聖地巡礼をしてみたい。
宗教的な意味合いから離れた、好きな漫画やアニメの舞台となった地(聖地)を訪れる方の聖地巡礼。
醍醐味といえば、好きな作品のあの場面、あの地に自分がいるぞという、ふたつの世界が交わる瞬間だ。
聖地巡礼のあの興奮は、どんな本でも成り立つのだろうか。例えば図鑑とか。
聖地巡礼をしよう、図鑑で
今回のテーマとなるのは、「街なかの地衣類ハンドブック」。なんとなしに選んだ本だったが、開いてみると、わたしの住むつくば市の出番がなぜかやたらに多い。
ハンドブックに掲載された62枚の写真のうち、なんと21枚がつくば市内で撮影されたものだ。
地衣類そのものは全国どこにでも分布しているのに、これだけつくば市の写真が多いということは、何かつくば市が重要な鍵を持っているのだろうか。
これは…!!猫の背筋を撫ぜたときみたいなぞわぞわした感覚がやってきた。わたし、この場所知ってるぞ!
本のなかの景色が、バーンと立ち上がってくるような、静かな興奮。さっそくひとつめの聖地を目指し、外に出た。
図鑑で聖地巡礼 わかったこと①
本の中に知っている場所があると興奮する
地衣類から知る、道端に潜むちいさな生きもの
そもそも地衣類ってなんなのよ?そうお思いの方も多いでしょう。
昔々はどちらもひっくるめて「こけ」と見なされていたらしく、地衣類の学名にも〇〇ゴケ、と呼ばれるものがたくさんある。
「こけ」をよくよく拡大してみてみたら、ひとつの植物として生きる「コケ類」、ひとつのからだに藻類と菌類の、二種類の生きものが共生している「地衣類」があることがわかったのだそう。
ほうほう、とハンドブックを読みながら歩くと、学研のひみつまんがシリーズを思い出す。
ハンドブックの登場人物として、ページからページへ案内されている気分だ。
ここがあの場所だー!!と盛り上がったのは一瞬で、高揚した気持ちはすぐに吹き飛んでしまった。何やら様子がおかしい。
写真では全面にびっしり育っていたロウソクゴケが、すっかりいなくなってしまったのだ。
ハンドブックによると、地衣類が樹木を弱らせ枯らす原因だと誤解され、高圧洗浄などで洗われてしまうことも少なくないそう。
洗われちゃったのか……
訪れた歴史の名所がペカペカに塗り直されていたときのような、寂しい気持ちがある。
図鑑で聖地巡礼 わかったこと②
・歩きながら本を読み込むと、本の登場人物になったような気持ちが味わえる
・聖地の姿が変わってしまうと悲しい
茨城ローカルチェーン店から聖地を特定せよ
さて、次の写真からはこれといった目立つ建物がないため、聖地の特定のハードルがぐんと上がる。
あ!思い出した!!「これ、ばんどう太郎だ!!」
「うわ、確かにこれはばんどう太郎だわ」「一度見えたらもうばんどう太郎にしか見えない」「第2駐車場があるばんどう太郎ってこと?」「結構大きな通りの店かもね」
ふたりして一気に気持ちが高ぶり、推理が止まらない。これこれ、これだよ、聖地巡礼に求めていた興奮は!
おー!!思わず歓声が上がった。今度こそ、地衣類もびっしり元気なままだ。
この ヒー! は、ぶつぶつ!とかきもちわるい!とかのネガティブな ヒー!ではない。
いつも見てて、いつも通り過ぎる場所が、こんな複雑なことになってんだ!という驚きのヒー!なのだ。
「この写真撮ったひとは、ラーメン食べて店出たときに、いいじゃんて思って撮ったのかね」
「そう思うとなんか親近感が湧くね」
図鑑で聖地巡礼 わかったこと③
・聖地を自分で特定できると楽しい
・著者がなぜこの場所を選んだのか、想像するのもいい
聖地よ永遠なれ
そろそろ日が暮れてきた。もう一つくらい行きたいねとページをめくるも決定打に欠ける写真が続く。
どことなく学校の施設のような雰囲気があり、とすると、おそらく筑波大学のどこかなのだけど………。
事の真相を確かめるべく、我々は早速筑波大学に向かった。
これまで、あちこち聖地を巡るうち、歩くときの心持ちが変わっていることに気づく。
全部ひとくちに汚れだと思ってたものの解像度が上がっていくのはなかなかおもしろく、世には名前がついているものがあまりにも多すぎるなと改めて感じ入った。
地衣類の成長速度は遅く、速くても年間2〜6mm、種によっては0.1mmにも満たないこともあるのだそうだ。
誰かに洗われない限り、いつ訪れても(肉眼では)変わらない姿を見せてくれる地衣類、聖地巡礼ビギナーにはうってつけの題材なのかもしれない。
図鑑で聖地巡 でわかったこと④
・自分の世界のことを本の世界の目で見るようになる
・聖地特定→巡礼の経験を重ねると感動よりも推理の答え合わせのような気持ちになる
教科書の聖地巡礼=修学旅行か
検証の結果、図鑑であっても、聖地巡礼を味わえることがわかった。
歩きながら本を読み込めば、内容もよく頭に入ってくるし、著者に親近感もわくし、いいことずくめだ。学校なんか飛び出して、教科書の聖地巡礼をしたら楽しいんじゃなかろうか。……これが修学旅行か?!
「街なかの地衣類ハンドブック」
大村嘉人 著 文一総合出版