普及しないオンライン診療②:星新一に学ぶ

アゴラ 言論プラットフォーム

前回の記事(普及しないオンライン診療①:誤診を恐れる医師)では、オンライン診療が普及しない要因の一つとして、「誤診」を挙げました。

誤診の原因は、患者の「過去」情報を共有できない日本独特の環境。そして、患者の「今」の状況把握が難しいオンライン独自の問題がありました。

今回は、オンライン下での「今」の状況把握方法と、制度設計について考察します。

Tumisu/Pixabay

患者の「今」の情報を把握するためには

どうすれば患者の「今」の状況を把握できるのか。

SF作家の星新一氏は、50年以上前に解答を出しています。

「なんだか腹ぐあいが変で、気分がすぐれない。ひとつ診察をしてもらうかな」

-中略-

主人は電話台の横のいくつものボタンのうちのひとつを押し、台から診察器を出し、自分のからだに当てた。電子的な装置で体温がはかられ、脈も測定され、それは病院へと送信された。

ボタンを押しなおすと、通話はもとにもどった。女の声が指示を読む。

「コンピューターによる診断の結果を申しあげます。たいした症状ではなく、ご心配なさることはございません。ただの消化不良でございましょう。食後には消化剤をお飲み下さい。もし、一週間たって、それでも異常がつづくようでしたら、病院までおいで下さい。くわしい診察をいたします……」

「ありがとう。いちおう安心したよ」

主人は電話を切った。彼の表情ははれやかなものになった。

〜声の網(1970年) 星新一より〜
星新一公式サイト-作品一覧-

これは、オンライン診療そのものではないでしょうか。

患者の自宅にある測定機器を用いて、簡易検査を実施。そのデータを送信し、コンピュータが診断を行う。

これを実現している企業があります。イスラエルのタイトーケア(Tyto Care)です。

タイトーケアは、スマートフォンと組み合わせ検査できる“リモート検査キット”を開発。

手持ちサイズの端末と、聴診器や耳用内視鏡など測定アタッチメント(付属装置)を組み合わせ、患者自身が肺や心臓・喉・耳・皮膚・腹部などを測定する、というもの。測定データはネットを通じ、リアルタイムで医師と共有されます。肺の音の測定性能が高く、コロナ患者の診察にも活用できるとのこと。

オンライン診療下における「患者の『今』の情報把握」が大きく進歩した、と言えるでしょう。

ベスト・バイ(アメリカ本社 世界最大の家電量販店)のレビューは、

「このデバイスを使用して、医師の診察を受けることができ、娘の薬を地元の24時間薬局で処方してもうらことができた」

「医者に行く前に、高い精度の自己診断が可能です。すべての若い親世帯に、所有することをお勧めします」

など、家庭での所有を進めるものが多く、おおむね好評のようです。

国内でも、オムロンが、医療機器認証を取得した腕時計型血圧計(※7)や、Bluetooth通信機能搭載パルスオキシメーターを発売するなど、リモート検査対応機器が増えつつあります。

“問診”だけでは、「現在」の患者の情報の獲得が難しい。しかし、進化したIT機器を活用すれば、情報不足を補えるはずです。

実情に応じた制度設計を

タイトーケア事業開発担当 エヤル・バーム氏は以下のように述べています。

「数年以内に、“よくある症状”については遠隔医療が一般的になるだろう」
(タイトーケア事業開発担当 エヤル・バーム氏)

遠隔医療 先端走るイスラエル|朝日新聞 2021年8月22日

では、“よくある症状”以外、とはどのようなものでしょうか。

筆者の持病が該当するかもしれません。筆者は、年に数回持病で通院しています。この病院では、かなり以前からオンライン診療に対応しています。しかし、利用する患者は多くありません。なぜか?

検査が必要だからです。

採血は看護師が行います。こういった検査はオンラインでは対応できません。

病や診療科により診療方法は大きく異なります。当然、全ての科がオンライン対応できるわけではないのです。

前述の板橋区医師会のアンケート結果(※2)でも、

「視診、問診のみで診断可能な標榜科、疾患に限ってのみ可能とすべき。実際に、計測・採血等が必要な疾患に関しては、無理がある」

と、検査がハードルになるという意見や、

「皮膚科:触診や接近・拡大して視診、検体採取し顕微鏡検査などが必要」
「小児科:急性疾患が多く、患児の活気、顔色、呼吸状態などを画面上で判断するのは困難」
「耳鼻科:咽頭、喉頭、鼻腔、耳等実際に診察しないと判断できない疾患が多く、導入は難しい」

といった、科それぞれの診療方法にそぐわないケースを訴える意見が散見されます。

一律にオンライン診療普及を促すのではなく、実情に応じた制度設計を行う必要があります。

最新医学とテクノロジーの活用を

前記事の冲中重雄東大名誉教授が、「誤診率14.2%」と述べたのは1963年のこと。その7年後の1970年に、星新一氏の「声の網」が出版されています。

それから51年経った現代。医学は進歩し、SFは現実のものとなりました。

医学とテクノロジーを駆使し、ぜひ的確な診断をしていただきたいと思います。

【参考】
遠隔医療 先端走るイスラエル(朝日新聞 2021年8月22日)
※2 電話診療・オンライン診療に関するアンケート結果 板橋区医師会
※7 オムロン この血圧計は、実際に腕時計のバンド内側が膨んで計測するもの(オシロメトリック法)。
腕時計型で想定超える人気 オムロンは血圧計の何を変えたのか:日経クロストレンド
Bluetooth通信機能搭載で、測定結果をスマートフォンアプリで管理オムロン パルスオキシメータ HPO-300T | ニュースリリース|企業情報|オムロン ヘルスケア

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