多くの人にとって、2020年は地獄のような年だった。新型コロナウイルスのパンデミックにより、代理店のオフィスは閉鎖され、従業員はワーク・ライフ・バランスを維持しながらリモートワークのやり方を学ぶことを余儀なくされた。
子供を持つ従業員たちにとっては、仕事とプライベートの境界線はさらに曖昧だった。異例な過酷さを見せた2020年であったが、それでも、今年に入り、代理店たちは例年の業績評価を続けた。匿名を条件に業界について赤裸々に語ってもらう「告白」シリーズの最新版では、代理店で働くアカウント・エグゼクティブでありながら、母親でもある人物に、世界的なパンデミックにおいて企業が何を従業員たちに求めてくるかについて語ってもらった。
このインタビューは読みやすさのために若干の要約と編集を行なっている。
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――2020年のあなたの経験はどのようなもので、ワーク・ライフ・バランスにどのような影響を与えたか?
疲労困憊を引き起こすパンデミック、それに伴うあらゆる事象のせいで、子育てが非常に疲れるものになった1年だった。我々は最善を尽くした。広告業界はもともと、9時5時の業界ではない。誰もがそれを知っているが、それでもほとんどの仕事が夜の6時から午後8時のあいだに完了するように感じ始めた。この時間帯は家族と過ごすためにとっておいたものだったのに、突如、午後6時から8時まで全員がオンラインになるようになったので、突然(家族との時間の)優先順位が下げられることになった。パンデミックのせいで、ここを超えてはいけない、というルールの線を守るのが非常に難しくなった。仕事に使う時間についてのラインを誰も守っていないとき、ほかの人が守ろうとしているラインが見えなくなったり、それを理解することができなくなる、と私は思う。
――雇用主である代理店側は、それらのラインを守るのを助けようとしたか?
いいえ。休憩をとること、休みの日をとることに関しては良かった。最初の6カ月はいろんな方法で我々に許可を与えようとしていたが、それも次第に消えていった。
――業績評価と、2020年のさまざまな事態がそれにどう影響したか?
2021年春、初めて雇用にまつわる凍結が解除され始め、長いあいだ遅れていた昇進や、給与を増やすことができるようになった。個人の(在職期間と)全体的なパフォーマンスが分かっているにも関わらず、「この半年の業績を見てみたところ、まだまだ改善の余地があるのでインフレーション給与補正は与えない」なんて、どうやって言えるのか分からない。(パンデミックのあいだ)いくつもの業績評価サイクルがスキップされたのに、何年も勤務してきたなかで2020年の秋/冬が自分の(従業員としての)価値を決めるのは、公平な評価ではない。
――そのことはあなたにどのような感覚を持たせたか。また、代理店はどう振る舞うべきだったと思うか?
私の業績評価を担当することになった人物が、そのときに唯一見えていたのは大変な事態が起きている場面だった。あまりにも多くの文脈が無視されているのに、それとは完全に切り離された批判的なフィードバックを受け取るのは非常にもどかしいものだった。私の前回の評価で認められた成長や功績は何も考慮されなかった。まるで真逆の評価内容だった。誰もが壁にぶつかっていることを認めるべきかもしれない、と思う。Zoom疲れが起きている。現状のリモートワークには非効率な部分がある。リモートワークを開始して1年が経ち、最高のパフォーマンスを見せられていないのは、私だけなはずがない。(リモートワークは)特にクリエイティブ業界では、(コミュニケーションとコラボレーションを)停止させてしまう側面がある。
――(雇用主が)このような対応を見せることは、この業界でワークライフバランスを維持しようとしている働く親やその他の人々に対して、どのようなメッセージを送っていると思うか?
働く母親を支援するというのは口先だけになっている。母親たちは解雇されるか、会社を辞めざるをえない立場に置かれるか、とにかく最善を尽くし、苦労して切り抜けるしかない状況に置かれた。企業が従業員による仕事を評価し、報酬を与える能力を持っているにも関わらず、キャリアにおいてもっとも困難な1年を切り抜けたあとにその労苦を認めてもらえなければ、惨めな気持ちになる。
働く母親たちのバランスを認識する必要があるのは、トップレベルの役職だけではない。私よりも下の役職についている人々も、私のような状況・地位にいる人々が、彼らの将来の状況をより良い、バランスの取れたものになるための道を切り開いていることを理解すべきだ。この業界では家族を本当に欲しがる人は落胆している。難しいのは、今年は誰もがそれぞれ苦労しているため、リモートワークをしながらも、ほかの人々の存在を可視化したり、共感を持つ能力がなくなってしまっていることだ。
KIMEKO MCCOY(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)