ブラックホールは、強力な重力により光でさえ飲み込んでしまう天体なので、当然ブラックホールの後ろも観測できないはずです。ところが、この直感に反して「ブラックホールの向こうから放射された光線」が観測されたとの論文が、2021年7月28日に発表されました。論文によるとこの現象は、アインシュタインによって予言されながらもこれまで確認されたことがなかったものとのことです。
Light bending and X-ray echoes from behind a supermassive black hole | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-021-03667-0
First detection of light from behind a black hole | Stanford News
https://news.stanford.edu/2021/07/28/first-detection-light-behind-black-hole/
X-rays can echo and bend around the back of supermassive black holes | New Scientist
https://www.newscientist.com/article/2285207-x-rays-can-echo-and-bend-around-the-back-of-supermassive-black-holes/
今回、「ブラックホールの背後からの光線」を捉えたのは、スタンフォード大学の宇宙物理学者であるダン・ウィルキンス氏らの研究チームです。ウィルキンス氏らは当初、一部のブラックホールに見られる「コロナ」という現象を調べるため、地球から8億光年離れた位置にある「I Zwicky1」という銀河のブラックホールを観測していました。
ウィルキンス氏はブラックホールのコロナについて、「ブラックホールにガスが吸い込まれる際に、数百万度の超高温になることで発生するというのが有力な説です。これほどの高温になると、電子が原子から飛び出して、プラズマと磁場が発生します。この磁場がブラックホールに接近し、その周囲にある物を加熱させると、X線が放射されます」と説明しています。
研究チームがブラックホールのコロナから発せられるX線を観測していたところ、ブラックホールの事象の地平線から約6000万キロメートルのところで、強力なX線バーストが繰り返し発生している様子が記録されました。そこで、研究チームが2回のX線バーストを分析した結果、2回目のX線バーストは最初のX線バーストが弱められたものが遅れて観測されたものだということが判明。このことからウィルキンス氏らは、「2回目のX線バーストは最初のX線バーストがブラックホールの裏側から反射したものだ」と結論づけました。
以下は、今回観測された現象をイラストで表したものです。ブラックホールの周囲では高温のガスが降着円盤を形成しています。
そして、ブラックホールから6000万kmの高さで形成されたコロナから、X線のフレアが放出されます。
そのX線は円盤の手前側で反射されますが……
円盤の向こう側で反射されたものも、ブラックホールの重力によってゆがめられた「反響」として観測されます。なお、このリンクをクリックすると、一連のイラストをGIFアニメーションで見ることができます。
コロナから発生したX線の流れを横から見るとこんな感じ。
ウィルキンス氏は、この現象について「ブラックホールに入った光は出てこられないので、普通に考えると、ブラックホールの後ろにあるものも見えないはずです。しかし、今回ブラックホールの後ろからの放射が観測されたのは、ブラックホールが空間をゆがめて光をねじ曲げるのと同様に、自分の周囲の磁場もゆがませているからです」と説明しました。
また、論文の共著者であるルーク・ブロッサム氏とロジャー・ブランドフォード氏は、「50年前、ブラックホール付近の磁場がどのように振る舞うかを推測していた天文学者たちは、それを直接観測する技術の発展によりアインシュタインの一般相対性理論が実際に確認できる日が来るとは、思いもしなかったでしょう」とコメントしました。
研究チームは今後、欧州宇宙機関のX線観測プロジェクト「Athena(Advanced Telescope for High-ENergy Astrophysics)」を通じてブラックホールの研究を続け、銀河の誕生と形成についての理解を深めていく方針とのことです。
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