ロシアの誤算 隣接国が敵陣へ – 舛添要一

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 ウクライナでは、ロシアの軍事侵攻により、多くの犠牲者や被害が生じており、150万人以上が国外に避難した。停戦交渉は続いているが、ロシア軍の即時撤退を求めるウクライナと、ロシアの主張は真っ向から対立しており、妥協点を見出すのは簡単ではない。

 プーチン大統領は、ウクライナの中立化、非武装化、つまりNATOに加盟しないことを求めており、これが満たされない限り、軍事作戦を続けると強硬姿勢である。

 一方、アメリカは、主権国家がどの同盟に参加しようが、それは自由であるべきだという立場を堅持している。隣国が敵陣のNATOに加盟し、そこにアメリカのミサイルや核兵器が配備されることは、ロシアにとっては安全保障上、許容できない危機であるというのがプーチンの主張である。

 1962年のキューバ危機のときに、自分の庭先にソ連のミサイル基地ができるのは容認できないとして、海上封鎖で対応したケネディ大統領の主張と同じである。この問題は、フルシチョフが基地建設を止めたために片付いた。今回妥協すべきは、アメリカであるというのである。

 1989年のベルリンの壁崩壊、1991年のソ連邦の解体以降、ワルシャワ機構軍に加盟していた東欧諸国はNATOへの加盟を急いだ。また、ソ連邦に属していた15の共和国は独立国家となり、バルト3国はNATOに加盟した。隣接国のこれ以上のNATO加盟は認めないというプーチン大統領の意に反して、ウクライナは加盟を狙っている。

 プーチンの軍事行動は、北欧諸国にも影響を与えている。ノルウェーやデンマークは1949年のNATO発足以来の加盟国であるが、スウェーデンは中立政策、フィンランドは米ソ冷戦下ではフィンランド化と呼ばれるソ連寄りの外交政策を堅持した。

フィンランドについて言えば、ソ連邦の崩壊で、フィンランド化は終わったが、それでも反ロシアの姿勢はとらなかった。「冬戦争」(1939年11月〜1940年3月)などソ連と戦火を交えた経験が、そのような慎重さを生み出したのである。スウェーデンもフィンランドも1995年にEUに加盟したが、NATOには加盟していない。

 それは地政学的配慮からであるが、ウクライナへのロシアによる武力威嚇を見て、今年の初めにフィンランドのニーニスト大統領はNATO加盟という選択肢があることを明言して、ロシアを牽制した。スウェーデンでも、ロシアの傍若無人の軍事侵攻に対してNATO加盟論が議論されている。

 そして、ウクライナに続いて、ジョージアとモルドバもEUに加盟を申請した。いずれも、旧ソ連邦の一員でロシアの隣接国である。同じ隣国のフィンランドや中立国のスウェーデンはEU加盟済みで、NATO加盟すら考え始めた。

 プーチンの侵略行為は、予期せぬ皮肉な結果を生みつつある。これもプーチンの誤算である。

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