ある食べ物について苦手なのだと告白すると
「それが苦手なのは良いやつを食べたことがないからだよ」
と返される。実際言われたことがあるかないかは別にして、あるある的に有名なセリフなんじゃないか。ちょっと嫌味な言い方かもしれない。
「いや、本気で苦手なんっすわ、良いやつでもだめなんっすよ」という尊重すべきパターンもあるが「確かに良いやつ食べたら印象変わるかもな……」と思わされることもあるだろう。
そんな思いをなすの漬物に持つ地主恵亮、羊羹に持つネッシーあやこ、そして ところてんに持つ古賀及子が集まった。
3人がそれぞれ、正座で評判のよいやつを食べる。そういう企画です。この記事で取り上げるのは羊羹!(ご案内役:編集部 古賀)
登場人物
地主恵亮
なすの漬物が苦手なものの、ずっと高いのは美味いよと言われ続けてきた。またとない機会と参加。
ネッシーあやこ
羊羹は絶対に食べられないわけではないが、進んで買うイメージがなく、まるごと買う勇気が今まで持てなかった。大好きな人も多い食べ物なので興味がある。
古賀及子
安いところてんに絶望したのをきっかけに苦手になってしまった。寒天はむしろ大好きなのでちゃんとしたところてんを食べてみたい。
おいしさと自分が別の場所にいた
ネッシー:
最初にまとめちゃうと、おいしいんだろうなーというのはすごく理解できたのですが、なぜか自分は「嫌いじゃないけど、今後も進んでは食べないかも」に行きつきました。
古賀:
おお、それはぜんぜんありますよね、そういうことは。
ネッシー:
おいしさと自分が別の場所にいるんです。でも、こうやって有名で評判の羊羹という文化に触れられて、わーい! という気持ちにさせられました。
古賀:
食文化が知れてわーい! ってわかります。海外の料理を食べてみたい気持ちとかまさにそれで。その存在を知りたいんだ! という。
地主:
味のよしあしと好みは別ですよね。好みじゃなくても好奇心が満たされるということはあると思います!
ネッシー:
そう、だから良い羊羹のことが知れてめちゃくちゃほこほこです。
古賀:
羊羹とか上生菓子(練りきりとか)ってハードコア和菓子じゃないかと思うんですよね。わりとこう、理解が易しいほうでない、和菓子好きがゆく道というか。甘さエンタメというか。
地主:
真っ向勝負、みたいな感じですもんね。
古賀:
ついて来られるやつだけ付いてきな! みたいなお菓子ですよ。ちなみに私は羊羹大すきです。
地主:
同じくです!
ネッシー:
羨ましいです……!
古賀:
でもだからネッシーさんも今日から羊羹、竿で買おうぜ! な? 絶対、な? というものではありませんから! そこは安心して!
地主:
知り合いが土食ってるみたい、って羊羹食べながら言ってました。羊羹好きな人が! そういう人もいますから!
古賀:
どういうフェティッシュの方だろう?
地主:
ネッシーさんはあんこもダメなんでしたっけ?
ネッシー:
あんこ単体は得意じゃないです。あんまんは好きです。あんこが熱いから。どらやきは、皮がおいしいから好きです。
地主:
羊羹は冷たいですもんね!
ネッシー:
常温かつ単体のあんこが得意じゃないみたい、ということが今回はっきりわかりました。
もちもちで「野趣あふれる」追分羊かん
古賀:
今回も推薦いただいたたくさんの羊羹のなかから、声の多かったものを選びました。隠れた名品も気になった~~。
ネッシー:
みなさま情報ありがとうございました! 食べた3品の中で、一番自分と近い場所にあったのがこちらです。
古賀:
ああっ、追分羊かん! 食べたいなあ、もうずいぶん食べていないよ。
地主:
ぼくは食べたことないですね。パケージがいい!
ネッシー:
出すとこんな感じで……
地主:
美味いやつだ。
古賀:
むっちり!
ネッシー:
密度がすごいことになってました!
地主:
詰まってる感じがします! 四角でないのもいいですね。
ネッシー:
自分のことを「言うに言えない静かな風味」と称しているところもいいなぁと思いました。
古賀:
「素朴な野趣」ともある。和菓子の方向性ってたしかに都(みやこ)的な品を追求するか、野趣に振るかですね。
ネッシー:
一口目は、静かで、こっちから味を見つけにいかないと見つからないような奥ゆかしさがありました。食べているうちに、甘さがどんどん積ってきます。羊羹ってそういうものなんですか?
古賀:
追分羊かんは羊羹のなかでも多分ちょっと独特だと思います。一般的には羊羹は一口目からトップスピードですよね。いきなりフルスロットルで甘い、で、ずっと甘い。
ネッシー:
がつんとくるかんじですか?
地主:
ですね、いきなり来ます。チースって。
古賀:
おれおれ!ってね。で、食べ終わってからもしばらく甘い。
ネッシー:
そうなんですね…!
古賀:
追分羊かんはちょっとすあまっぽさがあるというか、優しいですよね。
ネッシー:
確かにすごくもちもちしました。少し団子に近いというか。
地主:
奥ゆかしい羊羹、いいですね!
古賀:
ね! 推薦が多かったのもうなずける。
ネッシー:
はい。話聞いていたら、食べていた時よりも上乗せで好きになってきました……!
