2023年の 広告支出 、見通しは「曇天」だが:不景気による不安定な市場を読み解く

DIGIDAY

広告費の低迷は誰もが思っているほど暗いものではないかもしれない。もちろん、筆者は状況が明るいといっているわけではない。オンライン広告業界が持っていた陶酔感は、2022年厳しい現実に突きつけられた。メディア業界全体のレイオフと閉鎖は、その証拠である。

これまでのオンライン広告の急激な成長はどこかで息切れが起きるだろうことは、必然であった。この減速は、市場のかなりの部分で必要とされている、ある種の現実確認を提供している。ただし、オンライン広告支出は成熟しつつあり、データを見ると少なくとも今のところは、慎重ながらも楽観的になる根拠がある。

グループM(GroupM)であろうとIPGであろうと、投資銀行であろうと、エンダーズ(Enders)であろうと、データはすべて同じことを示している。これまでのところ、この減速は、デジタル広告への支出がパンデミック前のトレンドと一致するところまでしか達しないという点だ。

確かに、広告費が2018年と2019年の成長率を下回る水準に減速する可能性はあり、そうでないと考えるには不確実性が大きすぎる。しかし、少なくとも今のところ、広告主の支出は減少するどころか増加し続けている。広告主たちが今、支出を増やさない理由はそれほど多くない。

インフレは広告収入にある程度プラスの影響を与えている

まず第一に、この低迷は以前のようなより大きな現象を引き起こしてはいない。通常、金融危機との関連性の高い失業率だが、英国や米国、オーストラリアのような成熟した市場では低い数字になっている。つまり、より多くの人々が、この不況を乗り切るための経済的支援(雇用)があると感じているということだ。このことは常に、マーケティング担当者にとってはよいことであり、とくに製造コストの上昇による値上げを受け入れるよう人々を説得しなければならない人々にとってはよいことである。

マーケティング担当者が好んでいうように、価格は粘着的であることを忘れてはいけない。一度上昇すると、(あるとしても)すぐに下降することはほとんどない。買い物客が、価格値上げが起きても抵抗しないのであれば、値段を下げる理由はない。仮にもし価格が下がったとしても、それはほんの少しだけとなるだろう。それが通常だ。企業は買い物客に多少の安心を(若干の値下げを通じて)与えることがあっても、広げた利益率を縮めるほどにはならないだろう。

グループMのビジネス・インテリジェンス部門のグローバルディレクターであるケイト・スコット=ドーキンス氏は、「投入コストが上昇した際に、広告主が価格を引き上げて消費者からそれを回収できるようになると、広告支出も増加する。広告支出が収入の割合として予算化されているからだ」と述べ、「インフレが広告収入にある程度プラスの影響を与えていると議論することは可能だ」としている。

そのため、マーケテターたちが慎重になることによる広告費の縮小は明らかであるが、一方でこの広告の減速は、何が削減されたかではなく、広告費がどこに向かったかによってより明確に定義される。

リテールメディアがその好例である。P&Gはすでにメディア支出の約11%をリテール検索に費やしている。英国IABのCMOであるジェームズ・チャンドラー氏は、「ここで費やされている支出の多くは、広告費としてまだ含まれていない買い物客向けマーケティング予算から支出されているため、徐々に増加傾向にある」と述べ、「これは市場に新たに入ってくるお金であり、デジタル広告費によい影響を与えるだろう」と続けた。

経済的な逆風が、広告主に負担をかける

それでも、広告業界にとって未来は明るいだけだ、とはいい切れない。むしろ不安定な時代であるといえる。

人々が不況という言葉を口にしているが、その原因である経済要因を考えてみよう。(プルスルーの効果が薄れたことを超えたレベルで)今年の広告支出は鈍化している。これは広告測定の弱体、配送コストの上昇、オンライン広告価格の上昇、消費者ダイレクト販売企業の顧客ベースが予想よりも少なかったことが重なり合っている。

経済的な逆風は、まだマーケテターたちを直撃していない。しかし、それはいつ起きてもおかしくない。多くの世帯が実質所得の減少に見舞われており、その被害は世帯によってさまざまである。資本コストや、それが中小の広告主にどのように負担をかけるかはいうまでもない。

パフォーマンスエージェンシーのロースト(ROAST)で有料メディア部門の責任者を務めるウィル・ジェニングス氏は、「我々のクライアントのなかに、簡単に一時停止できるメディアで広告を出そうとし始めているところがあることに気づいた。彼らは、お金を投入しても成果がないことがわかれば、パブリッシャーとの取引を全て完了させなくてもよい状況を求めている。ブランドにはまだ予算があるが、キャンペーンの開始と停止に関して、コストに敏感になっている。彼らはお金の使い方についてもっと機敏になりたいと思っている」と述べている。

この記事のためにインタビューされた複数のエージェンシー幹部たちによると、これは2023年の予算会議で生じている主な懸念となっているようだ。シナリオ計画が最優先であるというのがコンセンサスである。マーケターたちは、広告主たちが広告予算を軽く、または積極的に削減した場合、ビジネスにどのような影響があるかを知りたいと考えている。彼らは広告費がどの企業でも、最も責任の軽い予算であることを知っており、物事が悪化した場合には真っ先に削除されることになると理解している。その点でも、今はそうならないことを祈りつつも、最悪の事態に備えて計画を立て時となっている。

次の四半期は、このアプローチが試される、最初のストレステストになるだろう。

不安定な市場を読み解かなければいけない

欧州IABのチーフエコノミストであるダニエル・ナップ氏は「多くの市場で、アップフロント広告契約は、広告主がどのチャンネルに重点を置くかだけでなく、需要の強さを示すよいシグナルとなっている」と指摘した。マーケターたちはこの点で、非常に複雑なシグナルを受け取っている。

インフレを抑えるために金利は上昇し続けるように見える一方で、中央銀行は戦術を変更しようとしているように見える。消費者が困難な状況に取り残されているように見えることもあれば、最悪の事態が可能性として浮かび上がってきた場合には、各国政府が彼らを救済するようにも思われる。

おそらく、最近のテクノロジー業界やメディア業界などの業界全体のレイオフを考えると、大量失業の波が来るだろうが、それと同時に、(少なくとも今のところは)空いた職が埋まらないことへの懸念があることのシグナルも示されている。マーケターはヘッジをかけなければならないさまざまな可能性が存在している状態だ。

[原文:Ad spending forecast: cloudy with a chance of recession

Seb Joseph(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)

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