こんなワンツーパンチ、生き残っても一生立ち直れないかも…。
温暖化が進むと、米西部では大規模な森林火災の後に大雨が降るリスクが大幅に高くなってしまうという研究結果がScience Advances誌に発表されました。また米西部の森林火災…。
森林火災後に高まる集中豪雨のリスク
カリフォルニア大学サンタバーバラ校などの研究者らがコンピュータモデルを用いて行った新たな研究結果によると、温室効果ガス排出量が増え続ける最悪のシナリオの場合、大規模な森林火災から1年以内に同じ地域で集中豪雨が発生するリスクは、2100年までに米北西部では8倍に、カリフォルニア州では2倍に、コロラド州では50%増加するそうです。温暖化が進むと、火災が起こった地域では、90%の確率で5年以内に少なくとも3回は集中豪雨に見舞われる可能性があるとのこと。
研究者は、研究当時には使用できなかった中間的なシナリオだと、北西部で火災と洪水が発生するリスクは4倍になると話しています。8倍よりは4倍の方がいいとはいえ、当事者になってしまったら、そんなの関係ないですものね…。
森林火災後の豪雨は鉄砲水と土砂崩れの原因に
森林火災後の集中豪雨は、鉄砲水や土砂崩れが起こりやすくなるから怖いんです。森林が燃えると、木だけじゃなく低く茂っている草木もなくなって、表面や土壌の状態も変わって不安定になります。土壌や植生が回復しきれままで大雨が降ると、流されやすい草木の燃えかすや水分を蓄えられない土壌が表層にあるため、鉄砲水や土砂崩れのリスクが高まるんです。このことは、米政府の関連機関も広く注意を呼びかけています。
そしてすでに米西部では、これが現実問題になっています。2018年には、カリフォルニア州モンテシートで大規模な森林火災の1カ月後に集中豪雨による土砂崩れが発生し、23人が命を落としました。物的損害額は4億2100万ドル(約450億円)だったそうです。また、コロラド州のプードル・キャニオンでは、2020年に発生した同州最大といわれる森林火災から約8カ月後に大雨に見舞われ、鉄砲水によって3人が亡くなっています。
温暖化が森林火災も集中豪雨も連れてくる
温暖化と聞くと、暑くて乾燥した状態を思い浮かべますよね。去年、米西部からカナダ西部にかけて起こった、温暖化によって150倍も起こりやすくなっていたとんでもない熱波なんかが代表例だと思います。空気が乾燥すると、森林火災は激甚化しやすくなります。
でも、森林火災と集中豪雨はコインの裏表のようなもので、気温が上昇すれば、海や川、土壌や植物などからより多くの水分が蒸発します。気温が1度上昇すると、大気中の水分は7%以上増えると考えられていますが、どこかで蒸発した水分は、どこかで雨として降ることになります。気温上昇によって乾燥して森林火災が深刻化しやすくなった地域に大雨が降るのは、決して不思議なことではないんです。今回の研究は、温暖化が激しくなれば、森林火災と集中豪雨のワンツーパンチが起こりやすくなる地域が出てくる可能性を示したといえます。
温暖化と森林火災の無限ループ
ここ数年、森林火災と温暖化の関係についての研究結果がよく発表されるようになりました。森林火災で排出されるブラウンカーボンが北極の温暖化を加速させ、北極の海氷が解けると米西部の森林火災が深刻化しやすくなっている研究についてギズモード・ジャパンでも取りあげました。
つい最近、アメリカで森林火災が発生する頻度と焼失面積が増えているという研究結果が発表されています。出火原因の84%が人為的とはいえ、温暖化によって火災が「ひとたび発生すると激甚化しやすくなっている」ことは深刻に受け止めないとですよね。
そこには必ず人々の生活が
もしも自分の身に起こったら…と考えるとゾッとします。マイホームにしろ賃貸にしろ、森林火災で燃えてしまって保険に入っていなかったり、家主が再建を断念したりすると、戻れる場所がなくなっちゃいます。半焼でも保険がなかったら修繕できないでしょうし、家財道具を一式揃え直すお金がなければ生活の再建は難しい。職場が燃えて、オーナーがビジネスをあきらめたら住む場所も仕事も失うことになります。車まで燃えたら通勤も買い物もできません。で、そこで被害がないか、損害をなんとかやりくりして立て直してやっとこれからというときに、鉄砲水や土砂崩れでなにもかも失ってしまったら…。これがリアルになってしまった人や、これからリアルになる人が出てくるなんて、当事者にとってはディストピアじゃないですか。
希望があるとすれば、今回の研究結果は気温が約4.5度上昇する最悪のシナリオだったこと。研究結果が示す未来は、まだ避けられます。温暖化は未来の問題ではなく、いまここにある脅威。被害者になる前に、人々の間にそういう認識が広がれば、対策も加速するような気がします。いや、加速させないと、です。
Reference: Science Advances (1, 2), AP, FEMA(米連邦緊急事態管理局), US Army Corps of Engineers(米陸軍工兵隊), 米国立気象局, USA Today, JAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)