日テレが24時間テレビ強行のワケ – 渡邉裕二

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24時間テレビの会場となる両国国技館

「今年に限っては放送を自粛すべきだと思いますけどね」

放送関係者が、そう言って眉をひそめるのは日本テレビが緊急事態宣言下の真っ只中、8月21、22日に系列局も含め総力を挙げての放送を予定している恒例のチャリティー番組「24時間テレビ44」だ。

同局の杉山美邦社長は、

「寄付金を待っている方が大勢いる」

と、放送することの意義を力説していたが、昨夏、小杉善信前社長(現日本テレビホールディングス代表取締役副会長、日本テレビ代表取締役副会長)も、それと似たような発言をしていたことを思い出す。曰く、

「一度休止すると電動車椅子やリフト付きバス、お風呂カーなどを毎年待っていらっしゃる方々に届けられなくなり、私たちの使命を果たせなくなってしまう。『24時間テレビ』の精神を番組で伝え、視聴者の皆様から寄付を頂き、それをしっかり1円残らず届けることを実現するのが、放送局の使命と考える」

だが、そうした日テレのトップの発言に対して、前出の放送関係者は首を傾げる。

「『寄付金を集めてやっている』という、どこか上から目線的な思い上がりが透けて見えてきますよね。そもそも、このコロナ禍に24時間テレビの寄付金をアテにしているような福祉施設が本当にあるのでしょうか。小杉前社長も吐露していましたが、そもそも日テレが身銭を切っているわけではなく、寄付金を視聴者から集めているに過ぎません。理由はどうであれ究極のチャリティービジネスです」

さらに、両者が「寄付金を集めて届けることが日本テレビの使命」だと断言していることに対しても、

「寄付金を届けることは当然のことですが、リフト付きバスやお風呂カーなどは届けたら届けっぱなしですからね。必要としているところに届けることは重要なことでしょう。ただ、受け取った福祉施設は維持費に行き詰まるところも多いと聞きます。もちろん、日テレも事前にチェックはしているはずでしょうが、燃料費、人件費、車両のメンテナンス…。現実問題として負担がかさんでしまい、頭を抱えることになる施設もあるようです」

視聴者の「善意」が、結果的に無責任な状態で扱われているということにもなりかねない。

ちなみに今回は、福祉・介護施設だけではなく、先の豪雨による被災地となった熱海市に対しても「自然災害緊急支援」として義援金500万円を捻出することを決定している。

しかし、東京五輪を巡っては、ニュースや情報番組でたびたび開催に疑問を投げかけてきたはずなのに、いざ立場が変わると「それとこれとは別」と言うわけだ。

そこまでしてなぜ日テレは「24時間テレビ」にこだわるのか?さる放送作家は言う。

「『24時間テレビは偽善』と批判はありますが、長年継続してきたことは日テレにとって大きな実績とパワーになっていることは事実です。その上、例年15〜18%の高視聴率(ビデオリサーチ調べ=関東地区)を上げていることも大きいですね。特に今年は緊急事態宣言下で、巣ごもり視聴者の獲得を期待している部分もあると思います。連日の五輪中継の高視聴率もそうですが、基本的に日本人はお祭り、イベントが大好きですから、どんなに批判があったとしても『24時間テレビ』のような番組は、放送したら一定の数字を上げられると判断をしているのです」

「ジャニーズ祭り」と化した24時間テレビ

BLOGOS編集部

その一方で、それ以上にやめられない理由として大手芸能事務所、ジャニーズ事務所との関係性を指摘する。

「この20年間、高視聴率の牽引役はチャリティーマラソンランナーとジャニーズに頼っています。今年もメインパーソナリティーにKing&Princeを据えていますが、大阪の読売テレビは関西ジャニーズJrの〝Aぇ!group〟をスペシャル・サポーターに加えるなど、もはや『24時間テレビ』はジャニーズなくしては成立しません。早い話が〝ジャニーズ祭り〟と化しているのです。それで視聴率が取れている時はいいのですが、ジャニー喜多川氏の死後は(タレントも)小粒化していますからね。ジャニーズ頼みの番組作りも今年が正念場になるかもしれません」

系列局の中からは番組進行がジャニーズ頼みになっていることを危惧する声も出始めているという。

 

「嵐までは何とか盛り上げることが出来ましたが、さすが限界に来ているのではないでしょうか。今年もKing&Princeの人気は認めますが、どこか小物感というのは拭いきれませんしね。嵐と比較しても意味はないかもしれませんが」

ここ数年の視聴率を見ても、嵐の櫻井翔、KAT-TUNの亀梨和也、NEWSの小山慶一郎をメインパーソナリティーに据え、石原さとみがチャリティーパーソナリティーに起用された2017年は18.6%だった。

「この時は歴代でも2位という、近年では異例の高さの視聴率でした。番組占拠率も42.4%を記録するなど、初めて40%を超えたのです。営業局も同番組のCMセールスが過去最高になったと大喜びでした。当時は専務でしたが、前出の小杉氏も『テレビメディアの真価が問われている中で素晴らしかった』とコメントしていたほどでした。つまり、いかにチャリティーがテレビにとって優良コンテンツなのかを実感したのだと思いますよ」(スポーツ紙の放送担当記者)

もっとも、その後の視聴率は伸び悩み状態だ。

SexyZoneがメインだった2018年は15.2%にダウンしたものの、2019年は嵐でやや持ち直し16.5%。昨年は、V6の井ノ原快彦、NEWSの増田貴久、Kis-My-Ft2の北山宏光、ジャニーズWESTの重岡大毅、そしてKing&Princeの岸優太の混成で挑んだが、歴代19位の15.5%にとどまる結果となった。

「嵐のパワー頼りだったことは数字を見ても明らかでした。昨夏はコロナ禍で例年のようなチャリティーマラソンを自粛し、私有地で高橋尚子らが『募金ラン』を行うなどの工夫はしていましたが、やはり物足りなさは拭いきれませんでしたね。目立ったのは、24時間テレビスペシャルヒューマンストーリーとして放送した『誰も知らない志村けんさん-残してくれた最後のメッセージ-』だったように記憶しています」(前出のスポーツ紙放送担当記者)

感染者急増でも強行 世界はきっと変わるのか

BLOGOS編集部

7月26日に行われた会見で杉山社長は「東京五輪」の中継について、

「国民のニーズに最大限応えられるように放送することは、民間放送会社の責務」

と述べていた。

「日テレの責務」としないで、敢えて「民間放送会社の責務」としたことの真意が気になるところだが、五輪開会式の高視聴率(56.4%)を意識したのだろう。

「東京五輪を盛り上げ、何としてでも『24時間テレビ』に繋げたいというのが、今の日テレの本音でしょうね。感染対策を強化し、無観客で行うと言っています。恒例のマラソンについての詳細は明らかにしていませんが、昨年と同様のスタイルで考えているのでしょう。

ただ、ここにきて感染者数は日を追うごとに増加の一途を辿っていますし、芸能界での新規感染者数も増えています。もはや感染対策強化でどうこうなる次元ではないと思いますし、それ以上に緊急事態宣言が延長された中での放送というのは、理由はどうであれ無謀だと思いますけどね。協賛スポンサーも判断に悩んでいるはずで、万が一『24時間テレビ』でクラスターが発生したら誰が責任を負うのでしょうか」(週刊誌の放送記者)

今年のテーマは「想い〜世界は、きっと変わる」である。

理想を掲げての「24時間テレビ44」は、果たして「吉」と出るか「凶」と出るか?

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