劇的に銃撃事件を減らしたとされるオーストラリアの妙策とは?

GIGAZINE
2022年05月26日 16時00分
メモ



2022年5月25日、アメリカ・テキサス州にある小学校で銃撃事件が発生し、生徒と教師合わせて21人が死亡しました。この事件を受け、海外メディアVoxのザック・ボーシャン氏は「1990年代後半にオーストラリアがとった方針に着目する価値がある」として、銃器による殺人を7年間で40%以上減らしたとされるオーストラリアの策を紹介しています。

Australia confiscated 650,000 guns. Murders and suicides plummeted. – Vox
https://www.vox.com/2015/8/27/9212725/australia-buyback

1996年4月28日、オーストラリア・タスマニア島の観光地、ポート・アーサーにあるカフェでマーティン・ブライアントという男が半自動小銃を発砲。カフェにいた人々を次々に射殺し、その後も場所を変えて発砲を続け、最終的に35人を殺害しました。その後ブライアントは警察に逮捕され、仮釈放なしの35回の終身刑を宣告されました。この事件はのちにポート・アーサー事件と呼ばれ、オーストラリアの歴史に残る悲惨な事件として知られるようになりました。

当時のオーストラリア首相であったジョン・ハワード氏は、事件後速やかに国内の銃規制を提唱。党と州の両方を説得して、全国的な銃規制法の抜本的改革に同意するよう求めました。事件の1カ月後には全国銃器協定が起草され、国内で所有されているすべての銃に登録の義務を課し、新規の銃器購入にはすべて許可証や免許を必要とし、銃器携帯のためには自己防衛を含まない「真の理由」を証明する必要があるとしました。

ボーシャン氏は、オーストラリアが定めた協定の中でも最も重要な規定の1つは「自動小銃や散弾銃など、特定の種類の銃の所持を全面的に禁止したこと」だと指摘しています。

オーストラリアは登録義務や免許携帯などの規制に加え、国民が所持する特定の銃の強制的な「買い取り」を実施。上記協定で違法とされた銃を国民から回収する代わりに、公正な価格を支払うことで対応しました。また、すでに違法とされていた銃を手渡した人には補償こそ与えられなかったものの、所持していたことを罰さないという法的な恩赦が与えられました。

このような強制的な買い取りが国民からの反発を引き起こすのではないかと懸念されたものの、ハワード氏は銃規制の反対を訴える人々の前で防弾チョッキを着て演説を実施。幸いなことに暴力沙汰は発生しませんでした。この買い取りにより、合法的に所有されていた約65万丁の銃が平和的に押収され、その後政府の手により破棄されました。ある調査によると、この数は当時オーストラリアで個人所有されていた銃全体の約20%に相当するとされています。

by Dagny Gromer

2011年、ハーバード大学のデビッド・ヘメンウェイ氏らがオーストラリアの銃規制によって銃による自殺や殺人の数がどのように変化したのかを調査した研究を(PDFファイル)精査したところ、規制後7年間のオーストラリアでの平均銃器自殺率が、規制前と比較して約57%減少していたことが明らかになったとのこと。また、平均銃器殺人率は規制前と比較して約42%減少していました。

規制前にオーストラリアの殺人率が減少傾向にあったため、完全に規制のおかげとは言えないそうですが、最も多く買い取られた種類の銃器による死亡が大幅に減少していたこと、買い取り率が高い州ほど死亡率が低かったこと、規制直後の2年間が1915年からの100年間で最も殺人率の低下が著しい2年間であったことなどから、規制が殺人・自殺の減少に与えた影響は大きいとヘメンウェイ氏らは論じました。

ただし、2021年にシンクタンクのランド研究所メタアナリシス行ったところ、規制が銃による暴力の減少に貢献していることを特定するのは非常に難しいことが分かったとのこと。特に殺人事件においては、規制が大きな影響を及ぼしたという大きな証拠は見つかりませんでした。それでも、ランド研究所は「最も強い証拠は、規制が銃器自殺、大量殺人、女性殺人被害者の減少を引き起こしたという主張と一致している」と記しています。

この記述について、ボーシャン氏は自身の理論を展開しています。まず、自殺はしばしば衝動的な選択であり、一度試みると繰り返されないことが多いこと。銃は殺人に特化して設計されているため、カミソリや錠剤を使った自殺未遂よりも、銃を使った未遂の方が成功しやすいこと。そのため、銃へのアクセスを制限すればそれぞれの試みが失敗する可能性が高くなり、その結果人々が生き延び、再び自らを傷つけることを試みなくなる可能性が高くなるとボーシャン氏は指摘しています。

また、女性の被害者減少についても「女性は家庭内暴力の一環として男性のパートナーに殺害される可能性が不当に高いです。殺人に特化した武器を利用できる加害者は、そうでない場合よりもパートナーを殺害する可能性は高いでしょう」とボーシャン氏は述べています。

銃乱射事件も一部の個人によって行われる極めてまれな事件であり、銃の入手可能性を低くすることで事件発生を抑えられるとボーシャン氏は指摘。2018年の調査によると、オーストラリアで発生した5人以上が死亡する銃撃事件はポート・アーサー事件前の18年間で13件だったものの、事件後は1件にまで減少したことが示されており、ボーシャン氏はこれらのことから「多くの文化的、政治的な違いがあるため、オーストラリアの教訓が必ずしもアメリカに当てはまるとは限りませんが、銃による暴力とそれを抑制する方法を考える上で、オーストラリアの銃規制や規制による変化は注目に値すると思われます」と述べました。


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