられ、ガムの自然な生分解が行われる可能性や、他の微生物の菌株になる可能性が示唆されました。なお、サタリ氏らはガムをかみながら授賞式に臨みました。
◆化学賞:映画のどのシーンが人間に悪影響を与えるのかを呼気から調査した研究
映画に過激なシーンが使われていることで視聴に年齢制限がかかることがあります。ドイツのヨルグ・ウイッカー氏らは、映画を視聴している人間の呼気から化学物質を特定し、映画に登場する暴力や薬物、性的なシーンなど、具体的にどのシーンが人間に影響を及ぼすのかを調査する研究を、2015年と2018年の2回にわたり行いました。
ウイッカー氏らは正確な年齢制限を行うために化学物質の測定値を利用できることを実証しようと試みましたが、残念ながら確実な分類はできないと結論付けられました。
◆輸送賞:サイを運ぶ時は逆さづりにする方が健康にいいという研究
密猟によりサイの個体数が減少し、近親交配の危険性があったために、アフリカではサイを遠くの生息地に輸送する活動が行われていました。起伏の激しい地形のために陸上輸送は難しく、ヘリコプターでサイを空中輸送する方法が採られていたのですが、この際より安価で簡単な「逆さづり」という手法が用いられていました。
アメリカのロビン・ラドクリフ氏らが、逆さづりという手法がサイにとって悪影響をもたらすのではないかと考え研究を行ったところ、脊椎が伸びることで気道が開いて呼吸量が増えることが分かり、逆さづりはむしろ健康にいいことが判明しました。
◆経済学賞:政治指導者の肥満が政治腐敗と相関しているという研究
大統領や首相など、国のトップが肥満体形であると、賄賂や恐喝などの政治腐敗がはびこっている可能性が高いことを示唆した研究に、経済学賞が贈られました。
この研究を行ったパブロ・ブラヴァツキー氏は政治指導者の医療記録を入手できなかったため、代わりに顔写真を画像認識にかけてBMIを推測。15カ国の政治指導者の肥満度と政治腐敗の推定値を関連付けたところ、2つの間に高い相関関係があることが分かったとのことです。ブラヴァツキー氏は「必ずしも肥満の政治家が肥満ではない政治家よりも腐敗しているとは言えないが、肥満が政治腐敗を評価する指標となる可能性がある」と結論付けています。
◆医学賞:オーガズムが点鼻薬と同じくらい鼻づまりに有効なことを示した研究
オーガズムに達することで体内のホルモン量に変化が生じ、点鼻薬と同じくらい鼻づまりに効果的である可能性を示した研究に医学賞が贈られました。
ドイツのオルケイ・ジェム・ブルト氏らが主導したこの研究では、9組・18人の実験参加者が性行為を行い、オーガズムに達した直後1分以内、30分後、1時間後、3時間後に、鼻腔通気度計を用いて鼻腔抵抗などを測定しました。なお、実験に参加したカップルはすべて片方または両方が医療従事者で、実験はそれぞれの自宅で実施。データはカップルの両方がオーガズムに達したときにのみ取得されました。
研究により、オーガズムが鼻づまりを最大60分間効果的に改善し、3時間かけて通常の状態に戻っていくことが明らかになったとのこと。ブルト氏らは「今後マスターベーションでも同様の効果が示されるのか確認したい。もし効果があることが証明されれば、場合によっては点鼻薬の代わりに使えるかもしれない」と結論付けました。
◆平和賞:人間は人間同士の争いから顔を保護するために口ひげを生やしたのだという研究
古来から人間の男性同士の闘いにおいて、お互いが相手の「顔」をターゲットとしてきたことに目をつけたアメリカのイーサン・ベセリス氏らは、「人間が顔を保護するために口ひげを生やすようになったのではないか」と考え調査を行いました。
ベセリス氏らは口ひげの代わりに羊毛を使い落下衝撃試験を実施したところ、羊毛により衝撃が30%吸収されたとのこと。ベセリス氏らは「口ひげの進化には文化的な側面に加え、生態的な側面も関わってくるのかもしれない」と結論付けました。ベセリス氏らは口ひげを付けて授賞式に臨みました。
◆物理学賞:歩行者が他の歩行者にぶつからないのはなぜかを調査した研究
オランダの3つの駅から500万もの歩行者の経路を調査し、「なぜ人は他人にぶつからないのか」を真剣に調査した研究に物理学賞が贈られました。オランダのアレッサンドロ・コルベッタ氏らは得られたデータを基に、「二体衝突回避」と呼ばれる歩行者モデルを構築しました。
◆動力学賞:歩きスマホが周りの歩行者の通行にも影響を及ぼすという研究
動力学賞が贈られたのは、京都工芸繊維大学の村上氏ら。村上氏らが行った研究で、向かい合った27人ずつがまっすぐ歩行する際、先頭の1人が歩きながらスマートフォンを操作すると、本人だけでなく周囲の人間も歩行の向きや速度が乱れることが明らかになりました。実験の様子は以下の動画で確認できます。
歩きスマホが集団乱す 「相互予期」でイグ・ノーベル賞 – YouTube
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◆昆虫学賞:潜水艦でのゴキブリ退治に有効な薬物を調査した研究
閉鎖空間となっている潜水艦において、有毒な成分を空気中に残さずに艦内のゴキブリを退治するのは至難の業。これを改善しようとして、有効な薬物を調査した1971年の研究に対し昆虫学賞が贈られました。
1971年当時、潜水艦内のゴキブリ退治には、二酸化炭素とエチレンオキシドを混ぜ合わせたガスが使われていたとのこと。しかし、殺虫後に液化したエチレンオキシドは艦内を暖めると再び気化してしまい、艦に戻った1人が中毒になってしまったこともありました。アメリカのジョン・ムレンナン氏は代替品として殺虫剤のジクロルボスを用いた結果、2時間の噴霧と1時間~4時間の換気により、ジクロルボスが艦内のゴキブリを駆除するのに97%~100%有効であることを示しました。
ただし、ジクロルボスは1995年に欧州連合により劇物として指定されたほか、アメリカの環境保護庁も1998年にジクロルボスの使用を制限。その後も「子どものADHDのリスクを増加させる」などの危険性が指摘されることとなっています。なお、授賞式にはムレンナン氏本人が参加しました。
以上の受賞者にはトロフィーと名声に加え、10兆ジンバブエドル(2009年以降使用不可、価値最低時のレートで約4円)が贈られました。
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