英才教育でストレスに強い虎屋の姫様
ネッシー:
続いて、みなさんからのおすすめが一番多かった虎屋の「夜の梅」ですね。
古賀:
これはすごい支持率でしたね……!
ネッシー:
さすが虎屋です。
古賀:
うおっ姫さまですね……。
地主:
箱入り娘!
古賀:
包み紙かっこいいい。超高級、憧れのひと竿……。
地主:
憧れの!
ネッシー:
これ、名前の由来だけでももう最高ですね。
古賀:
わ、知らなかった。
地主:
詩的な由来ですね……。
古賀:
これが夜の梅だったのか……。
ネッシー:
わたしには、どうやっても豆にしかみえず、感性の差異を思い知らされました。
古賀:
羊羹眼鏡をかけると見えるんですよね。
地主:
闇夜に咲いている、と思いました!
古賀:
こうして見ると食べ物としての異常さ感じますね。黒くて四角い。
ネッシー:
めちゃくちゃ黒いですよね。
地主:
黒光!
ネッシー:
虎屋のようかんも、一口目はあまり主張してくる感じではありませんでした! ただそこに「甘さがあります」という感じで、丁寧に作られているんだなぁと実感するような味。
地主:
あ! 小豆にストレスがない感じ?
ネッシー:
なさそうでした!
地主:
やはりストレスですね……!(※なすの漬物回で、食べ物にストレスがないことが美味しさにつながるというスピリチュアル説が出ておりました)
古賀:
だって姫さまですからね、熟練の職人さんがそれはもう上手にめんどうをみて。甘やかし過ぎはせず。
地主:
英才教育してますよね!
古賀:
虎屋の姫様なら、ストレスをためない方法を自ら実践してそう。
地主:
知っていますね!
ネッシー:
味は大好き!とは言い切れなかったんですが、でも、姫さまに会えてよかったなぁと思いました。食べる前からいろいろ魅惑的で、それだけでわりとおなかいっぱいな気分でした!
ひもで切るタイプ、豪族の姫様羊羹、五勝手屋羊羹
ネッシー:
3つめの羊羹は強さを感じました。
古賀:
五勝手屋羊羹! 紐で切るやつですね。北海道檜山郡の、これ、材料が小豆じゃなくて金時豆なんですよね。これまた憧れのひと品。
ネッシー:
「仕送りリレー(各地のライター間で地元の名産を仕送りし合う企画)」で札幌のジーンさんがチョイスしていたこともあって気になってました。「北海道の菓子盆に揃っていがち」って。
でもこれ、実際手にとってみたら勝手がわかってなくて、間違って紐を全部取っちゃったんです。
ネッシー:
「五勝手屋羊羹、食べ方」で検索したら動画がでてきて、どうにか食べられました!
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古賀:
おっつ……? これは……なんかすごいおもしろげに作られている……!? ラーメンズのコントのような……。
ネッシー:
すごくゆっくり進行していくんですが、わかりやすかったです。
古賀:
動画のユーザ名で検索したら五勝手屋羊羹の社員だって出ましたね……あ、いや、6代目の社長さんだって!
地主・ネッシー:
社長!!
古賀:
がんばってらっしゃる……!
ネッシー:
この動画なかったら、ちゃんと食べられていたか自信ないです。
古賀:
社長の気遣いが届いた……。動画、ナレーションがかっこいいですね、「大豆田とわ子と三人の元夫」のナレーションの伊藤沙莉さんみたいな趣。
ネッシー:
あ! たしかに! 伊藤沙莉さんぽいです。
古賀:
うお~~~、これはうまそうだ~。
地主:
透け感がありますね。
古賀:
こういう端っこの部分わくわくするなあ~。
ネッシー:
ここの味、めちゃくちゃ強かったです。たぶんこれぞ和菓子のハードコアなのではないかなという味。がつんときました。
古賀:
マニア垂涎のパーツ、はじっこ。
地主:
サツマイモもはじっこが一番数が取れるらしいですよ。畝の端っこが狙い目です!
古賀:
急な農業知識……!
地主:
羊羹と全く関係ないですが!
ネッシー:
五勝手屋羊羹、味とはわかりあえなかったんですが(一番甘かったです)、こうやって食べる食べ物がこの世界にあるという文化にふれられたのはすごくよかったし、うれしかったです。こんなマーブルチョコみたいなかたちの羊羹があるとは。
地主:
声に出したい名前ですよね!
ネッシー:
言えてよかった五勝手屋羊羹!
古賀:
たしかに、名前のかっこよさがすごい。
ネッシー:
それにパッケージもめちゃくちゃかっこいいです。
ネッシー:
ちなみに、こちらも梱包はこのような様子で。
地主:
広々!
古賀:
これも相当な箱入り娘だ~~っ。
地主:
地方の豪族の娘!
ネッシー:
あ、そんな感じ。虎屋の守られ方とはまた違った感じで興味深かったです!
結論:ライター ネッシーの場合「羊羹」
- かつてから不思議と手がのびなかった
- 評判のものには歴史や風情、風格、それにユニークな食べ方などがあり、体験として豊かだった
- 苦手意識は変わらなかったがとても興味深く、ありがとうございましたという思い
「それが苦手なのは良いやつを食べたことがないからなのか?」 の会