大半のブランドがソーシャルメディア広告費を増やすなか、食品やスパイスを販売するザタレインズ(Zatarain’s)はオーガニック戦略の活用に強気の姿勢を崩さない。
大手食品メーカーのマコーミック(McCormick)傘下で、ルイジアナ州を拠点とするザタレインズは、顧客を獲得し、ブランド認知を向上させる手段として、ソーシャルメディア広告に大金を投じる代わりに、ネットミームやUGCなどのオーガニックコンテンツや重要な文化的瞬間を活用することに注力している。
ザタレインズが特に力を入れている主力のソーシャルプラットフォームは、Facebook、インスタグラム、ピンタレストだ。
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広告だけがデジタルではない
「消費者とつながる最初の接点として、積極果敢にデジタルを活用しなければならない」と、マコーミックでグローバルクリエイティブおよびデジタルトランスフォーメーションを担当するシニアバイスプレジデントのアリア・ケメット氏は話す。「そのためには、純粋にオーガニックな手段を使うことも必要だ」。
ケメット氏によると、その戦略の一環として話題のコンテンツを週単位で調べ、投稿するコンテンツとスケジュールを決めているという。クリエイティブについては、マーケティングエージェンシーのピーターメイヤー(Petermayer)と連携している。ピーターメイヤーはマコーミックの協力を得て、レシピの撮影など、すべてのオーガニックコンテンツを作成していると、同ブランドの広報担当者は述べている。
調査会社のカンター(Kantar)によると、昨年、ザタレインズが使った媒体費は63万ドル(約8,052万円)ちかくのぼるが、2020年の230万ドル(約2億9,396万円)からは大幅に減少している。ちなみに、2019年に支出した媒体費は6万7600ドル(約863万円)だった。なお、カンターはSNSの予算を追跡していないため、これらの数字にソーシャルメディアへの支出は含まれていない。
パスマティクス(Pathmatics)の調べによると、ザタレインズは2021年にFacebookとインスタグラムに推定82万3000ドル(約1億512万円)を投じた。2020年に支出した35万3000ドル(約4,508万円)を大幅に上回っている。同じくパスマティクスによると、2019年の支出額は、Facebookとインスタグラムを合わせてわずか3万9000ドル(約498万円)だった。ケメット氏によると、Facebookとインスタグラムで良い成績を上げるオーガニックコンテンツの背後には、有料広告による後押しがあるという。
フォロワーと双方向の対話を可能に
ザタレインズは地域ブランドだ。ブランド認知を高めるにしろ、多忙な母親というターゲット層にアピールするにしろ、マーケティング予算には限りがあるとケメット氏は話す。当然、マルディグラ(ルイジアナ州ニューオーリンズで開催される世界でも有名なカーニバル)を含め、地元で開催されるカルチャーイベントに備えて、一定の広告予算を確保しておく必要もある。
実際、Facebook広告を担当するマネジャーによると、この2月に開催されたマルディグラでは、シンガーのタンクと組んで「ボールドライクザット(Bold Like That)」というキャンペーンを展開し、Facebookにも広告を出稿したという。
「過度に依存しないというだけで、有料のソーシャルメディア広告をまったく使わないわけではない」とケメット氏は話す。有料広告はパフォーマンスのよいコンテンツのプロモーションに使うという。
最近では、広報やアーンドメディアなどの活用も進めている。さらに、Facebookやインスタグラムのライブ配信も試みているという。「何か訴求力のある施策をやりたいが、それで予算を使い切るわけにはいかない」というときに、このようなチャネルを活用するとケメット氏は説明している。なお、ザタレインズの具体的な広告費は開示されていない。
ケメット氏によると、オーガニックソーシャル戦略をテコに、ザタレインズはフォロワーと双方向の対話を展開できるようになったという。また、SNSのトレンドをいち早く掴み、戦略の修正にもより機動的に対応できるようになった。
コンテンツにコミュニティベースの価値を
ソーシャルメディアはここ数年で大きく有料化が進んだとはいえ、オーガニックソーシャル戦略の価値が失われたわけはない。そう語るのは、ソーシャルエージェンシーのモディフライ(Modifly)でペイドメディアの責任者を務めるブランドン・ビアンカラニ氏だ。
多くのブランドが認知度と売上を伸ばす手段としてソーシャルでの拡散に注力するなか、TikTokとインスタグラムの「リール」は、オーガニック戦略をめぐる議論を再燃させた。それでも、オーガニックが勝利の戦略であるためには、コンテンツにコミュニティベースの価値を持たせなければならないとビアンカラニ氏は述べている。
「(コンテンツの)価値中心は絶対だ。価値をないがしろにするなら、オーガニックソーシャル戦略で成功することはできない」と、ビアンカラニ氏は指摘する。「ユーザーにとって得るものがなければ意味がない」。
ザタレインズは今後もオーガニック中心のソーシャル戦略を継続する考えだ。大金をかけずにオーディエンスとつながる手段として、インターネット上のミームや文化的瞬間を最大限に活用したいという。
「ペイドメディアに頼らず、ストーリーテリングを通じてブランドの真実が伝われば、それは何よりも大切なことだ」とケメット氏は語った。
Kimeko McCoy(翻訳:英じゅんこ、編集:黒田千聖)